47 クローラー君って、謎ですね?

 デザインのモチーフは、シルフ。

 世界版に移行しても、サーヤのシルフ姿を忘れないように。

 全身図で、スピネルを抱くようにして、羽根の部分にメレー・ダイヤモンドを仕込んで、そのスピネルを制御させたいんだ。

 鎖留めにしようと思ったけど、装備はどうせ魔法のサムシング。着用者のサイズにきちんと収まるんだから、鉢金の役割を持たせて、プラチナバンドで作っちゃえ。

 まぁ、メレー・ダイヤの配置で悩むんだけどね。

 スッキリとした配置で、最大限の魔力を主石に。

 最大の魔力を得た時の宝石の煌めきは、想像を絶するものがある。これまでは指輪だったけど、今度はサークレットだ。

 サーヤの額で、この黒いスピネルが煌めくの、早く見てみたいよ。


 おっ……紬さんからメッセージだ。

 時間が取れる時に、相談に乗って欲しい……。時間が取れるから、すぐに行こう。

 リルはどうする?


「……面白そうなら、私も呼んで」


 レベルアップに向けて、難しいカットに挑んでるものね。

 根を詰め過ぎてもミスるから、息を抜きたくなったら、紬さんの工房へおいで。

 カラコロコロと駒下駄を鳴らして、紬さんの所へ行くと、豪快にも鶏の丸揚げを解体していた。


「また、今日は一段と豪快なものを食べてる」

「あ、忙しい所をごめんなさい。……これはセルフレベルアップ祝い」


 レベル8になったんだ。おめでとう!

 プレゼント的なものは準備できてなかったから、持ち物欄にストックしているロキさん製串焼きを……2本あげる。お店に出禁を食らった分、後でいっぱい焼いてくれたんだ。

 チマチマ楽しんでる、私のとっておき。

 お礼に、骨付きモモ肉を取り分けてもらった。皮がパリパリして美味。


「……でね。サクヤちゃんに見てもらいたいのは、この布なのよ」


 桐箱の蓋を開けて、中を見せてくれる。

 なにこれ、真っ白な透明感の有る美しい布だよ。羽衣っぽい。

 慌てて、モモ肉を置いて、水を作って手の脂を洗う。ウンディーネって便利。

 広げてみると、ますます神々しい。

 でも、この感触には既視感がある。


「クローラー君の糸で作った布……だよね?」

「正解。……これを作って、レベルアップしたの」


 クローラー君は大量に糸を吐いてくれるものの、その糸は強いけど細いらしい。

 和服で言うなら、羽織を仕立てられる分量の反物。

 相当に手間がかかっていそうだよ。……さすが、レベルアップ課題。


「ひょっとして、次はこの応用?」

「本当に、読みが冴えてるわね。その通り。これをどう活用するか? が問題なの」

「魔力を良く通すって言ってたけど、実際にはどのくらい?」

「ほぼ、素通しに近いくらい」


 それは装備として、マズイやつかも……。

 ピノさんも呼んだ方が、良くない?


「呼んであるのよ。まだ来てないだけで」

「ごめん、これを持って来ないと、話にならないでしょ」


 キラキラ~っと飛んできたピノさんが、まず布の上に親指サイズの金属片を置く。

 それってやっぱり……?


