第10話 青春、朱夏、白秋、玄冬
「おれの初体験かー? みんな興味あるのか?知野も聴きたいか?」
初々しい芳香を発散させているJCたちの熱気の中で、おれはこちらをまっすぐ見つめている”マドンナ”にさりげなく振った。
「え?私ですか?まあ…わりと…」知野春香はちょっとはにかんだ。
が、すぐ立ち直って、意を決したように「是非…聴いておきたいです!」
と、はっきり言って、凛とした目でこっちをまっすぐ見た。
(先生のことならどんなことでもちゃんと知っておきたいので…!)知野春香は、見つめているタニシのような、黒曜石のような瞳ではっきりとそう叫んでいた。
「うん。みんな思春期で、性については悩むだろうし、おれなりの見解を絡めて話すとだな、」おれは足を組みなおし、持っていたメビウスを揉み消した。(記憶をたどる作業はトポロジカルなパラドックスに似ているな)と、チラッと変な想念が意識野を掠めた。
「人並みにセックスについてはすごく興味があって、で、いろいろ悩んだけど、なにしろまったく未知のことだからデータ不足で答えが出ない。だから、まず、「当たって砕けろ!」と思ったんだよな。大江健三郎っていう作家は「見る前に跳べ」って言った。で、おれは…」
「どうしたんですか?」知野春香が心配そうな声で訊いた。皆が少し身を乗り出すような感じで、水を打ったように静かになった。
「お隣にきれいなお姉さんが住んでて、いつも相談に乗ってもらったりしていた。郁子という名前で、おっぱいが豊満で…コホン、これはまあどうでもいいけど」
「よくありません!細かく知りたいです!Cカップくらいですか?Dカップ?もっと大きかったの?」知野春香が少し目を怒らせて鋭く問いただした。嫉妬に燃えているのかな?と、おれは少し肝を冷やして、が半分はうれしくなった。
「いや、その、ほとんどスイカップってくらい大きくてね、そういうお姉さんが至近距離にいたらやっぱり妄想しちゃうよな?日ごろから悶々としていてさ、で、どうせそういう思いに向こうも不感症じゃないだろうから、それをよすがに、頼んでみたんだ。「ボクと初体験してもらえませんか?いや、してください!」てな。」
「頼んだの?!」JCたちが一斉に、目を丸くして、素っ頓狂な声を出した。
<続く>
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