私の面倒を見てくれる銀髪僕っ娘に男性器が生えてて強すぎるんだが(2/2)

「……いいんでしょうか、こうして転校初日から学校をサボるだなんて」


「理事長代理である私が良いと言ったのだから良いに決まっているし、今日は授業と言えるようなこともしていない。何処の学校でもやっているような何の変哲もないホームルームが数時間あって、いつもよりも早めの時間に終わるのだから気にしなくていいだろうに。君は真面目というか案外小心者なんだな?」


「ちょっと、疎外感といいますか、罪悪感が、こう……」


「女装して女学園に通っていておいてよく言う。さて、あの建物が見えるか? あれが私たちの寝床となる場所。百合園女学園の女子寮こと『椿館つばきかん』だ」


 学校をサボって、その代わりに理事長代理を勤めている百合園茉奈の仕事の手伝いをした僕がこうして彼女と一緒に学校の外に出たのは昼下がりの頃。

 

 いつもよりも早めに学校が終わった百合園女学園の女子生徒たちに極力鉢合わせないよう下校するタイミングを見計らった僕と彼女は仲良く2人で駄弁りながら、これからお世話になる女子寮の前にへとやってきた。


 色々と訳ありの僕が今日から住むことになったこの寮の外装を一言で言うのであれば『洋館』。


 それも金持ちの道楽で建てるような洋館ではなく、大体100年前の大正時代に建てられたという古びた洋館……という事を、徒歩で下校がてらこの寮の最高責任者である百合園茉奈から説明を受けていた。


「繰り返しの説明になるが、我が学園の生徒にわざわざ寮生活をしたがる変わり者は皆無と言ってもいい。事前に説明した通り、この寮の利用者は私たち2人だけだ」


「こんなに立派な建物なのにそれはそれで勿体無いですね」


「当然だろう。家から離れて生活をしたいだけならそこら辺の高層マンションを借りればいい。わざわざ寮則に縛られたいだなんていう酔狂なお嬢様はいない」


「なるほど、納得です。だから女子寮なのに利用者がお嬢様1人だけだったんですね」


「その通り。とはいえ、1人しかいないものだから案外自由で良い生活が出来るのだがね」


 立派な建物と言えどもそれほど大きな建物ではなく、住んでいる寮生の数も目の前にいる彼女に僕を合わせての2人ぐらいしかいないとの事だったので、一つ屋根の下で僕の女装事情を知らない女子生徒に鉢合わせてしまうというハプニングだけは回避できそうであった。


 そう考えるだけでも、非常に気が楽であった。


 というのも、とても外では言えない内容ではあるのだけど、だ。


 女装をしながら学園生活をするという事は常日頃から女装の意識をしないといけないという訳であり、そんな状態でありながら心身とも休めていなかった所為で精神的な疲労が積み重なってしまっていつの日かボロを出してしまうだなんて、考えるだけでも最悪でしかない。


 そういう意味においては、利用者が僕とお嬢様の2人しかいないこの女子寮は――皮肉にも女子寮だというのに――男の僕にとっては安息地とも言える場所であるのかもしれないのだ。


 そう思っていた矢先。


「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」


 いつも毅然とした態度を取ることが多い彼女にしては珍しく大きすぎるため息を口にしては、ポケットの内側に入れていたのであろうガラス瓶を取り出してみせた。


 一瞬だけ視界に入ったその瓶に貼り付けられているラベルを見るにどうやら胃腸薬らしく、今朝の理事長室で見た胃腸薬と同じ銘柄であり、彼女の慣れた手つきから見るにどうにも常備薬であるらしかった。


「今朝も思いましたけど、お水は飲まないんですか? 駄目ですよ。お水も一緒に飲まないと胃潰瘍になったりしますから、ちゃんと飲まないと」


「もう慣れたよ。いや、本当はこんなものは飲みたくはないんだが。ヤツに出会うかもしれないと思うと胃がキリキリしてきて仕方がない」


「ヤツ?」


 お嬢様にしては珍しく面倒そうな表情をお浮かべになられたので、興味が湧いた僕がその事について言及してみるとお嬢様は目をぱちくりと何回か瞬きをした後に、納得がいったと言わんばかりの声を出した。


