第9話
「はぁ、だめだ...... なんどつくっても固いパンしかできない。 それに、つくったやつは時間がたつと石のように固くなった」
(多分おいしく作る方法はあるんだろうけど...... ぼくにライ麦パンは無理だな。 やはり小麦と酵母を手に入れるしかないか......)
そのとき、ドアをノックする音がした。
「はい...... 誰だろう?」
ドアを開けるとリディオラさんがたっていた。
「ひぃ!!」
「こんにちは......」
少し目をふせがちにリディオラさんはいった。
(怒ってないようだ...... よかった)
「あっ、どうぞ」
「ええ、お邪魔します...... あっ! お食事中でしたか」
テーブルにおかれた黒いパンをみてリディオラさんは聞いた。
「いえ、パンを販売しようとして...... でもだめで、固いパンしかできないんです」
「ライ麦ですか...... 少しいいですか」
「ええ」
「ふむ、普通ですね......」
「そうなんです。 これならみんな家でつくっても同じですしね。 売り物には...... やはり小麦と酵母が必要なんですが......」
「小麦粉などは高いので、富裕層か貴族や王族など以外は手に入りません。 酵母も同様に大量生産が難しく、代用品もつくりづらいですから高いのです」
「やっぱりそうか...... それなら庶民に手がでないな」
「......ですが、あなたならば、つくれるかもしれませんね」
「えっ? ぼくなら?」
「はい、私もそこまで詳しいわけではないですが、酵母の増殖に必要なのは湿度、温度。 トールどのは魔法が使えます。 私は温度操作の魔法を使えますので、それを獲得すれば可能かと......」
「あ、あの教えていただけますか?」
「ええ、もちろん」
あっさりとリディオラさんはいった。
「えっ? 本当にいいんですか?」
「ええ、あなたにはあやまらないといけませんし......」
「あやまる?」
「この間、トールどのの弁明も聞かず、お説教してしまいました。 王女がそそのかしたはずなのに、焦っていたので、つい感情的になって...... 申し訳ありません」
そう頭を深く下げた。
「い、いえ、あたまをあげてください。 本当はぼくも止めないといけなかったんですが、王女の勢いに負けたので......」
そう答えると、リディオラさんは微笑み、魔法を教えてくれた。
「これが温度操作の魔法ですか?」
「はい、【テンパチャーコントロール】です。 魔力を使って温度をある程度操作できます」
「じゃあさっそく、つくってみよう」
リディオラさんに教えてもらい。 ビンの中に果実と砂糖、水を入れ、温度を操作した。
「おそらく、これで日にちをおくと、果実についている酵母が砂糖で増えるはず...... とはいえ、私も実際にしたことがないので、どうなるかはやってみないと」
「とりあえず、やってみます」
それから数日たつ、ビンの中は変化がない。
「おかしいな...... 発酵がすすむと泡とかでるはずなのに......」
「ここは温暖なところですが、夜は意外に冷えます。 温度のほうはどうなのですか?」
「夜、冷えます?」
「トールどのは毛皮がありますから」
「あっ!」
自分の体をみる。 黒い柔らかな毛がモコモコついている。
「......これは酵母菌が死んでしまったかもしれませんね」
「し、し、死んだ!? か、か、回復! 蘇生を!」
「もう無理ですよ......」
「そうか、温度はあまりわかりません......」
「魔力感知で調べては? 生物なら魔力の反応があるはず」
「なるほど!」
魔力感知でビンを調べる。 中にはほぼ魔力は感じない。
「......なにも感じない。 完全に失敗ですね」
「まあ、何事もすぐうまくはいかないでしょう」
「ですね。 もう一度」
もう一度同じ様にビンをつくった。
それから寝ないで魔力を感知しながら温度をあげ、数日まつ。
「これは......」
ビンの中が汚れているように見える。
「ええ、おかしいですね。 魔力は」
「魔力はずっと感じます...... 蓋をあけます」
開けるとへんな匂いがはなをつく。
「ぐっ! くさい!」
「ですね。 これは別のものが増えたのでは?」
「別...... そうか」
(確か、パン酵母以外にも別の酵母や乳酸菌とか納豆菌もある! もしくはビンに他の菌がついてた可能性もあるのかも...... でもふえることはわかった。 やはり温度調節だ)
「よし! つぎはもっとうまくやります!」
「その意気です!」
ビンをちゃんと煮沸し、丁寧に確認しつつ一日が過ぎた。
「あまり変化はない...... もう少しおこう」
次の日、液が白くみえる。 ふたを開け空気を入れるとかすかにシュワシュワと音が聞こえる。
「音がする!!」
(炭酸ガスだ! この炭酸ガスがパンを膨らませるはず......)
「わたしには聞こえませんが、このまま何日か置けば完成するはずです」
日をおうごとに白いものがふえ、音も大きくなる。 そしておりのようなものが下に沈殿して、果実が浮いてきた。
「七日目......ふたを開けてみます」
「ええ、私が城でみたものと同じ様に見えます」
ふたを開けるとポンっと音がした。 甘い匂いがしている。
(これ発酵してアルコールができたのかな...... じゃあ)
「できた!!」
「ええ! おそらく完成です!」
なんとか天然酵母をつくることができた。
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