腹ぺこのメス豚先輩は銀髪紅眼美人の夢を見る(1/3)

「結婚しましょう。妊娠してくれませんか、唯お姉様」


「……は?」


「一目惚れした。大好き。見た目がすっごく性癖にストライク。妊娠して。私の子供を孕んで産んで。そしてお姉様の顔面にそっくりな美少女を産んで近親相姦させて3Pするわよ、唯お姉様」


「…………は?」


「は行から始まる返事の言葉の『はい』ね。両思いね、嬉しいわね、当然ね。それでは早速初夜しょやりましょう。本日は絶好の青姦日和よ、唯お姉様」


「………………はぁ⁉」


「唯お姉様の銀髪紅眼を見るだけで私の女性器がそれはもうグチュグチュのグチュ! 大変にエッチね貴女! いいわ、すっごくい! まるで私を興奮させる為に産まれてきたかのようなそんな唯お姉様の見た目がものすっごく性癖にストライク! そのまま妊娠してもいいのよ? ねぇ妊娠しなさい? いいからさっさと妊娠して? さぁ、唯お姉様! ███しましょ! ███!」


 この人、アレだ⁉

 変態だっ――――⁉


「え、えっと、そ、そのっ! お、お、お嬢様っ……!?」


「――――――?」


 助けを求めるべく、僕の近くにいる百合園茉奈に声を掛けてみたのだけれども、彼女もまた超がつくほどの危険人物にして変人である下冷泉霧香の突飛な言動を前にしてフリーズしていらっしゃる。


「フ。で、どうするの? 妊娠する? それか妊娠する? それとも……に、ん、し、ん? いいのよ、どちらでも! 四の五の言わずにセックスしましょう!」 


「どっちも僕が妊娠する事が前提じゃないですかっ!?」


 というか! 

 僕は!

 男!

 なので妊娠なんて生物学的にも不可能!


 ……とは口が裂けても言えないっ!


 だって、今の僕は性別を偽ってここにいるのだから!


「フ。僕っ娘。貴女、僕っ娘なのね?」


「え? ……あっ! ち、違っ……! 私は……!」


「フ。偽造僕っ娘とは随分とレベルが高いわね。こんなの性癖のお子様ランチじゃないの。この世全ての生命と唯お姉様の処女膜を食べるという確定事項に感謝を込めて……いただきます」


「へ? ……って、ちょっ⁉ やっ! やだっ! いきなり僕の制服を脱がそうとしないでくださいっ!」


「フ。制服を脱がないでセックスするつもり……ですって⁉ この僕っ娘、随分と変態レベルが高い……! それでこそ私の唯お姉様! 好き! 妊娠して!」


「け、警察呼びますよ⁉ 呼んじゃいますよ!?」


「フ。セクハラ慣れされている人間ならではの迅速な対応。汚れを知らない綺麗な顔をしている癖に、他人にとことん汚されて経験豊富なのね。……フ。そんなの私の心のアンテナがってしまうじゃない」


「ですからセクハラは止めてくださいませんかぁ……⁉」


「フ。今の発言のどこがセクハラになるのかしら唯お姉様。無学な私にも分かりやすいように具体的に教えて下さらない? 私の発言のナニが男性器を彷彿させるですって?」


「それ絶対に分かっていて言っている発言じゃないですかぁ……⁉」


 理解した。

 どうして茉奈お嬢様があんなにも下冷泉霧香を苦手としているのかを、僕は身を以て体験し、理解した。

 

 なるほど、確かに彼女のようなセクハラ狂いのド変態と違って、常識寄りな性格であらせられる茉奈お嬢様とは本当に水と油のような関係でしかないのだろう。


「とはいえ、流石にこれ以上のセクハラは流石に止めときましょうか。ごめんなさい、唯お姉様。今のは次の演劇で演じる男役。初対面の人の反応を知りたかったから唯お姉様で遊んでみたというのが実のところ」


「そ、そうですよね! ほっ……それなら良かった。今のが先輩の素のキャラクターなのかと。流石は演劇部の部長さんですね! すっかり騙されてしまいました!」


「フ。噓よ」


「…………は?」


 何か我ながら素で冷たい声が出てきてしまった気さえするのだが、当の彼女は至って平静であった。


「フ。どうして本気で信じているのかしら? 今のは処女膜を破瓜させた時に出てくる鮮血のように真っ赤な嘘。素の私はセクハラ大好きな超絶清楚な美少女なの。だって苗字が下冷泉よ。下冷泉のは下ネタのよ。由緒正しき旧華族の下冷泉の苗字が美少女にセクハラをしろと囁くの。安心しきった唯お姉様の表情に絶望の色を加えさせるの最高に楽しいわ」


