第5話

「逃げましょう......」


 リディオラさんがぼくの腕を引っ張った。 その手は震えている。


(リディオラさん、手が震えている...... 確かに強い魔力を感じる。 毛の逆立ちがとまらない......) 


 ぼくたちが離れようとしたとき、青い光沢のあるムカデはこちらへ向かってきた。


「走ってトールさん!」 


「いや、むりです! あれからは逃げられない...... ヒモみたいな魔力がぼくらに巻き付いています。 逃げても場所がわかる!」


 何かヒモのような黒い魔力が、いつの間にかぼくたちに巻き付いてた。


「えっ...... マジックストリング、魔法でとらわれてる!」


 リディオラさんが剣をかまえる。


(魔法...... 魔力でさまざまなことを起こす技術か)


「こいつはブルージャイアント...... 鋼並みに固い鱗と炎をはきます。 もっと魔力の濃い【深域】《しんいき》にいるモンスターなのに、こんなところにいるなんて......」


「どうすれば倒せますか......」


「私の魔法なら、ただ魔力を練る時間が必要です......」


「わかりました...... それまでぼくが時間を稼ぎます!」


 ぼくは走り出す、動くと風が音をたてる。


 ブルージャイアントはかまくびをもちあげる。


(なんだ!? 口の中に黒いいやな光...... かわさないと!)


 とっさにかわすと、口から激しく炎が吹き出した。


「あぶなかった!」


(この素早さじゃなかったら丸焼きだった! どうやら魔力の動きで行動が予測できる。 これなら)


 ムカデが動くたび、魔力の動きで攻撃をかわす。


「固い!!」


 かわしてブルージャイアントを爪で切りつけるも、金属音がするだけで切り裂けなかった。


(だめだ! ほとんど傷もつかない! 爪に魔力をまとわせれば切れるかも...... いや、体にまとわせてるからこの速さで動ける。 解除すると危険だし、魔力の動きも読めなくなる)


「トールどの! 離れてください!」


「リディオラさん!?」 


 そうリディオラさんの声で、ムカデからはなれる。


「あまねく光よ、その姿、剣となりて降り注げ、ソードレイン!」


 リディオラさんが地面に剣をつきたてると、地面と空中に青い光の模様が浮かび、空に光る剣が無数にあらわれた。


「なんだ!? すごい!!」


 そしてリディオラさんが腕を降ると、空から雨のように剣が降り注ぎ、ブルージャイアントに突き刺さった。


 ムカデは暴れまわるが、地面に倒れ土煙が上がった。


「や、やった、すごい」


「はぁ、なんとかなりました...... 魔力はほとんど残ってませんけど......」


 そうつかれたような笑顔でこちらに近づいてくる。


(なんだ...... 魔力を感じる)


 土煙の中に影ができる。


「なっ!? まだ!」


「やれます!」  


 ぼくは地面をけって飛ぶと、右の爪に流せるだけの魔力を流す。

 

 土煙のなかからブルージャイアントがあらわれると、爪をその首に振り下ろした。


 ブルージャイアントの首が宙をまい、地面に落ちた。


「できた!」


 自分でも驚いたが、なんとかブルージャイアントを倒した。


「すごいですよトールどの! あのブルージャイアントを倒すなんて!」


「いえ、リディオラさんの魔法で大分弱って、動きも遅かったので倒せただけです」


「それでも金属並みの固さを誇るあの外皮を両断とは......」


 驚くようにリディオラさんはいった。



「それでは約束通り、ここの一帯があなたの土地となります」


 そうリディオラさんは草原を指差した。


「本当にここに住んでもいいんですか?」


「ええ、モンスターがいなくなったでしょう」


「はい、いつの間にかいなくなってました」


 モンスターはリディオラさんが、近くにあったいくつかの柱に魔力を込めるといなくなった。


「弱いモンスターなら近づけない魔法の結界を発動しました。 ほらあそこに元々住んでいた者の家があります」


 そう指差すほうに家がみえる。


「ここの者たちは町に家を与えましたので、こちらに住むなり壊して建て直すなり、自由にしてもよい、そう王女から聞いています」


「あ、ありがとうございます」


 家はかなり古いが、予想以上に中はきれいで住めなくはなかった。


「中はそんなに破損してないですね。 最近まで住んでたみたいだ」


「家には建築時に強度と汚れがつかないように魔法がかけられますから、そこまでの劣化はないのです」


「そうなんだ...... でもここレンガの窯がある」 


 そこには立派な窯があった。


「ええ、だいたいの家は窯があり自分達の食べるパンを焼いたりしますね。 でも昔ここは販売用のパンをつくっていました。 まあやめて大分になります」


「なるほど...... でも火をつける場所が、薪ではないんですか?」


「ええ、この下をみてください」 


 そういうと窯のしたの引き出しを開ける。 そこには小さな文字がかかれた透明な丸い石がおいている。


「ここにある石に魔力を込めてください」


「こうですか」


 石に魔力を込めると火がつく。


「あっ! 火がついた」


「これが【魔鉱石】といい、そこに呪文が彫りこまれてて、魔力をこめると発動します。 調理のための炉になりますよ。 魔力で火力調整ができます。  これはお風呂にもあって、また町などにあり魔法でモンスターを排除する結界用なんかもあります」


「なるほど、それなら燃料はいらないのか...... そうか、それでここからモンスターがいなくなったのか。 


「ええ、ですが強いモンスターにはきかないので...... あっ、ではこちらが権利書になります。 ここに手をおいてください」


 文字が書かれていた紙に手をおくと、文字がひかった。


「これで契約となります。 何か疑問があれば城にきてくださいね」


 そう微笑むとリディオラさんは帰っていった。


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