第7話

 放課後の夕暮れ時、2人は秋月の家に向かって歩き出した。篠原は心の中で、秋月の家に行くことについて少し勘違いをしていた。


(これって、デートなのかな?もしかして、秋月くんもわたしに気があるのかも…?)


 そんな期待を胸に抱きながら、秋月との会話を楽しんでいた。


「秋月くんの家って、どんな感じなの?」


「普通かな。両親が仕事で家開けてることが多いから、実質妹と2人暮らしって感じかな」


「へ、へぇー両親は今はいない感じなんだ」


(わたしのことを家に呼ぶなんて、やっぱり特別な気持ちがあるに違いない!)


「どうしたんだ、さっきからそわそわして?」


「その、初めての経験で緊張してる…」


「初めて?ああ、そうか。美術部に入るのに緊張してるんだな。上手く描けるか不安になるよな。でも大丈夫、最初は誰でも緊張するけど、少しずつ慣れていくさ。」


(美術部に入ることじゃなくて、秋月くんの家に行くことに緊張してるんだけど…)


 篠原は心の中で秋月の言葉に苦笑しながらも、そのまま話を進めた。


「う、うん、そうね。慣れるまで頑張るわ」


 2人はしばらく歩き続け、やがて秋月の家に到着した。


 いつもより篠原の反応が、よそよそししいな。やっぱり不安なのかな?もしこれで「やっぱり美術部に入るのやめるわ」とか言われたら貴重な部員を逃してしまう…


 そうだ!幼少期の失敗作を見せて、自信をつけさせよう!誰だって初めては失敗が付き物だしな。


「篠原、俺の部屋でゆっくりしててくれ。ちょっと準備するモノがあるから」


「え、えぇ…秋月くんの部屋に?」


 篠原は一瞬驚いたが、次の瞬間には緊張と期待が入り混じった顔になった。


「うん、まあ、適当にくつろいでて。すぐに戻るから」


 秋月は篠原を部屋に案内し、少しの間一人にしておくことにした。


(秋月くんの部屋に一人で…こんなシチュエーション、まるで夢みたい。これってやっぱりデートなんじゃないかな…)


 篠原は秋月の部屋に一人残され、内心ドキドキしながら周囲を見回した。普段は見慣れない男子の部屋、その雰囲気に胸が高鳴る。


(これって、もしかして…?何か特別なことが起きるのかな…?)


 部屋を見渡しながら、篠原は内心ドキドキしていた。壁には秋月の描いた作品が飾られていた。


「秋月くん、こんなに素敵な絵を描くんだ…」


 篠原はベッドの端に腰掛け、部屋の中を見回しながら感心する。


(この部屋で、秋月くんはどんなことを考えながら絵を描いてるんだろう…)


 それらを見ていると、押し入れが少しだけ開いているの気がついた。


(この中には何が入ってるんだろう…?)


 好奇心に駆られた篠原は、少しだけ開けてみた。なかにはたくさんの美術関連の本や、何枚もの絵が置いてあった。


「これは、まだ描いてる途中なのかしら?」


 色々見てみると、一つだけ額縁に入れられてる絵があった。どんな絵だろう?と思い見てみると…


「こ、これわたしがモデルのやつじゃない!!」


(こんなにに厳重に保管して…どんだけわたしのこと好きなのよ!!)


 落ち着きを取り戻していた心臓が、再びうるさいくらい高鳴る。


 ドキドキしながら自分の絵を見ていると、扉の外から歩く音が聞こえたきた。


「まってまだ心の準備ができてないよ…このあとわたしどうなっちゃうの!?」


 平然を装いながらベッドの上に座った。


 やがて、部屋のドアが開き秋月が戻ってきた。


「秋月くん、わたし少し考えてみたんだけと、まだそういうのって早いと思うの」


「お待たせ。これ、俺が幼稚園の頃に描いた絵なんだ。見てみるといいよ。あれ?どうした、顔赤いぞ」


 手には古いスケッチブックを持っていた。


「それに、まだ早いってなんのことだ?もしかしてまだ絵を描くのに緊張してるのか?分かるぞーその気持ち」


(は、早とちりしちゃった。そうよね。まずは段階を踏んでからよね)


 ――


 一方そのころ、玄関では


「あれ?この靴誰のだろう?友達かな」


 妹である日南が帰宅していた。



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