第8話

「ふぅ、なんとかなったわね......」


 王女が座り込んだ。


「......ええ、強かったです」


 周囲を感知する。 近くにモンスターはいない。


「それにしても、もう一人の自分をあそこまで自在に操るなんてね。 動かすにも魔力はいるはずなのに、すごい魔力量ね」


「ええ、なんとかうまく行きました。 もう一人を自由に操るのは苦労しましたけど......」


「さて、さっそく奥に進みましょう」


「えっ!? もう帰るのでは?」


「あんな強いモンスターはほとんどいないわ。 ここにあのサソリがいたってことは、他のモンスターたちは食べられたかね。 絶好の調査のチャンスよ」


 そういうとすたすたと奥へと歩いていく。


「ひぃ! 待ってくださいよ!」



「ここは? 大きな扉がありますけど」


 奥の突き当たりに、天井まである巨大な扉を見つけた。


「魔力は?」


「中から感じます。 この感じだと生き物でもモンスターでもないですね。 物質だと思います」


「よし、いくわよ!」


 王女がもってきた鍵をつかうと、巨大な扉はゆっくりと開いた。


「おお!!」


 目の前にはまばゆい光をはなつ黄金や宝石などが、つまれるように散らばる。


「宝物庫ね。 魔力の高いものはある?」


「えーと、あれかな」


 そこには書物があった。


「これはかなり古い、封印されてる。 解除が必要か...... とりあえずこれをもって一度帰りましょう。 他の宝物はあとで取りに来させるわ」


「......!? なにか後から魔力が近づいてきます!」


「モンスター!?」


「い、いえ、これは......」


「おぅじょょさまぁぁぁあ」


 そう怒りの声が遺跡内部に響いた。


「リディオラだ! ごめん! 私は先帰るね!」


 そう王女はいうと、輝きをはなちその姿を消した。


「あっ! また、姿を消す魔法......」


「とぉぉおるどのぉぉお! これはぁどうぃううことでぇぇすかぁぁ!!」 


 リディオラさんのが怒りの形相でこちらに向かう。


「ち、ちがい、ちがいま...... あっ! ぼくは! ああああああああ!」


 それからリディオラさんに捕まり、かなりの時間お説教をされた。



「はぁ、やっとなんとかリディオラさんのお説教から逃れられた。 すごい勢いで帰っていったから、これは王女さまもこってりしぼられるな」


 ぼくは町を歩きながら、自分の家に帰っていた。 みんな仕事終わりなのか楽しそうに帰り支度をしている。


「王女さまからお金はもらえたけど、やはり仕事が必要だな。 でもどこも雇ってもらえない。 まあ技能がないからな...... ぼくはなにができるんだろう?」


 その時店のウィンドーに本が並んでいた。


「あ、あれケットシーの本」


 そこにはさまざまなケットシーの本があった。


「勇者ケットシーの冒険、ケットシー探検家、ケットシーのパン屋さん。 この世界ではケットシーが人気なんだな。 なんか自分のことじゃないのに照れるな」


(パン屋...... そういえばなりたかったなパン屋)


 そう思いながらあるいてくと、食材屋さんでパンの売れ残りをみつけた。


「この世界のパンは、黒くて固くて美味しくない。 ライ麦パンなのかな。 大麦パンも見当たらないな。 ほとんどの人は自分の家でやくらしいけど......」


 ぼくは昔から、料理をするのが好きなこともあり、何回かパンをやいたことがあった。


(ケットシーのパン屋、もし美味しいパンが焼ければ、仕事になるかな......)


「よし...... やってみよう!」


 

 さっそく店で小麦粉をさがす。 しかしあるのは大麦粉やライ麦粉だった。


「小麦粉は高いのさ。 王族や貴族しか食べられない。 ほらそこにあるライ麦粉、大麦粉なら売ってるぜ」


 そう店の主人は言う。


「そうか...... でもこの二つも結構高いな」


 とりあえず、大麦粉とライ麦粉を買って帰る。


「あとは油、卵、塩、ドライイーストとかベーキングパウダー......  ドライイーストも、ベーキングパウダーも、重曹もないか。 どうしようイースト、酵母菌がないと発酵させてもパンは膨らまない...... 天然酵母って果物とかをビンにつめて発酵させるんだったっけ?」


(でも、お城でみたパンは、まだ多少は柔らかそうだった。 天然の酵母菌はあるのかも)


 町を歩きながら雑貨屋や食料品店を巡るも、酵母菌はみつけられない。


(仕方ない。 自然酵母にかけよう。 空気中の酵母菌が増えるかもしれない)


 家に帰り、さっそくボウルに大麦粉と別にライ麦粉をいれ、塩をいれ水で混ぜる。 そして生地をつくる。 


「手に魔力をまとわせると粉が引っ付かない。 手、いや足、まあ毛むくじゃらだからよかった」


 そのまま酵母菌を作るため、ビンに果物をいれて砂糖をまぜた。


(これ発酵するかな...... ラップもないし、空気中の酵母菌が付着するのにかけるしかない)


 とりあえず、濡らした布わかけると、そのまま夜まで放置し、次の日みてみることにした。



「なんの変化もない...... 仕方ないとりあえず焼くか」


 窯にいれ火をつける。 


(中はわからないから、感覚でなんどもだすしかないな)


 何回かだしてみる。


「熱いけど、固いな。 とりあえず焼けたはずだから食べてみよう」


 そしてまずは大麦パンからたべる。


「くさい! あとは膨らまないし固い! 正直大麦パンかがない理由がわかった。 おいしくないからだ」


 今度は炭のような色のライ麦パンを食べる。


「うっ、固いけど、噛みきれないほど固くはない...... が酸っぱいし大麦パンよりはまし、というかこれこの世界のパンだ。 うーん、やっぱり柔らかさと甘さとがほしい」


(これは作るとしてもライ麦パンだな)


 とりあえず、酵母菌ができないか、おいてある別のものをみても変化はない。


(やっぱり酵母の自然発生は無理かな。 お城で酵母菌の作り方をきくか。 でもそれだと枕にされるかも...... なんとか自分で作ろう)


 それからも、なんとか試行錯誤してみた。

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