第4話

 篠原と別れてからダッシュで家に向かう。腹が減っていて早く食欲を満たしたいからだ


「ただいまー」


 勢いよく玄関のドアを開けると、リビングからは薄暗い光が漏れていた。そこから不満げな顔で妹がでてきた。


「悪い遅くなった」


 両親は仕事の都合でほとんど家を開けていて、妹である秋月日南あきづきひなみと俺の実質2人で暮らしている。


「お兄ちゃん遅いよ。ご飯冷めちゃったよ」


「部活で遅くなった」


 日南は腕を組んで、少し拗ねた顔をしている。いつもは明るい彼女が、こんな風に不機嫌になるのは珍しい。


「まったく…早く着替えて食べよ。今日はお兄ちゃんの好きなハンバーグだから」


「マジで?それは嬉しいな。すぐに着替えるから待ってて」


 日南は軽く頷いて、リビングに戻っていった。俺も急いで靴を脱ぎ、部屋に向かう。


 着替えを済ませてリビングに入ると、テーブルには美味しそうなハンバーグが並んでいた。日南はすでに座って待っている。


「いただきます!」


 2人で一斉に手を合わせて、食事を始める。ハンバーグは温めなおしてくれたのか、熱々のジューシーでまさに俺の大好物だった。


「これ、本当に美味しいな。ありがとう、美咲」


「ふふ、お兄ちゃんなら喜んでくれると思った!作ったかいがあるよ。それで、今日はどこ行ってたの?」


「さっき部活って言わなかったか?」


「だって美術部、お兄ちゃんだけでしょ?遅くなりようがないよね」


 なんか妙に鋭い。別に特別気にすることじゃないと思うけど。


「篠原って分かるか?ほら中学のとき陸上部だったやつ。訳あって部活の手伝いをしてもらってた」


 さすがにクラスメイトをモデルにして、ヌードを描いてたなんて口が裂けても言えない。


「あー篠原美咲さん?すっごい美人な人でしょ」


「あれ、知っているのか?篠原はお前のこと知らなかったぞ」


「話したときはないけど、わたしも運動部だったから知ってたよ」


「そうなのか。まあ、そういうこともあるか」


 日南は頷いて、再びハンバーグにフォークを突き刺す。


「それで、その篠原さんと何してたの?ちょっとお兄ちゃんの様子が変だから怪しい…」


「いや、特に変わったことはないけど…」


 下手に隠してもすぐにバレるから、少しだけ事実を交えて話そう。


「実は先生に人物画の課題を出されたから、暇そうだった篠原に頼んでモデルになってもらった。本当にそれだけ!」


「ふーん」なにかまだ不満がありそうな感じだが、なんとか納得してくれた。


「クールで近づくのも恐れ多い篠原さんが、あのポンコツお兄ちゃんと一緒に…絶対なにかある…」


「なんか言ったか?」


「ううん」と首をふる。早口で何か言っていた気がしたけど、気のせいか。


「よかったら、わたしがモデルになってあげようか」


 日南がモデル?俺の可愛い妹がヌードモデルに!?


 勝手に大切な妹である日南が、怪しい人に騙され、アダルティなことをしている世界線を想像する。


「日南がヌードモデルになるなんて、お兄ちゃんが絶対に許さないぞ!!」


「え?ヌードモデルってどういうこと?もしかしてだけど篠原さんに…」


 あっ…勢いにまかせて、とんでもないことを口走ってしまった…


 ――


 妹の名前を間違えていたので再投稿しました。

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