第3話 塔の夢
鬱蒼とした森はきっと秋になっても、視界開けないだろう。マルセルはそう思った。
木の根元にガレのランプの様なきのこがポツポツと生えていて、マルセルはたいそう気に入った。
殆ど残こっていない轍を歩く、存分に歩くと急に視界が開かれた。そこは小さな広場で中心に塔が立っていた。塔の周りには草木が生えていないのだ。
水たまりが水鏡となってマルセルと塔をさかしまに映していた。
マルセルは塔を見上げ、強い好奇心に駆られた。不思議な人形の世界は、不気味で気持ちが悪いが、見知らぬ塔すら何か面白い事を予見させるオブジェだ。
マルセルは木製の扉を押し開けた。ギーと軋む音と風が木を揺らす音しかしない。塔の内部はひんやりとしていたのも相まってフワッとした感覚があった。何十年の有機物が存在しなかった涼しさだった。マルセルは螺旋階段を一段、一段と登って行った。
螺旋階段は塔の外からの想像よりも段が多かった。塔の高さの3倍は登った辺りで、木製の扉に行き着いた。すでにマルセルはこの不思議な塔の強い重力に惹きつけられていた。
塔の中の扉もギーと軋み開いた。パッと視界に入った部屋の印象もは広いだった。体積が三乗だという事を考慮すれば外から見た8倍以上はあるに違いない。マルセルはそう思った。
部屋の中の壁はすべてが本棚で、黴臭い古本特有の香りが飽和していた。寧ろ黴臭い匂いが飽和し結晶になったのではないかとも思えた。本棚以外には黒っぽいニスの塗られたデスクと椅子。そしてそこに鎮座する球体関節人形があった。
「ノックもしないのは無礼じゃないか」
球体関節人形はしゃべった。葵髪の毛はすらりと伸び、目は宇宙のように蒼い。存在そのものが森の結晶のようだった。
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