本当のスタート

第2話 森へ逃げる

 母親は家に帰ると、

「マルセル今日は疲れてるでしょう、もう寝なさい」

 赤褐色の青年はマルセルと呼ばれた。

 マルセルは部屋に向かった、不思議な事だ家も何も違和感を覚え、記憶にないのに自然と自室へ向かえたのだから、自分でも不思議だった。

 目が覚めると虫に......ということもなく、目が覚めても自分は人形であるとマルセルは再認識した。

 グッと握る手の中で球体関節が動くカチカチという無機質な音がした。

 そういえば部屋は明るいなと、部屋を見回すと、てっきり夜かと思っていたが窓の外は明るかった。丸一日眠ったのだろうか。

 マルセルはゆっくりと記憶を整理した。この家に来る前に、森が見えてことも思い出した。

 リビングに出ると家族はもやはり人形で、マルセルは森にでも逃げたくなった。森の自然に魅力を感じたかもしれない。人形に対する不信感はこの世界ではおかしいんだ、という考えに支配された。

 ふらっと家を出て森の入り口を覗く。バクっと口を開けた怪物の様に森は存在していた。

 轍は既に自然に敗北していた。

 この敗北した轍の先には何があるのだろう。神秘的に光芒が差していた。

 マルセルは森にますます強く惹かれ、行動は早かった。

 自室に帰りマルセルは自分の茶色いアタッシュケースに、心赴くままに道具を詰め込んだ。ただ適当に望遠鏡だとか少年心をくすぐる物ばかり詰め込んだ。

 鏡を入れた時、ふと自分の顔を見ることになった、赤褐色のクルッとした髪に、同じく赤褐色のグラスアイ、意外にも童顔で、自分で言うのもあれだが可愛らしいと思った。

 しかしどの角度で見ても、鏡に映る顔が自分の顔とは思えず意識するほど気持ちが悪くなった。

 アタッシュケースを持ち、コートを羽織る、紳士らしさを確認し、こそこそと悪事を働く様に家を出た。

 マルセルは家を出た後はなぜか小走りで森へ急いだ。走り逃げた理由はマルセル自身にもわからない。

 しばらく森を進むと街はすっかり見えなくなった。喧騒も聞こえない。

 マルセルは鬱蒼とした森の中でこそ、自由気ままな心になれた。怪物の体内をどんどん進むことに恐怖は感じなかった。むしろ心楽しく、あたりを見回す余裕さえ次第に湧いてきた。

 ガレの様なきのことか、姿は見えず木が鳴いてる様な鳥の鳴き声に魅入られた。

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