第2話テンプレマシマシチートオオメモードイージで。なお現実
俺は厨二病あふれるご多感な時期に定番のトラック転生をしてしまったのだ。
目を覚ました時、見慣れない天井の下にいた。部屋は豪奢で、壁には飾り立てられた絵画が掛かり、織り交ぜられた絨毯が床を覆っていた。何かの間違いだと思いたくなるが、俺が今いる場所が異世界であることを理解せざるを得なかった。
ヴィヨン子爵家の三男坊で現在五歳児。それが俺の新たな身分だった。自分で初めて足を踏み出した邸宅の中庭には、広大な庭園が広がっていた。親父殿の言葉によれば、俺はこの家族の一員として将来は家族の名誉を守るために力を尽くすことになるという。
俺の新しい生活は家庭教師による厳格な指導から始まった。異世界の知識や礼儀作法、歴史など、これまで習ったことのない情報が次々と俺の脳裏に刻まれていくのを感じた。
魔法の基礎について学ぶことは俺にとって未知の領域への冒険だったが、わくわくもした。
ネットによくある異世界転生これが自分の身に降りかかったという時点で心が常に踊り、高揚感で満ちていた。
転生したらなにをするか?
そりゃ決まってるよね?
転生して初めての晩は今でも鮮明に覚えている。ベッドの上でシーツにくるまった。
ドキドキしつつ小声でステータスオープンと囁いたものだ。
──なにも起こらなかった。悲しかったな、あれは。
あの時は真顔になったもんだ。一晩まるごと使ってステータスが開けそうなワードを考えたな。
あれぇ……いや、神様がやってきたり、お年頃になったらピカッと光る石やステータスや特性を教えてくれるイベントがあるから!
そう期待したがそんなイベントはなかった。
というより聞いてもなかった。ハウスメイドに聞いてみたけど「なんですかそれは? ぼっちゃまは面白い発想をなさいますね」と笑いながら返された。
ステータスなんてなかったいいね。
だけど諦めきれない俺は、今度は冒険者ギルドに希望をかけてみた。
あのメイドが知らないだけで、ギルドカード登録したらステータスとかでるかもしれないからね。
結論から言わせてもらうと何も出なかった。その上、冒険者ギルドはただのハロワだった。
カッパー・ブラス(真鍮)・シルバー・ゴールド・ミスラル・アダマンタイト・オリハルコンとよくありそうなテンプレ設定だったのはちょっと安心したものだったよ。
混ぜものと馬鹿にされるブラスを突破できてようやく一人前である。
なぜブラスがあるのかというと大半の人間がここで終わるからだ。やめる理由は三つある。
一つは治癒師の人数に限りがあるかだ。治癒師が配られるのはシルバーからとなる。そしてこのシルバーの難易度が高い、しっかりとした戦闘力を要求される。もとは魔術の使えない農村の口減らしとかが多いなか、しっかりとした戦闘訓練を受けた者はいない。
戦闘訓練を受ける場合はギルドに金を払う。民間より格安で教官を斡旋してくれるが、ギルドの収入の二割から三割ほどはこれ。そうなるとハードル上げた方がお得だよね? ってことで並みの実力では上がるのも厳しい。
そして二つ目は寿退職だ。ギルドに登録しても二十五までに八割はやめる。なぜか? 結婚しちゃうからなんですよ。しかもデキ婚。結婚しちゃうと嫁が守勢に入る。危険なことするな、定職につけと圧をかける。一攫千金よりも目先の金と安定。
そして三つめ。こちらも多いのだが薬草採取や建築作業でもきっかり続けていたら、うち入らないと誘われる。バイトから正社員と同じコースだ。命を張りたくないのはこっちで終わる、というよりこっちがメインだ。
下手に最初から師弟関係を組んで合わなかったら時間の無駄になるため、自分にあったのを経験して確認するのが目的らしい。
戦闘訓練をしている中、騎士団や警邏隊が目をつけてよさそうなのを引っこ抜く。シルバーでも功績をあげるスピードが高いなら誘う。リクルーターしかいないね。
世間知らずの有能っぽいのを青田刈りをした方が忠誠心が高まるとかで若い奴ほど狙って刈っていくらしい。
モンスターや野盗など街の外は騎士団。街中の犯罪捜査などは警邏隊が司っている。
みんなのあこがれは騎士団入りだ。
もっとも離職率も高くて五年で五割は消える。死ぬか引退するかだ。
引退しても予備騎士団員として招集がかけられたりする。
