第11話
「それが、これですか......」
そう見上げながら、リディオラさんはうなづく。 モンスターはぼくに抱きついたまま、家までついてきた。
「ええ、あれからついてきちゃって、というか離してくれなくて。 どうもこの大きさで赤ちゃんのようなんです」
「ですね。 あれから帰って王女に聞いたのですが、おそらくそのモンスターは岩ではなく、【ゴールデンバード】という種類のモンスターなのではとのことです」
「ゴールデンバード......」
「はい、本来もっと南の寒い地方にいるらしいのですが......」
リディオラさんはそのあとをいいづらそうにしている。
「えっ? どうしたんですか?」
「王女は『報酬は与えるけど、その子の面倒を見なさい』とのことです」
「ええ!? この子をぼくが!」
「ええ、どうやらヒナなのでほっておくと寂しくて、あばれるかもと、多分木こりたちはそのせいで追いかけられたらしいのです。 あとは、魔力を隠す特性があるとのこと」
「それで感知できなかったのか...... で、でも、こんな大きな鳥...... どう飼えば」
「まあ、賢くおとなしい、ホーリーモンスターというモンスターで、危害を加えなければ安心です。 パンも食べられるはずですので、与えてみましょう」
そういわれてつくったパンを小さく割って与えてみた。
「ぴぃぃ!」
大きな口で美味しそうについばんでいる。
「結構硬いのに、パクパク食べるな。 赤ちゃんだし、ほっとくわけにもいかない。 なんとかしよう」
「この茶色は泥ですね。 まずこの汚れをなんとかしましょう」
そういうと、リディオラさんは呪文を唱えはじめる。
「清浄なる霧よ。 穢れをおとしたまえ。 クリアミスト」
リディオラさんが唱えると、霧のような水がぼくたちを洗い流した。
「うっぷっ」
(ネコなのに水は平気だな)
「はわっ!」
リディオラさんが声をあげた。
ぼくを包んでいる羽が泥汚れがなくなると、ふかふかになり、黄金色の色の羽毛をしている。 上をみると、ゴールデンバードはぼくより大きなヒヨコのような姿をしていた。
「ほわっ!」
ぼくもつい声がでた。
「ぴぃ?」
「な、なんかかわいいですね...... 柔らかそう。 少しさわってもいいでしょうか」
「あっ、はい、多分」
リディオラさんはおそるおそる手をのばし、ゴールデンバードの体に触れた。 ゴールデンバードはいやがる素振りもしなかった。
「ふぁぁあ」
リディオラさんは吸い込まれるように、そのもふもふの羽毛の中へ入っていった。
「な、なんて柔らかさ...... これは」
興奮気味にリディオラさんは羽毛に顔をうずめた。 不思議そうにゴールデンバードはそれをみて首をかしげている。
(もはや虜だ...... とはいえ気持ちは...... わかっ......)
ピイピイとなく声で目が覚めた。 眠ってしまったようだ。 夕日があがっている。
「しまった! 気持ちよすぎて寝てしまった。 リディオラさんは...... いない」
とりあえずゴールデンバードにパンと水を飲ませた。
「ぴぃ!」
羽をぱたつかせて喜んでいるようだ。
「良かった気に入ってくれた。 あっ、メモだ」
それはリディオラさんからだった。 王女から詳しく生態を聞いてみるとかかれていた。
「食べ物とか生態とかわからないからな。 助かる。 さて、この子...... 名前はどうしようか」
ゴールデンバードは器用に翼を使いパンを取って食べている。
(器用だな。 賢いといわれるだけはある。 名前...... ヒヨコ、ピヨピヨ、ピイピイ、パン、ライ麦、小麦、こむぎ......)
「よし! こむぎにしよう! こむぎ!」
「ピィピィ!」
答えてくれたので、名前をこむぎにすることにした。
それから明日のために生地を寝かせ、酵母もつくっておく。
「明日にでも商業ギルドにいって許可申請をしよう。 ふぁ、あれだけ寝たのに、まだ眠いな...... ネコの体だからかな」
ベッドは小さいので外へとだして、シーツをしいて、こむぎのそばで眠った。 くっつくとその羽毛は暖かく、すぐに眠りについた。
次の日、ついてこようとするこむぎをリディオラさんに任せて、町へとやってきた。
「えっと、ここが商業ギルドの本部か」
リディオラさんから聞いていた大きな建物にはいる。
受付で申請書を書き供託金をはらう。
「審査には数日かかりますが、おそらく許可されますので、販売はいまからでも結構ですよ」
「ありがとうございます!」
(よし! これで販売できるぞ!)
帰りに荷車とライ麦の粉、塩や砂糖、はちみつなどを手に入れ、帰路につく。
「かなり出費したけど、これで準備は整った。 あとは......」
ドスドスドス
「まって! まって!」
そう声がした方を見ると、大きな体を左右に揺らしこむぎが走ってくる。
「うわっ!」
「ピィィィ!」
そう鳴いてこむぎは抱きついてきた。 羽毛にうもれる。
「うっぷ!」
「すみません。 止めても外にでてしまって......」
そう走りながらリディオラさんが近づいてきた。
「まだ、赤ちゃんですからね、しかたない...... でも仮の許可がでたので、町に荷車で販売しにいかないといけないんですが......」
「ならば、私が代わりに売って参りましょう」
「えっ!? でもリディオラさんは騎士なのに」
「かまいません。 騎士といっても実際は王女のおつきです。 騎士団は下級貴族の私が疎ましいのですが、王女の命で仕方なく在籍させているだけ......」
そう目をふせた。
(こんなに強くて優しいのに、貴族の世界は面倒だな)
「では王女に許可をいただいて明日お家、いえお店の方にむかいます。 お店でもパンはおだしするのでしょう?」
「一応、だそうかとおもってます」
「わかりました。 では、また明日お伺いしますね」
そう微笑んでリディオラさんが帰っていった。
(なれるまではリディオラさんに頼るか、まだ赤ちゃんのこむぎをほっとくわけにもいかないしな)
スリスリしてくるこむぎをあやしながら、家への帰途についた。
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