「よく初対面の人にそんな最低な事をやろうと思えますね? どういう頭してるんですか? ドン引きですよ」


「フ。恋に落ちてもいいのよ?」


「死んでも厭です」


 何だろう。

 この人は間違いなく愉快な人なのだろうけれど、話をしているだけでもごっそりと体力を奪っていく類の愉快な変人であった。


 例えるのであれば、そう。

 レールから外れたトロッコに外付けされたロケットを取り付けて勝手に大暴走をしているような、そういう感じの人だった。


 他人事として遠くから見る分には何ら問題はないけれども、いざ彼女に当時者として関わる分にはごめん被るとしか言い様が無いのだ。


「……ところで下冷泉先輩、1つだけご質問をしても?」


「3サイズ? あらやだ変態。B87のW57にH88よ。聞いたわねこの変態。これは責任を取って結婚するしかないわね。不束者ですが宜しくお願いするわね」


「……そんな事は全く聞いてません。先輩はどうして僕の事をお姉様って言うんでしょうか? 話を聞く限り、僕は先輩よりも年下の筈なのですが」


 お姉様。

 本来であれば自分よりも先に生まれた存在に対する敬称であるのだが、生粋のお嬢様学園である百合園女学園においてはその言葉の持つ意味が変わってくる。


 早い話が、自分よりも年上の人間であれば血縁関係がなくてもお姉様と呼称するのがここ百合園女学園の暗黙の了解なのだ。


「フ。直感。私の全細胞が貴女の妹になりたがっているの」


「すっごく気持ち悪い直感ですね」


「だから理由は特にはない。強いて言うのであれば私が唯お姉様に虐められたいの」


 どうやら彼女は本能に従って生きているタイプの人間であらせられるようであるらしく、彼女にとってのお姉様とはどうにも概念的な存在であるらしい。


 良く言えば感情的、悪く言えば動物的。


 だが、そういう人間が芸術面で多大な成績を残す傾向にある事を考えたら、彼女は間違いなくそっち側の人間なのだろうけれど、それとこれとでは話が別だ。


「――はっ。し、下冷泉先輩……! 我が学園の生徒であるのなら、そのような下品な言動は止めるようにと何度も私は言っているだろう……⁉」


「あ、やっと我を取り戻したんですね茉奈お嬢様」


「フ。折角愛する唯お姉様と猥談を楽しんでいたというのに……残念」


 先ほどから直立不動の姿勢のまま、目と口をぱくぱくと開け閉めしていた百合園茉奈は無事に我を取り戻しては、顔を思い切り赤面させてはセクハラに対する注意喚起を下冷泉霧香に対して投げかけていたが、当の本人は涼しい表情のまま聞き流していた。


「帰れ! 頼むから帰れ! お願いだから帰れ!」


「フ。帰らないから安心して茉奈さん。そもそも、普段からアポなしで貴女の部屋に突撃してエロ本を読み漁る私でも勝手に鍵を作らなかったり不法侵入をしない程度のモラルはある。実際問題、学院内の私は成績優秀かつ品行方正だと思うのだけど。違って?」


「それは……そうだが……! いや、本当にそうだけど……! どうして学内ではあぁなのに私の時だけその態度なんだ……⁉ って! 私がエロ本持ってる訳ないだろう⁉」


「フ。ベッドの下。金庫。パスワードは茉奈さんの誕生日。男の娘モノ」


「ああああああああああああああああああああああああああああ⁉」


 いきなり大きな声を出しては悶絶し、その場に座り込んでは大量の胃薬をヤバいブツのように摂取する茉奈お嬢様であった。


 驚いた。

 あの茉奈お嬢様がこうも一方的に可愛がられるだなんて、目の前にいるあの変態はかなりのやり手なのかもしれない。


「……茉奈お嬢様。この人、本当に学内では真面目なんです?」


 初対面でもどうしようもない人間だという事しか分からない下冷泉霧香は、学内では普通に真面目であるという事実が僕にはどうしても理解できなかったし、想像もできなかったのだが、そんな僕に対して下冷泉霧香は勝ち誇るような薄笑いを浮かべながら答えてくれた。


