第10話
次の日、昨日なんとかできた酵母液を使って、仕込んでいたライ麦からパンをつくる。
「膨らむかな......」
「きっと大丈夫。 ただ今日城で聞いたとき酵母液は、少し温度を下げておいておくとはいってました」
そうリディオラさんがいう。
「そうなんですか! すぐ使っちゃった......」
「まあ液はまだまだあるし、次試しましょう」
「ですね」
窯からいい香りがしてくる。 パンを取り出してみる。
「おっ! 本の少し膨らんだかな。 あと少し柔らかい。 んん、でも少し酸っぱいかな......」
「でも、普通のものよりはるかに柔らかくて美味しいですよ!」
食べてみるとそう喜んでリディオラさんはいった。
「うん、確かに前よりはましだ。 でもやっぱり小麦粉がほしいですね。 それならもっと柔らかいパンが焼けるんですけど」
「種がかなりの高級品ですから、種を買って育てて増やすしかないですね」
「そうですね。 まずはこれを売りましょう」
「ですが、商人ギルドに所属してください」
「商人ギルド?」
「ええ、個人が販売するためには商人ギルドに所属して、許可をえる必要があるんです」
(商工会みたいなものか......)
「条件は?」
「そうですね。 えーと、確かどんな店か、店の種類、規模や経営計画を提出し、あとは開業資金ですね。 供託金を納めないといけません。 およそ1万ゴールドですね。 みなはじめは商人の元で働いて、そのお金をためるのです」
「1万ゴールドか、かなりかかるな」
(もってるお金は3000ゴールド、一日、三食食べるのに30ゴールドぐらいか)
「お金か......」
(やはり姫様の枕しか...... でも何日分かな)
覚悟を決めようとしたとき、リディオラさんが口を開いた。
「危険ですが、トールどのがよければ仕事を紹介しますよ」
「危険ということは、モンスター絡みですか?」
そう聞くと、少し顔を曇らせてリディオラさんはうなづいた。
「ええ、最近モンスターがとても多くなっているのです。 騎士団も一応はでているのですが、少々事情があり動かせないこともあるのです」
「すみません。 前にもきいたのですけど事情とは?」
「......そうですね。 お話ししておいたほうがよろしいか。 この国の現状が関係しております」
そう言いづらそういうと、ため息を一度ついて、話を続けた。
「実は、前王と王妃さまが続けてなくなり、王女が後を継ぎました。 しかし、それを快く思わない貴族や重臣たちがいるです」
「それが邪魔をしている......」
「はい、ですから王女も王位を継げず、王女のまま。 騎士団も動かせません」
「なぜ邪魔をしているのです」
「もともと王は貴族、重臣などを制御し、力を削いでおりました。 民への搾取がひどかったからです。 そして王女も......」
「それが気にくわない者たちがいるということですか......」
「ええ、王女が王位につけば、あのご気性ゆえ、さらに貴族たちを締め付けるでしょう。 騎士団は貴族の階級の子息が多い。 それで動かないのです。 このまま不満が大きくなれば、民に人気のある姫の信用は失墜しますからね」
そう眉をひそめリディオラさんはいう。
「なるほど、それならモンスターを倒したほうがいいか......」
「でていただけるなら」
「それで、どこのモンスターを倒せばいいのですか」
「西のアプサスの森にモンスターがいるらしいのです。 そう民から陳情がありました。 木こりたちが仕事できずに困っているそうです。 一応1万ゴールドの懸賞金がでます」
「それなら供託金は払える! そのモンスターは強いんですか」
「戦ったものはいませんが、話から推察するに大きな岩のような鳥のようなモンスターだと思われます」
「岩...... なのに鳥...... とりあえず、いってみます」
「私も......」
「いえ、確認にいって戦えるかどうかをみてきます。 無理そうなら
逃げますし、戦えそうなら力を貸してください」
「トールどのなら逃げ切れるか...... わかりました。 ご無理はなさらないよう」
心配そうにリディオラさんは帰っていった。
ぼくは次の日、西にある森へとやってきていた。
「さすがにリディオラさんにこれ以上頼るわけにもいかないしな」
(まあ戦えないなら逃げればいいのは本当だ。 ぼくの脚なら逃げきれるだろう)
「岩か...... かなり固そう。 切れるかな」
森を歩いていく。 かなり深く進むと、大きな木に斧が刺さったままだった。
「モンスターに襲われて逃げたのか...... ならこの近くだ。 魔力感知に反応はない...... えっ?」
一瞬暗くなった。
「まだ日も高いのに......」
上を見上げると、茶色い壁がある。
「岩山...... 動く! ちがう! これは」
壁だと思っていたものは動き出した。 すぐさま走って逃げる。
茶色いそれは、地面を踏みしめて追ってくる。
「ぎゃあああああ!!」
必死になって走るも、靴がネコの足に合わず転んだ。
その茶色いものはこちらに迫った。
「も、もうダメだ......」
そう覚悟したとき、その硬い腕らしきものにゆっくり近づく。
「えっ?」
「ぴぃぃ......」
そう耳に小さい鳴き声が届いた。
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