第14話
「それでは、キュリズ様。こちらです」
キラズ様に付いて行き、バラン公爵家に案内される。思えば、公爵家に来たことなど、数回ほどしかない。それもあくまで私の記憶の中での物語だから、私自身がここに来るのは初めてだと言える。
公爵家に着いて、家の中へとさらに進む。公爵という立場上、忙しいのか、バラン公爵夫妻はいなかった。
家の奥へと来て、着いたのはキラズ様のお部屋。部屋ァ!?
「え、ここって、バラン公爵令嬢の私室ですよね? 仮にも王族で婚約者である私だとしても、入ってもよろしいものなのでしょうか……?」
「構いませんわ。私が許可した者のみ、ここに入れますもの」
そう言い、どこからか鍵を取り出してくる。
「はい、キュリズ様。こちらは、貴方様の鍵です。どうぞご自由に私の私室においでくださいませ」
目の前にある扉を開くのかと思っていたら、その鍵を手渡される。
「ええ。私の部屋の合鍵ですわ。これで、キュリズ様はいつでも私の部屋に侵入することが可能になりましたわね!」
「しませんからね? 淑女の部屋に無断で立ち入るなど……」
「あら………畏まりましたわ。それでは、ほら、開けてくださいませ?」
「え? ああ。開けるのは私がするのですね……」
言われた通りに鍵を捻り、扉を開く。
中は、女の子らしいというよりも、実用性を見出したかのような部屋だった。
作業用の机に、机の上にはペンや何かの資料、人を呼び出すためであろうベル。
ベッドや棚はあるがベッドの使用形跡は薄いし、棚は特に何も置かれていない。私室よりも作業部屋や執務室と言った方が適切かもしれない。
「ええっと……ここで部屋はあっているんですよね?」
「はい。ここが、私の私室ですわ。ご感想は?」
「その、私室らしくないというか、執務室とかではないですよね?」
「ふふふっ……はい。ここは確かに、私の部屋ですわ。とりあえず、お座りになって?」
そう言い、ベッドへと先に腰掛け、隣に座れと言うようにぽんぽんとベッドを叩く。特に断る理由もないので座る。
しかし、なぜ、椅子などに座らないのだろう? この部屋には椅子がないのだろうか?
疑問に思っていたら、キラズ様に押し倒された
ん?
「ちょちょ! バラン公爵令嬢!?」
「なんでしょうか?」
「いやっ! なんで私を押し倒しているんですか!?」
私がベッドの下側、つまり今は枕が足下にある状態だ。
「あら、そんなことですの?」
「そんなこと!? 私には結構大事なことなんですけど!?」
「んもぅ………少し、五月蝿いですわよ?」
「んんっ!?」
抵抗のために叫んでいたら口を塞がれる。
唇で。
そのまま舌まで入れられる。
私自身、気持ち良く感じてしまい、その舌を受け入れる。
暫くすると唇は離され、息ができるようになる。
感情は今、最悪と最高を反復横跳びしている。
最高なのはキスが気持ち良かったから。
最悪なのは女性とキスをしてしまったから。
けれど、私は男性とキスをしたかったのだろうか……? 前世を思い出してみても仕事の記憶ばかりで恋愛の記憶がない。学生時代は………記憶すらない。今は王子サマの記憶に大部分が占領されていて思い出せないみたいだ。
いや、それはともかく、気持ちいいと感じてしまった私の状態が問題だ。このままだと、キラズ様の全てを受け入れてしまいそうだ。
そう思い、バラン様を突き放す。上から伸し掛かられているからあんまり意味はないけど、抵抗の意思表示にはなったみたいだ。
「どうしたのですか? キュリズ様」
「いやっ、突然キスされたし、その……」
「嫌なのです?」
「そ、そう。嫌……です」
「悦ばしそうに顔を赤らめていたのに?」
「それは……その…………」
事実を言われ、口ごもる。
「嬉しいのなら、それでいいのではないですか?」
「いや、でも………」
「なんですか? まだ足りないのですか?」
少し怒った口調で、また、キラズ様の顔が近付いてきた。
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