第8話
「この絵を見てくれよ。俺の美術の原点とも言える一枚なんだ」
秋月はスケッチブックを広げ、幼稚園の頃の落書きのような絵を篠原に見せた。篠原は一瞬、期待していた内容と違うことに戸惑いながらも、思わず微笑む。
「すごく可愛い絵ね。やっぱり秋月くん、昔から絵が好きだったんだ」
「うん、これを描いた時はただ楽しくて…」
秋月が言葉を続けようとしたその時、篠原がふと押し入れの方に視線を移し、額縁に入った絵を指差した。
「あれ、もしかして私がモデルの絵?」
秋月は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに頷いた。
「そうだよ。篠原のこと描くのがすごく楽しかったんだ。なんていってもあの惚れ惚れする美しい身体…」
熱が入ってペラペラと恥ずかしげもなく、語り出す。
「本人の前でよく熱弁できわね!聞いてるこっちが恥ずかしいわ」
篠原の心は再び高鳴り、胸の中で何かが弾けるような感覚があった。
(やっぱり、秋月くんもわたしのこと…)
「そ、それよりもっと秋月くんの絵を見せてもらえる?」
篠原は、秋月と一緒にスケッチブックを見るために隣に座ろうとすると、積み重なった他のスケッチブックにぶつかり、バランスを崩してしまう。
「わっ…!」
秋月も驚き、思わず手を伸ばして篠原を支えようとしたが、その勢いで篠原をベッドの上に押し倒してしまった。
2人の顔が近づき、互いの息遣いが感じられるほどの距離に。篠原の心臓はドキドキと高鳴り、秋月も同じように緊張しているようだった。
(これって、まるで映画のワンシーンみたい…)
篠原が思わず目を閉じかけたその瞬間、部屋のドアが勢いよく開いた。
「なんか物音聞こえてきたけど大丈夫!?」
日南が驚いた声を上げ、2人は一斉に体を離した。篠原は慌てて起き上がり、顔を赤らめたまま日南に微笑んだ。
「あ、あの…こんにちは。」
秋月も立ち上がり、妹に向かって言った。
「日南、ちょっとノックしてくれよ」
「ご、ごめん!でも、今の状況は一体なに…?」
日南は困惑した表情で二人を交互に見つめていた。秋月は何とか状況を説明しようと口を開いた。
「いや、ただのハプニングで…篠原がバランスを崩して、それで…」
「そう、そうなの。ちょっと転んじゃって…」
篠原も慌ててフォローするが、日南は鋭い視線を向けていた。
「お兄ちゃん!この人、女の顔になってる!!」
「どういうことだ?女の顔ってもともと篠原は女だろ?」
おかしなこと言うな。日南もパニックになっているのか?
「そういうことじゃない!篠原さんはお兄ちゃんに押し倒されて興奮してたってこと!!」
「ちょ、ちょっと何を言うの!?日南ちゃんだっけ?そんなことないわ!誰だって急に異性に押し倒されたらビックリするでしょ!」
なにこの状況?なぜこの2人は言い合っているんだ?
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