第19話

仕立てられた服……こういうのは、タキシードと言うんだっけ? 男性用の礼服はあまり知らないから、あってるか分からないけど。

とりあえず仕立てが終わったから解放された私はベッドの上に座っている。寝転がりたいが髪が乱れるからやめておく。


そして、パーティが行われるのは2週間後。王子サマの誕生日の時だ。貴族内で大々的に発表し、それなりの人数が来る予定になっている。


そこで何よりも大切なのは、マナー。

貴族の一員たる人々は、当然、マナーの教育を施されている。しかし、私の前世はただの一般人。貴族の礼儀作法なんて知るわけもない。王子サマの記憶を見ても、マナー教育をしている様子は無く、逃げているだけだ。

まぁ、記憶があるからといって直ぐに作法が身につくわけでもない。

もし、マナーが全くもってなっていない状態で公の場に出たら………どうなるかなど、想像に容易い。


「只今より、マナー講座の復習を致します」


と、いうわけで、私はマナーを学ぶ必要があるのだ。仕方なく爺やに頼み、マナー講座を行ってもらう。勉強なんてしたくないし、甚だ不本意だけれど。


「まずはテーブルマナーです。しかし、今回のパーティでは立食型となるので、あまり詰め込む必要もありません。最低限の知識だけ入れてください」


「次に礼儀作法です。若様自らが挨拶を行うことはないでしょう。しかし、同年代の子らが挨拶に来ることが予想されるため、受け答えの定型文と辞儀の形を覚えてください」


「最後にダンスです。今回のパーティのメインとも言えるものです。他2つのように軽く流せないものですのでこれを重点的にします」


爺やから言われたマナーは3つ。

テーブルマナー、礼儀作法、そしてダンス。まずはやり易そうな礼儀作法からやってみよう。


ただ、残り2週間しかないから手早く済ませなきゃ………ダンスなんて前世の知識を全く活かせないから特に頑張らなきゃ。


「定型文はこのようなものです。発音についても記載してあるので読み込んでください。今回は辞儀の方を中心としてやります」


爺やから渡された紙には文字が綴られている。これを覚えろってことなんだろう。


椅子から立ち上がって爺やに近寄る。


「では、このような姿勢を保ってみてください」


言われた通りに姿勢を正し、約30度を形を意識してする。頭を下げることなんて社畜時代に何度もやってきたし。そこそこ様になっているんじゃないだろうか?


「おお! 細かい所を修正すれば後は良さそうですね」


上機嫌そうに爺は言った。

良かった。それなりに出来ていたらしい。


しかし、修正や、暗記などに時間を取られ、4日経過してしまった。後3日でテーブルマナーを6〜7割程できるようにしなきゃいけない。

完璧でなくていいから、それなりの水準で全てをこなすようにしなきゃいけない。


「テーブルマナーと言いましたが、最初に言いました通り、今回は立食形式です。ですので、普段の食事形式のマナーはあまり役に立たないとお考えください」


普段………普段は座食と呼ばれる食事形式だ。ただ、広々としたテーブルに2人しか座っていないのは、側から見たら中々に滑稽かもしれないけど。


「立食形式ですのであまり学ぶことは御座いません。しかし、皿に盛り付ける場合、あまり多すぎないようにしてください。不恰好な皿は周りにあまり良い印象を与えませんので」

「ああ。分かった」


立食形式は覚えることも少なく、すぐに終わった。

さて、最後はダンス……食事会が終わった後に男女のペアで行われる。ステップや相手をリードすることなど、様々なことを覚えて身につけなければならない。


「最後のダンスですが、お相手は当然バラン公爵令嬢様です。ですので、私がお相手をする手筈なのですが……」


ん? 爺やが何故か口篭っている。何か言いたくないことでもあるのだろうか?


「その……想定外の御方が来てしまいまして……」


そう言った後、爺やは扉を開く。

私の部屋に来る人間なんて限られている。そして、爺やの言い難そうな様子からして、誰がいるかなんて、明白だろう。


「バラン公爵令嬢………」

「はいっ! わたくしがお手伝いしますわ!!」

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