第11話 オレリアのイラつき



「どうして、お姉様がルカンディ様と結婚を……!」


 オレリアは一人、自室で唇を噛みしめていた。


 姉のミランダ、下級精霊と契約している無能で、妹のオレリアよりも劣っているから「モンテス家の出涸らし」と呼ばれている。


 そんな姉が、精霊の守り人の総司令で公爵家の次期当主、ルカンディと結婚をするらしい。


「いったいどんな手を使って、ルナンディ様に取り入ったの?」


 絶対に自分の方が相応しい、と思っているオレリア。

 あんな無能の姉がルカンディ様と結婚なんて、ありえない。


「それに、ルカンディ様は精霊王と契約しているから、強い精霊魔法を使える女性としか結婚できないんじゃなかったの?」


 ルカンディは社交界でも有名だから、その話はオレリアも知っていた。

 上級精霊と契約している人でも無理で、最上級精霊じゃないと結婚できないと。


「私は最上級精霊と契約しているから、ルカンディ様と結婚できるのは私のはずなのに!」


 オレリアは両親に似ていて、権力欲が強かった。

 すでに伯爵家の次期当主、クラウスと婚約しているが、彼は自分とは釣り合わないと思っているほどに。


 だから婚約はしているが、いずれクラウス以上の男性と懇意になってさらなる権力を得たいと思っていた。


 その相手として一番狙っていたのが、まさにルカンディだった。

 最上級精霊と契約しているから、ルカンディの結婚相手の条件に自分は当てはまる。


 まだ学生だったから知り合えていなかったが、知り合ったら言い寄る予定だった。


 最悪、言い寄って無理でも構わないとは思っていた。


 マクシミリアン公爵家の次期当主、精霊の守り人の総司令というのは、手を伸ばしても届かないものだとわかっていた。


 だが、今は違う。

 自分の姉が結婚相手として認められたというなら、話は変わってくる。


 なぜルカンディは出涸らしで無能である姉を選んだのか。


「何かの間違い……そう、間違いよ。ルカンディ様は間違えて姉を選んだのよ」


 自分でそう言って納得するオレリア。

 ミランダをルカンディが選ぶはずがない。


 何かを間違えて、ミランダを選んでしまったのだ。


 本当は自分を選ぶはずだったのに。


「そうよ、絶対に。ええ、ありえないわ」


 ルカンディという人でも大きな間違いを犯すことはあるだろう。

 あんな弱くて無能なミランダを選ぶなんて。


「……」


 弱くて無能なミランダ、と考えた時に、今日の昼の出来事を思い出す。

 昼食の休み時間、クラウスがミランダと話しに行った。


 クラウスはオレリアの頼みをできる限り応えてくれるので、「気になります」と言えば調べてくれる。


 今回もそうしてクラウスにミランダがなぜルカンディに目を付けられたのか、聞きに行ってもらった。


 結果は特に聞けなかったということで、使えないなと心の中で思っていた。


 しかしその時、妙なことを言っていた。


『オレリア。ミランダが力を隠しているということはないか?』


 冗談のようなことを、とても真剣な表情で。


『お姉様が、力を隠している?』

『ああ。さっき、ミランダが力を解放したようなのだが、凄まじい力だった。僕の力よりも……強そうに感じた』

『クラウス様よりもですか?』


 クラウスは実力は低いほうだが、それでも上級精霊と契約している。


 下級精霊と契約しているミランダよりも弱いなんてありえない。

 それに彼はプライドが高いので、よほどのことがなければ自分を下げるようなことは言わない。


 なのに、ミランダよりも自分が弱いと認めた。


 それほど強い力を感じたというのだろうか。


『何かの間違いでは? お姉様は下級精霊と契約しているのですから』

『ああ、そのはずだが……だがあれは……』


 その後もぶつぶつと一人で呟いていたようだが、要領を得なかった。

 その時はクラウスの勘違い、戯言だろうとオレリアは思っていた。


 しかし、ルカンディと結婚するというのなら。


「お姉様は、力を隠していたというの?」


 信じたくない。


 だが……まだわからない。


 今は全てが勘違いで、オレリアの想像通りに事が進むことを祈るだけだった。


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