第20話

パーティ当日。私達は待機するため、この部屋で待たされていた。

色々と間に合わせだけど、なんとかなりそうにはなった。………多分。


「キュリズ様っ! 楽しみですわね!」

「ああ、うん……」


元気そうに、楽しみでたまらないといった様子のキラズ様を見て、一層憂鬱になる。

私は今すぐにでもこの服を脱いで帰りたい気分だ。

そんなことは無理だと知っているので自分の服装に不備がないかを確認する。


服装はピッチリと私の体型に合わさっていて些か落ち着かない。

不安や緊張を紛らわすためにキラズ様を見れば、


「ッ!」


上手く直視できない。

何故なのかは……分からない。自分自身の事ながら困惑している。

パーティが始まる前にドレスだけを見たけれども、キラズ様のドレスは特段露出があるというわけでもないし、淡いピンク色の可愛らしいドレスだった。なのに、キラズ様が着るだけでこんなにも印象が変わるなんて……

恋……なんかじゃない。って、思っている。信じている。だって、惚れる要素なんて無いから。


精々、悪漢から助けられた事と、唇を奪われた事と、ダンスの練習時にリードしてもらった事? 結構あるね……いや、でも、私はまだ大丈夫。顔を見れない理由はよく分からないけど………大丈夫! 根拠なき自信が溢れてきた!


待機部屋の外から声がかかってきた。そろそろ時間らしい。

外に出て暫く案内されると大広間の扉の前まで来た。広間の中から騒めきが漏れており、それなりの数の人がいることが分かる。


「それでは、バラン公爵令嬢様。お手を」

「えっ?」

「え? エスコートするのは男性の役割ですよね……?」

「え、ああ! そ、そうですわ! 手、手を握らさせてもらいますわ!」

「わざわざ言わなくていいですから……」


キラズ様もパーティの前で動揺していらっしゃる様子。エスコートの仕方は少しだけ学んできたし、完璧とはほど遠いけど、頑張ってみせましょう!


案内してきた人に合図をし、扉を開けてもらう。


突然開かれた扉には誰だって注目する。そして今、私達はとてつもない視線を浴びている。

未来の王とその婚約者なんだから当たり前だけど。


大広間の真ん中に敷かれた赤色のカーペットを進み、一番奥にいる王……今世の父の前に立つ。父の横には母と弟がいる。父とも母とも滅多に顔を会わせないし、食事時に会うのは弟だけ。周りには多くの使用人がいるのに食卓に座っているのは2人だけ……仕方のないことかな。


父の前に2人で立ち止まり私は礼を、キラズ様はカーテシーをする。

あくまでこれは周囲へのアピールなので、父からは特に何も言われず頷かれるだけだった。私達はそれだけで、父の横に並ぶ。

それを見た後、父は厳かに口を開く。


「我が息子の20の年を祝して、皆、グラスは持ったな?」


スッとボタンからトレイに乗った4人分のグラスが差し出される。

私、キラズ様、弟、母が手に取ったら、


「乾杯!」


父がグラスを高々と上げた。

他の貴族も、私達も、それに伴いグラスを上げる。

パーティが、始まった。

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