第5話

「ヌードって裸のことだよね?お兄ちゃん正直に話して!今日、篠原さんとをしていたの!!」


「な、何もしてないよ。さっきのは言い間違いで、モデルって言うつもりだったんだ」


「カップ麺のモデルとか意味分からないよ!!」


 必死に弁明するが、余計に怪しまれてしまう。なんだよ!モデルって。もっとましな言い訳あっただろ。嘘のレベルが低すぎる。


「あの篠原さんが、そんなことするとは思えないし…まさかお兄ちゃん、弱みを握ったり無理やりそういうことさせてたんじゃ…」


 頭を悩ませながら、ぶつぶつと一人言を言う。その一人言には、不穏な言葉が混じっていた。


「おいおい!話が飛躍しすぎだ。そこまではしてないって!!」


「そこまでってことは、裸にさせたのは本当ってこと!?」


「警察に連絡しなきゃ!」と言いながら、日南は慌ててポケットを探る。手が震えてスマホを取り出すのに苦労している。


「待て待て、違うんだって!誤解だ!何も無理やりとかしてない。篠原の許可をしっかりもらったって!」


 心臓がドキドキと鳴り、手のひらが汗ばんでくる。日南はまだ疑いの目を向けているが、少しだけスマホを持つ手を止めた。


「本当なの?だってあの篠原さんだよ」


「そう、あの篠原が協力してくれたんだって」


 そうだよな。たしかにあの篠原が!?ってなるよな。俺だって驚いたし。


「100歩譲って本当にモデルになったとして、なんでヌードなの?」


「そ、それは…俺の趣味です…」


「変態な趣味すぎるでしょ」


「げっ」と引きずった顔でドン引きされてしまう。こうなったらありのまま包み隠さず、話すしかない。


「人物画に挑戦したいと思ったのが動機です。ただ人の顔を描くのもつまらないと思って、体全体を描こう!どうせなら美しい肉体を持つ人をモデルにしよう!と色々考えてるうちに、美しい肉体を見せるならヌードデッサンだな!とだんだん過激になってしまいました」


 想像以上にぶっとんだ事の経緯に、混乱する日南。


「そのあとだめもとで篠原に頼んでみたら、まさかのokを貰えてヌードデッサンをしたというのが、俺が話せる全てです。それ以外になにもしていません!!」


 真剣な眼差しで日南に伝える。そこにエロは一つもなかったと。純粋な芸術欲による行動だと。とにかく心のなかで祈る。どうか信じてくれ!!


 日南はしばらくの間黙って考え込んだ。お兄ちゃんの説明は本当なのだろうか?でも、お兄ちゃんの真剣な顔を見ていると、嘘をついているようには思えない。


 篠原さんがそんなことをするとは到底信じられないけれど…

 日南は、あまり状況を飲み込めていないが、なんとか納得した様子を見せる。


「うん、まあ…お兄ちゃんが真剣に取り組んでいるなら、わたしも応援するけどさ。ただ、もう少し慎重に行動してね。篠原さんに迷惑をかけないように」


 やっと誤解が解けた。純粋な芸術欲による行動で、そこにエロが一つもなかったと、伝えられてよかった。危なく妹に通報され、警察のお世話になるところだった。


 そのあと食事を済ませ、2人で後片付けをした。


「今日はちょっと色々あって疲れたから、後は頼んでいいか?風呂入ってすぐ寝るわ」


「わかった、お兄ちゃんおやすみー」


 ――


 体を洗ったあとゆっくりと風呂に入る。この温かさが疲れを癒す。

 湯船に浸かりながら今日の出来事を振り返る。


 それにしても、今日の篠原いつもと違ったな。妙に明るかったというか、少しだけ性格が柔らかい感じがした。あといつもより可愛いと思った。

 いや、もともと可愛いけどまじまじと見たらよりそう思えた。



 一方、台所では…


 日南は終始、暗い顔をしながら皿を洗っていた。


 あの篠原さんがそんなことするはずない。何か理由があったハズだ。ポンコツなお兄ちゃんが、何かやらかしたのは間違いない。

 でも、それがモデルになるのとどう関係しているのか…


 まさか…篠原さんはお兄ちゃんのことを…大きく深呼吸すると皿を静かに置いた。

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