第2話

「秋月くん、ポーズはどうせればいいかしら」


 うーん、腕周りの筋肉とかもよさそうだな。いや、どうせなら普段見られない腹筋とか、腹周りの筋肉にしよう。


「じゃあ、こう体を反って突きだすようにしてくれ。腕は背中側で組む感じで」


 言葉では全部説明するのが難しく、自分の体を交えながら伝える。


「こんな感じかしら?」


「おぉ!!そんな感じで。辛いかもしれないがキープしてくれ」


 秋月目線だと腹筋が強調されて、美しいと思っているが、篠原目線では胸を突き出してるように見える。


「秋月くん、やってみて気がついたのだけど、いくらなんでもこのポーズは、あなたの下心が丸見えよ」


 ま、まさか俺が筋肉好きってバレてしまったのか?


 俺が筋肉好きとバレたあかつきにはきっと「人の筋肉ばっかチラチラ見ている変態」と噂を流されてしまうのでは?


「ど、どうしてそう思ったんだ?俺には特に変だと感じる部分はないぞ」


「大ありよ!!こんな胸を突きだすようなポーズを取らせるなんて!まさに変態の所業しょぎょうじゃない!!」


「なんだ、そんなことか。大丈夫!俺はその下のほう(腹筋)にしか興味がないから」


「下のほう…」


 篠原は自分の胸から視線をずらすと、パンツが目に映った。


(下のほうってまさかパンツのことじゃないわよね?下って言ったらもうソコ以外ありえない…男はみな変態だって聞くけど、まさかここまでとは…)


「まさかあなたが、正直に自分は変態です、と自白するなんて」


 彼女の背後からは「ゴゴゴ」とオーラのようなものが見えた。


「何か勘違いしていないか?」


「勘違いもなにも、そんなものあるかー!!」


 と叫びとともに篠原は近くのモノを俺に投げつけてきた。


 俺は回避することができず、頭に当たりそのままイスから転げ落ちる。


「イテテ、どうしたんだよ急に」


「そりゃあ怒るわよ!!あなたを信用して手伝ってあげているのに、こんな目に会わせるなんて」


「そんなに俺が腹筋好きなのがおかしいか?」


「そうよおかしいわよ!!腹筋が好きだからわざとそのポーズに…え、?今なんて言った?」


「腹筋が好きでおかしいか」


「パンツのことじゃないの…?」


「…なんでパンツになるだよ?」


 沈黙が流れる。それは深い沈黙だった。


(え?ずっと勘違いしてたってこと?つまりわたしが1人で勝手に、胸やらパンツやらを想像してたってこと?これじゃあ、わたしのほうが変態じゃない!!)


 動きが止まった篠原を見ていると、ふつふつとグラデーションのように、顔が赤く変化していくのが分かった。


「なら最初から筋肉が好きですって言いなさいよ!!このバカ!!」


「いや、だって自分のフェチを言うのって恥ずかしいし、勇気いるじゃん」


「そうだけど!わたしのほうが100倍恥ずかしい思いしたんだけど!!」


 何かと勘違いして、恥ずかしい思いをしたのか。気になるけど、これは追及したらさらに怒るパターンだな。ほんと篠原は感情の変化が忙しいな。


 ――


 あれから数分。だいぶ篠原も落ち着いてきたな。


「じゃあ、気を取り直して始めるぞ」



 篠原は納得いっていない様子だったが、これ以上変なミスをしないように無心で、俺の指示にしたがった。


 ――


「よし、完成だー!!」


「どんな感じかしら?」


 下着のまま俺に近づく。さすがにこれは、篠原を1人の女性として意識してしまう。


「その前にタオル着ろって、体冷えるぞ」


「あ、ありがとう」


 彼女は照れながら、タオルを肩にかけキャンパスを覗き込む。


「秋月くん、上手じゃない!!特にこのラインとか…でもなんで勝手にわたしの顔を、笑顔にしているのよ」


「だって篠原は笑顔のほうが可愛いだろ。本当は想像で書くのは駄目だけど、こっちのほうがいいだろ?」


「よくそんなことを恥ずかしもなく、い、言えるわね。秋月くんがいいと思うなら、いいんじゃないの」


 顔を俺からプイッとそらし、着替えの準備を始めた。



「今日は本当に恥ずかしい思いもしたし、疲労も溜まったわ。一緒に帰ってあげるから、何か奢りなさい」


「なんでちょっと上から目線なんだよ。まあいいよ。無茶なことを頼んでしまったし」


「本当にそうよ」


 とボソッ呟き彼女は微笑んだ。


 今日は何気に初めて2人で下校した。




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