「フ。簡単な事よ、唯お姉様。要するに私がそういうとして女子生徒に接すればいいだけなのだから。私ね、善人を演じて純粋無垢な女の子を騙すのが性癖なの」


「救いようが無い性癖ですね」


「ロクでもないだろう? 素のアレの詐欺師っぷりを知っている私からしてみれば、アレに騙されている女子生徒が可哀想でしかない」


 苦虫を嚙み潰したようなお嬢様の表情を見るに今のはどうやら本当の事であるようで、このセクハラ大魔人であらせられる下冷泉霧香は本当に学内では常識人を演じているらしい。

 

 常識を知っている変態ほど面倒臭いという事が茉奈お嬢様の態度から分かるけれども、当の本人は気にするような素振りを一切見せていない事から、彼女が中々の強者であるという事に説得力を持たせていた。


「フ。褒めてくれて私はとても嬉しい。特に唯お姉様の有り得ないモノを見るようなその視線がとてもいい! 気持ちいい! 幸せ! ドMに産まれてきて良かった!」


「茉奈お嬢様。立ち話もアレですし、早く寮の中に入って扉の鍵を閉めましょう。外で会話なんてしていたら不審者に声をかけられてしまいますよ」


「あらやだ放置プレイ? フ。唯お姉様は私の性癖を理解してくれている。やっぱり私と唯お姉様の相性は最高ね。ついでに身体の相性も確かめましょう。はい、唯お姉様が服を脱がなかったから私が服を脱いだわよ。責任を取って結婚しましょう」


「困りましたね。先輩は無視も通用しない類の救いようのない変態さんなんですね」


「唯お姉様のキレキレな罵倒が臓腑にすーっと染み渡って……あぁ……幸せぇ……! 豚になっちゃう……!」


「あはは、気持ち悪いですね。あぁはなりたくないですね、僕」


「ちょうだいちょうだい! そういうのもっとちょうだい! 養豚場の豚を見るようなその目で私をとことん罵って!」


「先輩の前世は豚か何かで?」


「ブヒ。堪らねぇ罵倒ね。興奮しちゃう」


「あはは、キャラがブレるんでメス豚風情が人の言葉を話さないでください」


「ブヒィ!」


「あはは、随分と下ッ手糞な豚の真似ですね。メス豚なのに豚にもなれないだなんて本当に救いようがないですね」


「ブヒィ⁉ ブヒィ! ブヒィィィィ!!!」


「やれば出来るじゃないですか。その活きですよメス豚先輩。食肉加工されたくなければメス豚らしくみっともなく鳴いてください」


 おっと、しまった。

 目の前で四つん這いになっている先輩が余りにも変態メス豚だったものだから、ついつい溜め込んでいた僕の本音が出てしまった。


 だがしかし、言われた当の本人は頬を赤らめては嬉しそうに地べたに這いつくばってはブヒブヒ言う動物に成り下がっていたし、お嬢様に至ってはいきなり繰り広げられるSMプレイを前に若干どころかかなり引いているご様子である。


「……唯……? どうして笑ってるの……? 目がちょっと怖いよ……? え、嘘……? 唯はもしかしてあっち側の人間なの……? 噓だよね……? ねぇ……? 唯は違う、よね……? 唯は先輩と同じ類の変態じゃない、よね……?」


「お嬢様。僕をあんなと一緒にしないでください。人間に失礼ですよ」


「そうよ茉奈さん。全く、これだから素人は。いい? 唯お姉様は心からのドSであって、心からのドMである私とは真反対の存在。演劇で言うのなら演者と観客ぐらい違う。というか、演劇部部長の私の目の前で杜撰な演技は止めて。るのならちゃんと最後までって。プレイの最中で相手が正気に戻ってしまった時の気まずさを知らないとは言わせない」


「そういうメス豚先輩は何を勝手に人の言葉を喋りやがるんです? 最後まで豚の真似をしてくださいね?」


「フ。フヒ、フヒヒ、ブヒヒ……!」


 困った。

 げんなりとした表情を浮かべては絶望のどん底に浸っている茉奈お嬢様はどうにも下冷泉霧香を一方的に嫌っているようなのだけど、僕はそこまで彼女を嫌えなかった。

 

 確かに彼女は僕の異常な学校生活を送る上で最大最悪の敵にして障害であるという事を頭の中では自覚こそすれども――。


「ふふ」


「ブヒ」


 ――だなんて、お互いに笑みを投げかけながらアイコンタクトのように意思疎通を図っている始末でさえある。


 何故だろう。

 僕はサディストでは無い筈なのだけど、良い反応をしてくれる彼女に対して胸がときめいているかのような錯覚を覚えている気がする。

 