「そう言えば唯は知らないのだったか。うん、いい機会だから情報として共有しておこう。唯にとっても一番の驚異になる事は間違いない人物になるだろうからな」


「一番の驚異、ですか? それは大きく出ましたね」


「うん。というのも、あの先輩は我が学園の中でも一番の――うわっ、やっぱりいるぅ……」


 本当に嫌な人物に出会ってしまった時の声と、苦虫を嚙み潰したかのような苦そうな表情を浮かべた彼女の視線の先……椿館なる女子寮の扉の前に百合園女学園の制服を身にまとっている人影がいたのである。


「……っ!」


 女性である百合園茉奈にいくら女装が様になっていると言われても、僕が女装をしている事情を知らない人間とこうして遭遇してしまうのはどうしても慣れない。


 一応、念のため人目があるだろうからと女装の演技をし続けていて良かったと心の底から安堵しつつも、それでも自分の正体がバレてしまうのではないのかと思うと心臓がバクバクと稼働する音がとてもうるさくて、こうして頭の中で考え事が出来るだけでも奇跡にしか思えなかった。


「寮の前に立たれているあの方はお嬢様の御知り合いの方ですか?」

 

 水分という水分が無くなってカラカラに乾いた喉に涎を流しつつ、僕は努めて平静を装いながら、横にいるお嬢様に質問を投げかけたが……彼女が浮かべる表情は実に深刻なものであった。


「最低最悪の知り合いだよ。あの女の名前は下冷泉しもれいぜい霧香きりか。百合園女学園の演劇部の部長で、学園内でであり、唯の最大の障害と言っても過言じゃない存在だ……!」


「ちょ、それって……⁉」


 その人物は下手すれば、僕の女装を看破するかもしれない超がつくほどの危険人物って事じゃないか⁉


 だって、演劇部と言えば当然ながら演技をする部活であり、その演技をどれだけリアルに見せられるかどうかで日々精進するような部活であって……僕のようながするような演技なんて簡単に見破られてしまうのではないのだろうか⁉


 流石に初見の人の嘘をいきなり見破るだなんて真似はとても出来ないだろうけれど、それでも普通に生きている人間と比べて僕の女装という嘘を見破る可能性が高くないだなんて、果たして断言できるだろうか……⁉


 そんな意図を孕んだ僕の視線を受けた彼女にも、僕の懸念は伝わったようで、深刻そうな表情を浮かべてはこくこくと何度も頷いていたのであった。


「いくら演劇部部長と言えどもそんな都合の良い、いや、悪すぎる展開は流石にないと断言してくれませんか茉奈お嬢様……⁉」


「苗字だけでも何となく分かるだろう……⁉ 下冷泉家は日本の旧華族! 演劇だけでなく茶道だとか華道だとか日本古来の文化を嗜んでいるものだから陶芸品だとか芸術品だとかを見る目も備わっている! 本物だとか偽物だとか、そういうのはすぐ看破するような女で性格は最悪極まりない……!」


「何ですかその聞いているだけで僕を殺しにかかっているとしか思えない人は⁉ どうしてそんな人が都合よく女子寮の前にいらっしゃるんです⁉」


「そんなの私が知る訳ないだろう⁉ そもそも、だ! アレの考える事が分かって溜まるか! もう2度と寮に来るなって何度も釘を刺したのに何度も来るようなヤツだぞ! 私の胃に穴でも開けたいのかアレは⁉」


「何度も襲来してくるタイプのラスボスじゃないですか⁉」


「最高の例えだな! 最悪すぎるほどにヤツにぴったりだ!」


 その危険人物がやってくるというリスクを考えないまま、こそこそ話とは思えないような声の音量でぎゃあぎゃあと喚いていた僕たちのうるさ過ぎるやり取りに気がついたのであろう件の人物が余裕たっぷりな薄笑いを浮かべながら近づいてきたのが視界の隅に映り、僕たち2人は全く同じタイミングで慌てふためいた。


