第12話 肝試し

 こうして、マドンナこと知野春香たちに、詳しくおれの初体験の顛末を話してやったりしながら、どんどんJCたちと交流を深めていって、信頼を勝ち得て、おれも再び教師としてやっていく自信を取り戻していった。

 女子中学の教師は、オンナを口説く時と同様に、「素の自分の人間力」が、容赦なく問われる職業、ともいえる。

 自信や魅力がないと、オンナはついてこない。

 JCも同じだ。

 しかしそこに人間相手の仕事なるがゆえの醍醐味がある…

 ”女子中教師生活”は、経験を積んで、戦いに勝利して、どんどん成長して、人生の謎を解き明かしていく…ロープレのような、痛快でカタルシスのあるゲームともいえる…


 知野春香マドンナは、いつも涼しげな、真摯なまなざしでまっすぐにおれを見つめて、全身で話を聞いてくれていた。

 話すときには一心不乱に、余すところなしになしに真情を吐露してくれた。

 全存在で、丸ごとぶつかってくる、という趣だった。

 純真な少女ならでは、そのピュアなアプローチ?は、初めて恋を知ったものならでは…そうしておれも初めて異性を知ったころのような清新な気分になるのだった。 


 お互いが交錯する瞬間には、相変わらず、ほほを赤らめて、真紅のハート形?の目をしている。


 「やっぱり、春香マドンナはおれに、熱烈に恋してくれているな?」

 どうしてもそう結論付けざるをえない…


 こういう「道ならぬ恋?」の行方がどうなるかはさだかでないが、とりあえず、自然の成り行きに任すことにした。

 speaking words of wisdom Let it be …

そう、ジョンレノンも歌っていたな?と、思ったのだ。


 JCたちも日に日に成長していく…破竹の勢い?で、逞しく、賢くなっていく。そういう様子が愛おしく、頼もしく感じる。「おれも大人らしい自覚が生まれてきたな?」と思うと感慨深く、「教師という道が一番自分には向いているなあ」と、しみじみ思うのだった。


 カラフルなパラソルの花が思い思いに咲く梅雨。

 皆がうつむいて懸命にシリアスな思索にふける緊張感の快い、期末考査。

 若い肉体が溌溂と躍動美を競い合うクラス対抗球技。


… …日めくりがさらさらめくれていくように時は流れ…


 そうして、おれが赴任して初めての、夏休みを迎えた。


 「そういえば、オサラギ先生はどっかへ出かけるんですか?夏休み」

 英語科主任の海野凪沙、”海凪”が、横に並んで、話しかけてきた。

 彼女は、光沢のあるサラサラヘアで、それがいつも風に靡いているような雰囲気だった。ふんわりと、紺碧の海の香りがするような気がする。

 

 黒目勝ちの美貌は、マドンナと対照的だった。

 英検が一級で、TOEICが満点、という噂だった。ケンブリッジに留学経験があって、発音は正統派のクイーンズイングリッシュ。まさにサラブレッドで、研究室に残る予定だったのを校長の青シャツが「三顧の礼」よろしく、熱心に頼み込んでようやくスカウトできたのだという。


「おれですか?今のところは…今日は宿直だから、寝ながらバカンスの予定でも考えようかな?」

 

 何か、催し物にでも誘ってくれるのかな?と、ちょっと期待したが、海凪女史は、「あ、そう」とすげなく言って、眼鏡を光らせながら去っていった。

 

 おれはちょっとずっこけて、「なんで聞いたんだか…?」と、若干不思議をかこったが、若い女というのは往々にして言動が不可解だったりする。あの女は賢いからか、いつも自分だけの物思いにふけっているところがあり、掴みどころがないのはいつものことだが。


 宿直室は、6畳間で、学生寮の一階にある。普段常勤の、寮母さんも原則夏休みなので、交代で宿直があったりする。

 

 部屋に寝っ転がってテレビを見ていると、ノックの音がして、寮生が三人訪ねてきた。

 「なんだい?」

 「あのー今晩に寮生たちで「肝試し大会」をしますけど…先生も参加していただけませんか?中学生だけだとなんか事故があっても悪いからって、誰かに監督してもらえと寮母さんが心配するんです」

「肝試し?へえ、古色蒼然だな?そんなの今でもあるんだ」

「夏休みに入った日の恒例で…まあ、打ち上げみたいなものなんです」

「面白そうだな。いれてくれ」


わあ、と三人は歓声を上げた…


<続く>

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