 というか、僕は昔どこかで、こんなやり取りをしていたような――いや、あって堪るかそんな事。


「……こほん。下冷泉先輩、本日はどういう目的でやってきた。演劇部の部費についての件は以前に話したように増やすつもりだが」


 咳払いをしては律儀に雌豚先輩に話題を投げかけてくれる茉奈お嬢様はなんて律儀なのだろう。


「ブヒ?」


「……今は喋っていいですよ」


「フ。では、人に戻るとするわ」


「……何で唯の言う事だけは素直に聞くの、この変態……」


「フ。大好きな人の命令であれば何でも聞いてしまうのがこの下冷泉霧香という女の悲しき習性なものだから」


 すっかり調教済みであった。

 困った、僕は一体どうしてメス豚の調教師になってしまっているのだろう。


 変態を前にした時の一番の最適解は無視であり、茉奈お嬢様がやるような行為はベストとはとても言えないのだが、果たして彼女がその事に気づける日は来るのだろうか……と考えつつも、そう言えばこの下冷泉霧香とかいうメス豚先輩は放置プレイでも興奮する類の変態だったと今更ながらに気が付いた。

 

「ブヒ。部費の話じゃないでブヒ……ごめんなさい、ナチュラルにブヒってた。今日は演劇部関係で来た訳ではなくて、余りに暇だったから茉奈さんで遊んで一方的に辱めようと思って来ただけだったのだけど……フ。とんだ掘り出し物と巡り会えた。涎が止まらねぇ。じゅるじゅるじゅるりら……!」


 私で遊ぶなド変態と言わんばかりに嫌そうな表情を浮かべているお嬢様とは対照的に、奇天烈極まりない変人である下冷泉霧香は四つん這いの状態で僕の表情を覗き込んでは薄笑いを浮かべている……どころか、僕の脚まで近づいては黒タイツをくんくんブヒブヒと匂っている始末である。


 彼女が言うように、こうして僕と出会ってしまったのは全くの偶然……まぁ、僕からしてみれば何とも質の悪い事故としか言い様がない。


 とはいえ、この変態が学校であんな変人っぷりを周囲に披露させられるものならば僕は間違いなく奇異の視線に晒される訳なのだから、そういう意味で考えるのであれば周囲に人がいない今のタイミングで彼女に遭遇したというのは逆にタイミングが良かったのかもしれない。


 それに彼女は3年生。

 彼女が僕よりも一学年上の先輩という立ち位置である以上、学校生活で彼女と関わる機会はそうそうないだろう。


「そうか。なら話す内容はもうないな? 帰ってくれ。死ねとは言わないから消えろ。頼むから私をこれ以上不愉快な思いにさせるな。先輩と話すといつも常備している胃薬が無くなって仕方が無い」


「フ。そこまで頼まれたら仕方ないわね――と、以前の私なら答えていたのでしょうけれど、唯お姉様から直々にメス豚調教を施された菊宮ブランドのエリートメス豚にして、顔面国宝超絶天才演者にして1000年に1人である美少女メス豚の私はそう答えない」


「……返答次第では学園から除籍させてやることも視野に入れてやるぞ、あぁん……?」


 もしも視線に殺傷能力があったのなら、お嬢様の視線は人を余裕で殺せていたのだろうけれど、残念ながら変人である彼女に対してはノーダメージどころか逆に回復させている始末である。


「フ。だけど1つ要件が出来た。理事長代理である茉奈さんに聞くべき案件ね」


「……10秒だ。10秒以内に要件だけ言ってから消えろ」


「フ。


「――は?」


「だって、唯お姉様がいらっしゃるんだもの。妹である私も入るしか選択肢はない。それに私は学内では品行方正で真面目で優秀で優等生にして模範生にして超絶美少女。学校側からしてみても断る理由なんてないでブヒものね」


 そんな常人ではとても理解できない思考回路から繰り出される下冷泉霧香の言葉を耳にした僕の主人である百合園茉奈は「おなかいたい」と泣きそうな声を出しては、腹を両手で抑えながら崩れ落ちた。


「という訳で……フ。今後も宜しくね、私の唯お姉様?」


 あぁ、僕も胃薬が欲しいなぁと思いながらも、僕もお嬢様と同じように胃痛と頭痛と目の前に現れた変態メス豚先輩に悩まされるのであった。

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