「ちょ、ちょっとっ!? 茉奈お嬢様が大きな声なんか出す所為で向こう側にいるあの人がこっち見ましたよっ!?」


「は、はぁっ!? 大きな声なんか出してないんだけど!? 寧ろ大きい声を出しているのは唯の方……って! うわぁ! 来てる! 来てる! は、早く逃げ……!?」


 だがしかし、そんな僕らの都合など知ったものかと言わんばかりに、その危険人物は余裕たっぷりと言わんばかりの薄ら笑いを浮かべており、僕たちが逃げるよりも先に件の人物はやってきたのであった。


「――フ。御機嫌よう、百合園茉奈さん」


 濡れたからすを思わせる朝日を弾く艶があり、肩まで届く黒髪。


 透き通るような白い肌に、遠目から見ても分かるぐらいの大きな睫毛まつげ


 モデルのように細身ですらりと伸びた細い手足。


 細く整った鼻梁と、芸術品を思わせる顔の輪郭線。


 上品さと初々しさを連想させる桜色の薄い唇。


 色白なことも相まって、いかにもな深窓の令嬢といった雰囲気。


 そして、どんな嘘すらも見透かされそうになってしまいそうなほどに深く、夜を思わせるような深い色をした黒色の瞳。


 だけど――どうしてだろう?


「……?」


 この人と僕は、遠い昔に出会った事があるような――そんな錯覚を覚えた。


 一体どこで会ったのだろうかと、自分の頭の中にある記憶を呼び起こそうと彼女の顔をまじまじと見つめてみたのだけど、やはり心当たりがない。


「……御機嫌よう、下冷泉先輩。早速で悪いが消えてくれ。見て分かる通り、私は先輩と違ってとても忙しい」


 百合園茉奈がそんな刺々しい言葉を、とても1学年上の、目上の存在に対して言うような内容ではないなと僕は思ったのだけども、当の本人は寧ろとっても嬉しそうな表情を浮かべてさえいる。


 それが却って不気味というか、その不敵感が彼女……下冷泉霧香という存在の只ならぬ雰囲気を更に強めていた気がする。


「あら不躾で他人行儀。……フ。そういうのとっても大好き」


 無敵の笑みとは、正しく今の彼女が浮かべているものであるのだろう。


 そんな下冷泉霧香の笑みに対し、茉奈お嬢様は怒りかあるいは苛つきの感情によるものか、ぴくぴくと口端を動かしていた。


 彼女はクールそうに見えて、案外感情的というか、ついつい素を出してしまいがちである。


 とはいえ、僕はお嬢様と違って、演技自体がバレてしまえばその場で社会的に終了してしまうという事情がある訳なのだけど。


「そうか。私は大嫌いだ。すっごく大嫌いだ。特に私はそういう先輩が大ッ嫌いだ」


「フ。私はそういうツンデレな茉奈さんがとっても大好き」


「こっちは本心から大嫌いなんだが? というか本当に何なんだその『フ』とかいう笑い声は。私を馬鹿にしているのか、えぇ?」


「フ。私は大好きだから安心して。それからその笑い声は呼吸音みたいなものだから気にしないでと再三言った気がする」


「私はここに来るなと何百回も言った気がするんだがね」


「フ。そうだったかしら? ところで茉奈さんは丁度帰ったところ? それとも今から逃げるところ? 宜しければ私も一緒について行って――」


 ついて行っていいか。


 そんな言葉を発するつもり筈だった彼女はまるで信じられないモノでも視たかのように、黒曜石を思わせるような宝石のように綺麗な目でこちらをまじまじと見つめてきた。


「――そちらの方は? 茉奈さんのお知り合い?」


「今日からこの女子寮を利用する事になった2年生の菊宮唯さんだ。私は彼女に寮の施設の案内をしなくてはいけないから先輩に構う時間なんて微塵もない。それではこれで失礼する」


 未だに気持ちを上手く切り替えられない僕とは違って、彼女は極めて事務的で冷淡な態度を取り続ける事で乗り切る方針に切り替えたようだ。


 実際、じろじろと僕を覗き込んでくる下冷泉霧香の視線から僕を守るように、茉奈は1学年上の先輩である彼女と僕の間に挟まっては堂々と立ってくれていた。


 いや、男なら普通に考えて逆なんじゃないのだろうかと薄々思ってしまうのだけど、そもそも今の僕は女子である訳なのだからそういうのを考える必要はないのではと思いつつも、やはりどこか胸の中で引っかかるような気持ちに陥ってしまうが今はそんな事を考えている余裕なんてない。


「…………フ」


 何かを考え込むような動作をしてみせたと思ったら、その動作をたったの数秒で取り下げた彼女は「フ」と再び作り物めいた薄ら笑いを浮かべてみせた。


「ねぇ、茉奈さん。案内の途中なのは承知の上だけど、と少しだけ話をしてもいいかしら?」


 危険人物である下冷泉霧香が僕の事を『彼女』と言ってくれた事で、僕と茉奈お嬢様の間に張り巡らされていた緊張の糸がほんの少しだけ緩み、全く同じタイミングで安堵のため息を吐き出した。


「だから、私たちは忙しいと言っただろう」


「本当に少しだけの時間でいいから。別に取って食うつもりなんてないのだから、そこまで警戒しなくてもいいじゃない。……お願い。本当にお願い。一生のお願い」


 先輩は優しい笑みを浮かべながらそう口にするが、お嬢様は彼女に対して楽しい思い出が無い為なのか、下冷泉霧香に対する態度が軟化する事は無かった。


 一体全体、どうして茉奈お嬢様は彼女を一方的に嫌っているのだろうか。


 こうして話をしている分には、あの先輩には不思議な雰囲気……というよりもカリスマだとかオーラのような近づきがたい雰囲気があるけれども、それでもこうして彼女たちの会話を聞く分にはこれといった不愉快な気持ちに陥る事はなかった。


 だからこそ、僕は少しばかりの同情の念を下冷泉霧香に向けていたと思う。


「茉奈お嬢様、本当に少しぐらいなら下冷泉先輩と立ち話をしてもいいではありませんか。初対面の先輩に挨拶が出来ないままだなんて、流石に失礼だと思いますよ?」


 僕がそう提案したと同時に下冷泉先輩は目をキラキラとさせて、本当に嬉しそうな表情を浮かべてみせた。


 そんな先輩と反して、僕に無言で抗議の視線を向けてくる茉奈お嬢様であるけれども、逆にこういう態度を取り続ける事で演劇部部長である彼女に疑惑を浮かばせるのも頂けないし、そもそも僕を女であるという錯覚を植え付けるのは大事な事である。


 僕とお嬢様の目的は僕の女装がバレないことであって、江戸時代の日本がやった鎖国のようにどんな人間であろうとも関係性を築かない訳じゃない。


 寧ろ、ここで彼女に僕が女性であるという思い込みを更に強固なものにする事で、僕が平穏な日常を手に入れる為の未来の投資と思えば安いぐらいだろう。




















「結婚しましょう。妊娠してくれませんか、唯お姉様」

























「……は?」


「一目惚れした。大好き。見た目がすっごく性癖にストライク。妊娠して。私の子供を孕んで産んで。そしてお姉様の顔面にそっくりな美少女を産んで近親相姦させて3Pするわよ、唯お姉様」


「…………は?」


「は行から始まる返事の言葉の『はい』ね。両思いね、嬉しいわね、当然ね。それでは早速初夜しょやりましょう。本日は絶好の青姦日和よ、唯お姉様」


「………………はぁ⁉」


「唯お姉様の銀髪紅眼を見るだけで私の女性器がそれはもうグチュグチュのグチュ! 大変にエッチね貴女! いいわ、すっごくい! まるで私を興奮させる為に産まれてきたかのようなそんな唯お姉様の見た目がものすっごく性癖にストライク! そのまま妊娠してもいいのよ? ねぇ妊娠しなさい? いいからさっさと妊娠して? さぁ、唯お姉様! ███しましょ! ███!」

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