第4話 瞳の交換

「ノックもしないのは無礼じゃないか」

 球体関節人形はしゃべった。葵髪の毛はすらりと伸び、目は宇宙のように蒼い。存在そのものが森の結晶のようだった。マルセルは急な展開になにも言い返せずにいると、「まぁいい、どうしてこんなに辺境にきたの?」

「街を離れて散策していたのですが塔を見つけて入ってみよかなと」

「なんで街を離れたの?」

 マルセルは人形であることは当たり前であるはずだから、人形が生きている事にに違和感を覚えたなんて言えないと思った、当たり障りのない言葉をさがし、

「この世界のことをもっと知りたいなぁと思って森に来ました」

 街を離れたといったのに、森を目的にするのは変な話だと、自分で言って思った。

 青い人形は手元の本をパタンととじ、マルセルを見つめた。蒼いグラスアイは全てを透視するようだった。

「お願いがあるんだけどいいかな」

「はい?」

「お願いを聞いてくれたら、この世界のどんな疑問にも答えてあげよう」

「お願いって?」

 青い人形は笑ったように見えたが、人形には一つの表情しかないつまり、それはただ光の方向だとか顔の角度の問題だろう。

「これに似た塔があと11本存在する。その塔全てを見てきてほしいんだ」

「どこにあるんですか?」

 すぐ行けるのかという意味だ。

「私は塔の位置を知らないからわからない」

「わからない、頼むのに?」

「私はこの塔から出ることができないから仕方ない、でも交換できるパーツとしてなら、出ることができるから代わりに回ってほしんだ」

 蒼いグラスアイは未來すらも見透かす自信に満ちていた。

「どう? 行ってくれる?」

 マルセルはあの白昼夢の様な街に戻る気はなく、森に来たのだ。そう言い聞かせ、ゆっくり首肯した。

「ちょっとこっち来てくれない?」

 完全に青い人形のペースに飲まれていたが、マルセルはデスクに向かった。

 青い人形はデスクから離れ、マルセルに近づいた。

 青い人形は自分の右目の前に真っ白な右手をかざし、次にマルセルの左目にかざした。青い人形の右目から右手が離れたとき、青い人形の眼孔にグラスアイはなく、宇宙の暗黒があるのみだった。

 マルセルは自分の目からかざされた手がどけられたとき、青い人形の右目が赤褐色の瞳、すなわち自分の目を青い人形がつけている事に気が付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る