第15話
咄嗟に相手の口を手で塞ぐ。
目を閉じていたキラズ様は驚きに目を見開き、すぐさま私の腕を掴んでくる。私も罪悪感が湧き出てきたので、抵抗せずに手を退ける。
「なにするんです?」
「わ、私は、キスが嫌だから……」
「まだ言うんですの? まったく……ここまで来たら誘われているように感じますわ」
「まだ、婚約者なだけなのだから、今するべきではないと、私は思うのです」
「なんですか? 私以外に好きな人でもできたのですか?」
あ、マズイ。逃れようと言い訳を言ったら地雷を踏んだっぽい。明らかに不機嫌というか、怒りを滲ませた声で私に問う。
「い、いえ、そういうわけではないのですが……」
「…………なら、いいですわ。ですが、キスぐらいなら、許してくれますわよね?」
「え、んぅっ……!?」
唇が、重なり合う。
啄むようにキスをしてくる。ただ、あくまで触れるだけらしく、舌までは入れてこない。
キスの嵐が降ってくけれど、舌を入れてこないことに、少しばかり、物足りなく思う。
そして、その心境の変化に驚く。
あんなにも嫌がっていたキスを、私から求めてしまっている。
長いような短いような。そんな時間感覚が薄れていく中で、キスの嵐が終わる。
「あ………」
残念だと思う感嘆の声が漏れ出てしまう。
「私は満足いたしましたので、キュリズ様はこれからどういたしますの?」
幸いなことに、私の声は聞こえていなかったらしい。これからどうするかを聞いてくる。
「私は、帰らさせていただきます。このまま居ても、バラン公爵令嬢が私を好きなように扱う未来しか見えませんので」
「あら、もう帰るのですか? なら、お見送り致しますわ」
また襲われそうで不安だったが、言葉通り満足したのか、特に何事もなく、見送られた。
いつの間に連絡をいれていたのか、門を潜って出ると、馬車が用意されていた。
「いつの間に……?」
「さぁ? 私の従者が気を利かせただけですから、私は分かりませんわ」
惚けた様子も無い事から本当に知らなさそうだ。まぁそんなことはどうでも良く、私は馬車に乗って、王城へと向かう。
「この馬車はいつから用意していたのですか?」
ふと、気になったことを聞いてみる。特に何も考えていない。頭に浮かんだものをパッと口に出しただけの疑問。
少し後になって後悔したけど。
私の疑問に、従者は答えてくれる。
「つい先程ですよ。お嬢様とユリス第一王子様が、部屋を出たあたりですね」
「え? なぜ、私達が部屋を出たことを認識できているのですか……?」
「たとえ婚約者同士の関係であっても、万が一を考え、監視と護衛は常にいるものですよ」
"常に"………?
それってつまり、え?
「ああ、安心してください。お嬢様方の逢瀬は、声しか聞いておりませんので」
うーん、消したい。この人と私とキラズ様の記憶を消したい。
そうすれば全て無かったことになってオールハッピーだし。いや、今から物理的に消すか……? こう、良い感じに頭を殴って………
んなことしたって、無意味なのは分かってるけどさ。藁にもすがる思いってこんな感じなんだ。味わいたくも無かったよ。ええ。
キラズ様に無理矢理押し切られたことを後悔しながらうだうだしてたら王城に着いた。
正門から入ると、当然存在している門番が呼び止めてくるが、私が今乗っている馬車は、バラン公爵家の家紋があるからね。問題はない………わけでもなく、現代のお札みたいに偽装防止技術が凄まじいわけでもないから、中は確認される。貴族の家紋の偽装なんて極刑確定だけど、そんなリスクを恐れて盗みや強盗なんてできないんだよ。
だからこそ、確認される.....と、思っていたんだけど、従者の人、門番さん達と顔見知りらしい。有効的な雰囲気を感じる。しかも、「例の人です」と言ったら、門が開かれた。
なるほど。キラズ様を常に王城に送ったりしているから顔を覚えられているのか......
ただ、もしかしたら、従者の人が脅されて......みたいなこともあるかもしれないし、中の確認は徹底させたほうがいいのかもねー。私の知ったことじゃないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます