球体関節人形の夢

澁澤弓治

人形になる明晰夢

第1話 石棺

 赤褐色の髪の毛に紳士らしい服装、青年の球体関節人形は目を覚ました。

 青年の人形は自分が今いる場所が硬いく冷たいことに違和感を覚えたのか、辺りを見渡した。

 青年の人形を見下ろす人形が2体いた。一体は母親でオレンジ色のドレスを着ていた、もう一体は娘でペチコート姿、2体ともブロンドの髪がよく似合っていた。陶器でできた肌の非人間的な冷たさと、人工的な着色の色味はなまめかしい。

「あ、お兄ちゃん起きた」

 娘の人形は晴れやかに言った。

 石棺の中の青年の人形はぎょっとしたように、石棺の中で身をよじったが石棺にぶつかりあまり動けなかった。

「しょうがないね、寝起きだからぼやぼやしてるんだ」

 またしても娘の人形は言った。親の真似をしたませた話し方だった。

 青年の人形は貧血の患者のように立上り、栄養失調のように歩き、母親の後を追った。青年の人形はこのぼんやりと濁った夢を達観した。

 石棺の置かれていたのは聖堂だった。ゴシック建築が聖堂の大空間を支えていた、もしかしたら外からも引っ張り、支える柱があるかもしれない。

 聖堂は街中にあった。

 そこを出た先の街中はヴィクトリア朝だった、赤いレンガが組まれた建物が大通りに沿ってどこまでも続いていた。

 大通りに差し掛かると、5歳くらいの娘はピッタリと母親にくっついた、青年の人形は2体の後をついていった。

 大通りを渡りきるかどうかというところで、青年の人形は小走りせねばならなくなった。馬車が近づいてきたためだ。

 青年の人形の足取りは泥をかき分けて進むようにだった。

 馬車は全身が鋼鉄でできた馬が引いていた。馬に皮膚はなく、肋骨は鋼、筋肉のように鋼鉄がに形づくられていた。馬を正面から見ると、本来、肺や臓物が収まるべき場所に、大きなゼンマイと歯車がトゥールビヨンのように複雑に絡みつき、うごめいていた。階差機関も顔負けの複雑さだった。

 その後何度か角を曲がるごとに田舎になっていた。奥に森は怪獣の口の様に開いて、何とも言えない魅力を感じた。

 最終的に3体は大きな庭をもつ家にたどり着いた、家は石造りで、石と石の間には白いモルタルが塗りたくられた。

 青年の人形はぼんやりとした頭で、違和感を覚えた。なぜ人形なのだろうと。

 

 ここで私の見た明晰夢は終わり、次回から創作です。

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