この世界……というか領主にとって、雑魚ならまだしも強いモンスターが暴れているという時点で失態に近いらしい。
自分の領地すら守れない無能の地には野盗が居つくことになり、更に治安が悪化するという悪循環が生まれる。
天変地異でもないから駆除しないかぎりモンスターが居つくため作物を荒らされて取れない、襲われて死ぬ。もしくは野盗に襲われて死ぬ。
そんな劣悪な場所に農民がずっといるわけもなく、領民から見捨てられ近隣の土地に移住される。
付け加えるとウチの親父曰く、『下手にモンスターを放置してお隣の領土にでも行ったら、そこの領主と大戦争にもなりかねない。併合する名分や侵略戦争の名分にもなったりする。だから絶対に最優先で仕留めるのだぞ』と叩きこまれた。
おかげで小競り合いは多い。それ故、領地内で殲滅するのが絶対だ。
冒険者に任せたら? と親父に言ってみたが、わざわざ部外者に金のなる木を譲る気はないらしい。
モンスターは禍福は糾える縄の如し。
いうなれば天然の鉱山だ。
脅威でもあるが素材を売るのも領主の収入源の一つでもある。
そのため利権として狩るのが制限されてるし、乱獲されたら目も当てられないので許可制になっているとのことだ。
騎士団を維持するのも金がかかるから仕方ないことだろう。軍隊は本来なら金食い虫でしかない。
しかし、モンスターのおかげで楽に人員を雇用する資金源となった。
冒険者は密猟者を狩ったり、狩猟期についでで参加するのがメインだ。
急な出費で金が欲しい時や、出兵して人数が足りなくてモンスターが狩れない時に駆り出されるらしい。
親父殿曰く、冒険者は信頼できない事らしい。『必要な場面でいるかわからないものをあてにするのは無計画だろ? 命あっての物種なのに逃げないという根拠は? お前はそんな不確かな存在を頼りに民を守るのか? 民を守る覚悟があるのか?』と正論を言われた時は虚を突かれた気分だった。
だって、テンプレだったらそういうものだしと言いたかったがそんなこと言ったら親父殿にぶん殴られるのは手に取る様にわかったので、無言を貫いた。
それと『野盗や山賊は侮ると普通に死ぬから注意しろ』とのことらしい。
戦争が起これば傭兵が駆り出されるが、戦争がなくなったら金が出ないので次の戦場まで野盗で過ごしているヤツもいるとのこと。
なぜここは変な所でリアル準拠なのだ。
なのでよくラノベでいる雑魚だと勘違いして襲うと対人戦のプロであるため普通に殺される。
雑魚の場合もあるが、戦争の余波で生活の拠点を失って彷徨う難民の集団が暴徒と化した姿らしい。
食料事情にもよるが、そういう場合は受け入れる準備をすると聞いていた。
騎士団員からすると、戦争のない間に功績をあげるとなるとモンスターや野盗退治が一番だ。戦闘訓練にもなる。
そこで功績をあげれば別の場所の貴族から召し抱えられたり、所属している騎士団から準騎士として正式に任命されたりする。そこから戦争にいけばさらに栄転もありえる。
警邏隊は街の中の勤務が基本ということもあり、騎士団と違い野営することもないためそこそこ人気はある。
されど、現代でいうなれば警察。大規模犯罪でも摘発しない限り目立つことはなく、正式に騎士になることはまずない。
3K(キツイ・汚い・危険)を取るか安定を取るかの違いだな。
だからゴールド以上の冒険者はその二つをお断りされた素行に問題のある人か、組織に縛られたくない自由人か、金がどうしても欲しい者しかいない。まともなのはいるがダンジョンアタックで一攫千金狙いで精一杯なのもあって、表にはあまり出ない。
狩ってもいいモンスターの退治や素材集めの警護で日々を過ごす者が多いらしい。ヤバイのや金になるのは騎士が狩っているので、雑魚狩りがほとんどなので楽だが実入りはあまり良くないらしい。
引退するのも多い。酒屋でマスターをするなり、そのまま何かを依頼先の村で用心棒になって、副業で剣などを教えながら骨を埋める者もいるらしい。
そういうしょっぱい現実をみた結果。
世界に絶望した。
神よ。あなたはどうして私に夢も希望もない世界につれてきたのか……
だからこの怒りをもって五歳の俺は将来オリハルコン冒険者になることを決めた。
俺が冒険者の概念を変えてやると息巻いた。
鼻垂れてるだけの少年と五歳から全力投球して訓練を受け続ける少年。どっちが成長すると思う?
