第13話

「それで畑を......」 


 そうリディオラさんが言う。


 パンの仕込みを終えたので、放置された畑で、ぼうぼうに生えた雑草をかっていたら、リディオラさんが訪ねてきた。


「ええ、近くに川もあるし、井戸もある。 畑に小麦を植えて......」


「ピィィィ!!」


「ち、ちが! むぎゅう!」


 またこむぎにだきつかれる。


「なるほど...... 私もお手伝いしましょう」


「えっ? でも」


「いいのです。 王女からも手伝うようにいいつかっておりますから」


「王女さまがなぜぼくにここまでしてくれるのですか?」


(もふりたいからかな?)


「あなたには迷惑かもしれませんが、王女には民以外の味方が少ないのです。 おそらくあなたに助力することで、必要なとき力を借りようとしているのかもしれません」


「なるほど、そんなことせずとも、ぼくは何かあればお力をおかししますよ。 よくしてくださいますし」


(枕にしようとする以外は......)


「そういっていただけるとありがたい」


 そうリディオラさんが微笑んだ。


 それから販売にいくまで、仕込みと畑の整備をして、町へと販売にいった。 帰るとまた畑の整備をつづける。


 三週間後、なんとか畑にうねをつくった状態になった。


「この鋼のような爪があるから、クワより草をとるのも土を耕すのも簡単にできた」


「ピイピイ」 


「そうそう、こむぎも手伝ってくれたっけ、ありがとう。 リディオラさんも、あとは種を植えて、増やすだけだ」


(ここは温暖で湿度も低い、多分小麦が育つはず......)


 土のうねに二、三粒ずつすべての種をうえた。


(どこが妥当かわからないから、端からの浅く、中間、少し深くにうえておこう)


「もともとここは畑だった。 土壌も悪くはないはず」


(確か、酸性だと土に栄養がとられるから、カルシウムとかでアルカリ性質にしないといけないんだっけ、あとカリウムとかリン、窒素が必要らしいけど...... 貝殻とか卵の殻とか、あとで手に入れよう)


 貝殻はあまりなく、卵の殻を代用につかって、二週間もほどたった。 見ると芽や毛のような根っこがでる。


「よし! 芽がでた!」


「ええ! 育ちそうですね!」


 リディオラさんが喜ぶ。


 一ヶ月たつと芽が育ち、葉っぱが四枚ほどになった。


(どうやら中間が一番そだってるかな。 つぎから中間にうえよう)


「えっ!? なにしてるんですか!」


 いつの間にか見に来ていたリディオラさんが驚いている。


「ええ、麦踏みです。 こうすると葉っぱに傷ができて、より成長するんです」


 ぼくは近づいてそうつたえた。


「そ、そうなんですか、知らなかった」


(まあ、ぼくもうろ覚えだけど......)


「それで今日は...... あれ?」


 フードを被り顔を隠した人がとなりにいる。 


「まさか......」



「やはり、王女でしたか」


「ええ、どうしてもくると言い張って」


「はぁぁぁあ、なにこれ、なにこれぇ! 柔らかいぃぃ!」


「ピィ?」


 来てすぐ王女はこむぎに抱きついて興奮していた。


「王女はしたないですよ」


 リディオラさんは羨ましそうにそういった。


(でもリディオラさんもここにくると、こむぎに抱きついてたからな。 王女の手前、そんな感じをおくびにもださないけど......)


「そ、それで今日はどのようなご用でしょうか?」


「少しお願いにきたのよ」


「お願いですか......」


「ええ、じつはね」


 アシュテア王女の話では、ある商人の悪事の尻尾をつかんでほしいとのことだった。


「その商人が悪いことをしているんですか?」 


「ええ、賭博、違法魔法薬の販売、他にもかなりの悪事をしているらしいのです」


 リディオラさんもそう補足する。


「......でもぼくにそんなことできますか?」


「本来なら私がやるんだけど......」


「だめです!」


 リディオラさんが注意した。


「解決すれば、ある魔法を教えてあげるわ」


「ある魔法?」


「植物操作の魔法よ。 君、小麦の栽培をしてるそうね。 でも小麦の栽培は大体一年はかかるはず、それを短縮できるわよ」


「なるほど! んー わかりました。 なんとか調査してみます」


「ええ、お願い。 さて......もちろん、ゴールデンバードだけじゃなく、君のことも忘れてはないわよ」


「えっ?」


 そういうと王女は手をわきわきしながら飛びついてきた。 体中をもふりだした。


「ま、まってください! も、もふらないで!」


「お止めくださいアシュテアさま!」


 そんなことがあって、ぼくは依頼をうけることにした。 

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