第17話

私とキュリズ様が会ったのは、両親と国王が会うように仕向けたからだ。

私は、少しばかりの緊張を持ちながらも、指定された場所へと向かった。

第一印象は、気の弱そうな男の子だと感じた。

平然そうに振る舞いながら、私に怯えているのが分かるほどに、手が震えていた。理由は今でも知らないが、婚約者という存在に怯えていたのではないかと想像している。

王家は、民を守り、背負う覚悟が必要だ。そのため、プレッシャーをかけてくる者や、自分自身でプレッシャーをかけたりする者もいる。キュリズ様の場合は、どちらもだろう。

まぁとにかく、初めて会う時には怯えていた。

幼い私が、どうにか緊張を取ろうという思考になるぐらいには、な。


結局、話は特に弾まず、お茶会の予定が、お茶を飲むだけの会となってしまったのは、私の力不足か。お茶を注ぐ係の使用人達も、さぞ、胃を痛めていただろう。


けれど、ここまでだけじゃ、私が惚れる要素など全くない。皆無だ。

ナヨナヨした男性よりも、しっかりとした男性の方が好む人間も多いだろう。私も、自分の意思を持った男性の方が伴侶にしたいと思う。


ただ、今の私は彼に惚れている。これには当然、理由がある。

まぁ、それでも、本当にちょっとしたきっかけだった。劇的……私にとっては劇的だったけれど、他から見れば、大したことはないのかもしれないな………


何度かのお茶会等を行ったが、キュリズ様の性格は変わることなく、時間は過ぎていった。

しかし、婚約は決定事項。私は、どうにかしてキュリズ様を振り向かせるしか無かった。私自身、好きでもない男性を、だ。


今思えば、キュリズ様が私のことを好きではないのは、私も好きでは無かったからなのかもしれない。お互い好き同士でないのなら、恋になんて、発展しないだろう。

私はそんなことも分かっていなかったのか……


話が逸れたな。

ある日、私はキュリズ様を我が家に誘った。結局、あの人は来なかった為、私が迎えに行ったが。

半分無理矢理に連れ出し、公爵家へと向かっている途中だった。

偶然、いつも通る道で馬車での事故が起こっており、余儀なく進路を変更せざるを得ない状況となってしまった。

町から少し離れた人通りの少ない所だったからだろう。

装備の質の悪い盗賊共が現れた。

公爵家の家紋が入った馬車だったのだが、護衛は、馬車内に1人と運転している者1人の計2人だった。残るは子供2人。確かに、格好の的だったのかもしれないな。

しかし、公爵家と王族の未来を担う者だ。数は少なくとも、質では圧倒的に勝る。

2人が剣を取り、薙ぎ倒して行く中、盗賊の頭目のような人間が、卑劣にも、私達を狙って来た。まぁ、戦に卑劣なんてないか。

部下を囮とし、私達を人質に取ろうとしたのだろう。


馬車の扉を乱暴に開け放って、私達の所へやって来た。

キュリズ様は、護身用の短剣を取り出し、私のことを守ってくださった。しかし、言い方はあまり良くないが、私は守られ慣れている。キュリズ様が守ってくださったのは少しだけ、本当に少しだけ嬉しかった。

思えば、キュリズ様も、かなりの勇気を振り絞って剣を構えていたのだろう。相手も剣を持ち、こちらを殺す気だったのだから。死への恐怖は誰だって持ち合わせているものだろう。


その頭目は、私達が抵抗しないように、意識を刈り取っておくつもりなのか、剣を掲げ、振り下ろそうとしてきた。そして、頭目はその姿勢のまま、固まっていた。

支えになっているのは、心臓がある辺りから突き出された剣身。それがズブリと引き抜かれ、支えを失った頭目は倒れる。

頭目に剣を刺した護衛がすぐさま腹に蹴りを入れ、後ろに吹き飛んでいった。


その後だ。私が、キュリズ様を好きになったのは。


「だ、大丈夫ですか? バラン公爵令嬢」

「あ、はい。怪我の一つもありませんわ」

「あ、良かった………」


キュリズ様は、涙を流していた。

私の安全を確認して、私のために、涙を流した。

盗賊などの恐怖から解放されたことで泣いているのもあるのだろう。けれど、私の無事を確認して泣いているのだから間違いあるまい。


他人を思って泣くこと。これは、そう簡単にできることではない。私は、キュリズ様のそれが好きになったのだ。

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