そりゃ全力投球している少年でしょう。
ステータスという概念がないせいで実力がどれくらい向上しているかわからないが、ガムシャラに剣術や魔術の訓練を続けた。
剣術の訓練には特に精を出していた。剣の腕を磨くことを欠かさなかった。
魔術も頑張ってみたが一つも上手くはいかない。
異世界と言ったら魔法だよね? 魔法が使いたいのにどうしても使えないとなると半狂乱になった。
どれだけ頑張り、幾番もの夜を一人で練習してもなにも発動することはできない。才能はないなら、最低限武術だけは磨き上げていいくしかない。
堅い木剣を握りしめ、石畳の上で激しい斬り込みを繰り返す。汗が額を伝い、息が切れそうになるがそのままずっと続ける。
疲れで緩まった手に再度力を込め、木剣を振り抜く。石畳の上で響く音が俺の努力を物語っている。
この木剣の先には未来への闘いの経験が刻まれていくのだ。
握り傷だらけの手を見つめながら、決して譲れない執念が湧き上がる。
木剣の振り下ろされるたび、手の平には摩擦による痛みが走った。血豆ができ疲労で倒れそうになる。
それでも俺は立ち上がり剣術の稽古を続けた。周囲に立ち並ぶ騎士たちは見守る中で俺の執念に敬意を表しているようだ。
彼らが実際、心の中でどんな思いを抱いているのかそれは分からないが、俺は彼らの期待に応えたい。
夕日が空を染め影が伸びる頃、俺は木剣を振り終えた。手は擦り切れ血豆が潰れて真っ赤に染まっている。だが、それは俺が生きている証だ。汗に濡れた顔を上げ剣術の師匠、ジェラルドが声をかけてくる。
「クリストフ様、もう休憩です。手の傷は深くなさそうですが、早めに治療しましょう」
頷きながらも、俺は剣の先に宿る力を信じて木剣を構える。
「もう少しだ。俺にはやることがあるんだ」
血豆に染まった手を握り締め、俺は剣を振り続ける。執念で深く刻み込まれた一撃一撃を振り下ろしていく。
騎士たちとの訓練は俺の戦闘能力を向上させるだけでなく、彼らの戦場での経験も教えてもらった。
その中で、俺は自身の剣技や戦術に磨きをかけた。
八歳になるころには家の中にいる騎士を全員コテンパンにしていた。
しかし魔術の才能だけは一向に片鱗をみせない。
魔法の使えない貴族は存在しない。いるかもしれないが魔術の師匠がいうには聞いたことはないらしい。
年下の五歳の妹でさえ、もう魔術が使えたというのに……それだけが気がかりであった。
まさか家を追放させられて二度とクリストフという名もヴィヨンも名乗るでない、と言われるとは想像もしていなかったな。あの時は。
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