第3話
「コンビニなんかで済ませてよかったのか?しかも、おにぎり1つだけって」
コンビニから出て、俺と篠原は駐車場のポールに座って休憩する。俺は家で食べるかどこかによって食べるか悩んでいたので、水だけを買った。
ふと腕時計を見ると、針は夜の7時を指していた。こんな時間まで俺の無茶振りに付き合わせて申し訳ないと思う。
「今日は、遠慮せずに食べたいものを食べてもいいんだぞ。散々俺のワガママに付き合わせたしな」
まあ、あまり高いものは買えないけど。でも、形としてしっかりお礼がしたい。
「もう買ってもらったし、気にしなくていいわよ」
「そっか」
あまり会話は弾まず、彼女はおにぎりを黙々と食べる。
気まずいな…それにしても、こんな近くで食べている姿を見るのは初めてだ。少しだけ頬が膨らんでいて、リスみたいで可愛い。
食べている姿を見られるのは嫌かと思って、すぐにスマホに目線を移す。しかし、彼女は視線に気づいたのか、ジト目で視線を返してきた。
「あまりジロジロ見られると、食べづらいんだけど」
「すまん、すまん」
「なんでわたしの顔を凝視していたの?何かついてる?」
軽く流そうと思ったが、追及される。逆に俺が凝視されているような…特に深い理由はないんだけどな…
「凝視はしていないと思うけど、ただ可愛いなぁと思って見てた。それだけ」
特に膨らんだ頬が…
「…な!?」
いつものようにツン!とした態度を見せると思ったが、篠原は急に胸を叩き始めた。一瞬赤くなったと思った顔は、みるみる青ざめていく。 どうやら喉に詰まらせたみたいだ。
「おい!大丈夫か」
声が上手くだせないのか、ジェスチャーで俺に助けを求める。飲み物を飲む仕草をしていたので、すぐに理解し、自分が持っていた飲み物を渡す。
一口しか飲んでいなかった水は、みるみる減っていき、半分以上も喉に流し込んでいた。
飲む勢いから苦しさを想像できる。
「はぁはぁ…ほんと最悪…」
「落ち着いたか?」
「あ、あんたが悪いんだから!!」
「何かした覚えはないが、すまん!!」
自分はどんくさい部分があるし、知らず知らずのうちに何かしたかと思い、とりあえず謝る。
「分かればいいのよ…」プンスカしながらペットボトルに唇をつけ、再び水を飲もうとする。ゴクっと飲み込もうとした瞬間…
「あーそれ俺のだから…いやなんでもない。全部飲んでもいいよ」
もうほとんどなかったし、あげてもいいか。また買えばいいし。そう思っていると、
「ゴホッゴホッ!!」と彼女は勢いよく咳き込んだ。今度はむせたようだ。
「おい、篠原大丈夫か?」
篠原は咳き込みながらも、手で「大丈夫」というジェスチャーをして見せるが、その表情と悶えている姿は、明らかに苦しそうだ。
「本当に大丈夫かよ?無理すんなって」
優しく背中を擦り、落ち着かせる。次第に呼吸も整い、最後に深呼吸をし、いつもの篠原に戻る。
「あなたといると、ほん…っと調子が崩れるわ…2度も醜態を晒して。あと…いつまで背中を擦ってるの!もう大丈夫だから。子ども扱いしないでくれる」
ほんと忙しいやつだな。そこが面白いんだけど。
「すまん妹みたいでつい、甘やかしたくなるんだよな」
最近はビックリするくらいすごく甘えてきて困っているが。まあ元気なことはいいことだ。
「どういう意味よ。子どもっぽいとでも言いたいの?」
「そういことじゃなくてどこか放っておけなくて」
「なによそれ」といいたげな表情見せたけど、とくに不満はなかったようだ。
「ふーん、それでその妹さんは可愛いの?」
「可愛いと思うぞ自慢の妹だし。気になるか?写真あるけど見る?」
今、篠原の脳内では
(わたしと、秋月くんの妹さんは似ている。それで秋月くんは、妹さんのことを可愛いと思っている。わたし=妹…つまり、わたしのことも可愛いと思っている!?妹さんのことを知れば、彼の好みが分かるかもしれない)
「ぜひ、お願いするわ」
俺はスマホを取り出し、妹の写真を探し始めた。最近撮った写真がいくつかあるはずだ。よっぽど気になるのか、篠原は興味津々で画面を見つめている。
「えーっと、これが最近の写真だな」
画面に妹の写真を表示して篠原に見せる。妹は部活のユニフォームを着て、笑顔でポーズをとっている。
「可愛いだろ?」
篠原は写真をじっと見つめる。しばらくして、少し微笑んで言った。
「うん、可愛いわね。明るくて元気そうな感じがする」
「そうだな。元気がありすぎて、時々手に負えないけど」
「ふーん…妹さんと一緒にいると楽しそうね。その明るい感じ、ちょっと羨ましいかも」
篠原は苦笑いでそう言った。俺は彼女の言葉に少し驚いた。いつも強気でしっかりしている篠原が、羨むとは思わなかったから。
「ねえ、秋月くん」
「ん?」
「わたしも、妹さんみたいに明るくて、愛想よく振る舞ったほうがいいかしら…」
篠原の質問に少し驚いたが、正直な気持ちを伝えることにした。
「今日はちょっと違う一面が見えたかな。そういう篠原も悪くないって思うよ。もちろん普段のクールな感じもいいけどな」
篠原は少し考え込むように視線を落としたあと、バレないようにニンマリとした笑顔を手で覆い隠していた。
「そう…なら、たまにはこんな感じでいられるように頑張ってみるわ」
「無理しなくていいんだぞ。篠原は篠原らしくいるのが一番だから」
そう言って俺は篠原の頭をそっとなでた。あっやべ、妹にいつもやっているからつい癖で頭をなでてしまった。謝らないと怒号が飛んでくるぞ…
「わ、わりぃ癖で」
「あ…ありがとう」
ほんのり赤くなった顔を隠すように、視線を俺から別のほうに移す。
篠原は内心めちゃくちゃ喜んでいた。まるでテンションが高まって、尻尾を全力で振る子犬のように。 今はそれを必死に押し込んで、平然とふるまっている。
「初めて素直なところ見た気がする」
「うっさい!!」
ぽこっと肩を叩かれた。すごくやさしいパンチだった。
篠原との会話が一段落つくと、夜の冷たい風が心地よく感じられるようになった。俺は時計を見て、もう遅いことに気づいた。
「そろそろ帰ろうか。遅くなっちゃったし」
「うん、そうわね」
俺たちは立ち上がり、コンビニの駐車場を後にして歩き出す。篠原の家は俺の家の途中にあるので、一緒に歩いていく。しばらく歩くと篠原の家に着いた。
「家まで送ってもらってありがとうね。また明日学校で」
「おう、また明日」
そう言って篠原と別れた。
――
篠原家の様子
「お母さーん今日友達とご飯食べてきたからいらなーい」
帰宅するやいなや全力で階段を駆け上がり、部屋に向かう。
どうにか発散したいこの気持ちを、ベッドに飛び込み爆発させる。
「頭なでられた!なでられたよー!もっと距離とか詰めればよかったかな?手とか繋いだり…絶対ムリムリ。あー!!想像するだけで恥ずかしい!!」
枕に顔を埋め、嬉しさや恥ずかしさで足をパタつかせる。
「なんで秋月くんの前だと素直になれないんだろう…秋月くんの手…大きかったな」
まだ残ってる秋月の手の感触を思い出すと共に堪能し、その夜はひたすらニヤつきが止まらなかった。
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