「うん、クローラー君製造の謎金属」


 製造と来たか。物は言いようだ。

 確かに、どちらもクローラー君の産物だから、相性が悪いはずがない。

 実用性はともかく、課題としては確実な組み合わせだよね。


「問題は、これとこれを組み合わせて何を作るのが良いか? ……なんだけど」

「謎金属を金属ボタンにでも、してみる?」

「それだと、単に魔法を素通しのように通す、お洋服にしかならないのよ」


 さすがに、そんなことくらいは紬さんも考えたみたい。

 だから私も、巻き込んだのか。


「でも、たとえ金属ボタンに宝石を乗せたところで、宝石単体と違う効果を出さないと意味がないんだよね?」

「そうなの。そこが問題なの」


 けっこう難題だよね、これ。

 魔法が素通しと考えて良い、布と金属。それを、効果的に使って何かを作らないといけない。


「ピノさんの方は、ルーンで何か出来ない?」

「宝石と同じでしょ。ルーンで何か起こしても、それは紬さんの技能にならないよ」

「そう言われても、布装備単体でなにか起こせるようなものじゃないでしょ。強靭に作って装甲値を上げるとか、魔防を上げるくらいよ」

「デザインが違っても、効果は変わらない?」

「うん。基本は布の時点で力を持ってるから。その布は属性値もフラット……。どの属性も関係なく素通し」


 紬さんが、フォークを揚げ鶏に突き刺す。

 美味しいものに、八つ当たりしてはいけません。

 一般的な材質のシルクスパイダーの上位として登場してきた、クローラー君だからね。上位の装備ができるのが当たり前……のはずなんだ。


「一応物理防御が、シルクスパイダーよりプラス1よ。それだけでも上位といえなくもないけど……お世話できるのもレベル7からと思うと、物足りないわ」

「他に何か引っかかりになる特徴はないの?」

「無いのよ……本当にプレーンと言うか、素直な布なのよ」


 頭を抱えたくなるのも解る。

 一癖あってくれると、取っ掛かりになるんだけど……。

 ピノさんが手羽あたりを貰って、ひと齧り。


「この布って、色染めできる?」

「そこにぶら下がってるでしょ。普通の染料でどうにでも染まるの。織り方でも変化なし。そこにあるレースもクローラー君の産物だもん」


 丁寧に編まれた、繊細なレースがテーブルの上。

 私達に相談する前に、できる事をやらない紬さんじゃない。

 どうにでもして! という性質なのに、どうにもならない理不尽さ。思わず、カーバンクルのカー君に相談してみたくなるけど、専門外だもん。ヒントもくれそうにない。そういう所ははっきりしてるんだよね、可愛いのに。


「とりあえず布地の方は置いておいて……」

「置いておかないでぇ……」

「こっちの謎金属の方は、どうなの? 合金作ってるとか?」


 紬さんの悲痛な叫びは無視して、ピノさんに訊いてみる。

 別方向から攻めてみよう。


「だから、謎金属なんだよ。どんな金属とも相性良く混ざる癖して、元の金属と全く性能が変わらないの。合金にする意味がまったく無いという」

「自己主張をしない子なんだ」

「まあ、そういう言い方もできる」


 同じクローラー君産とあって、良く似てる。

 雲を掴むような話と言うか、掴み所が無いと言うか。

 君たちは通せんぼしてやろうとかいう、意地悪さは持ち合わせてないのかな?


 ……ん? 通せんぼ?


「ピノさん、アレ持ってる? 魔力遮断シート!」

「有るけど、何に使うの?」

「実験しようかと思って。……魔力素通しな布の下に魔力遮断シートを置いたら、その魔力はどこに行くのかな?」

「ピノさん、サクヤちゃん。魔力遮断シートって何?」


 しっかり持ち物欄に収めていたピノさんは、説明しながら切り出す。

 大きさは、色染めした布片と同じ大きさ。

 謎金属を上に置いて、ピノさんが魔力を流す。


「あはは、行き場が無くなって布が魔力をキープしてる」

「待って待って……もしかしたら」


 俄然元気になった紬さんが、デスクの引き出しの小箱の中から、透明な小石を取り出す。

 あれは、宝石でなく魔石。

 あ……ひょっとして!

 魔石を布に押し当てると、ほんのり金色のヴェールがかかった。

 布がキープしてた魔力を、吸い出しちゃったの?

 魔石を光に透かして除きながら、紬さんがニンマリとした。


「ピノさん、その魔力遮断シートを反物ひとつ分だけ下さいな」


 語尾にハートマークが付きそう。

 何か思いついちゃったのかな?


「良いけど、何をするのか教えて」

「ふふん。クローラー君の布に、裏張りか縫い合わせかでくっつける! それでローブかケープを作るの。留め具を後で、ピノさんに謎金属で作ってもらって、そこに空魔石を交換可能にして固定すると?」

「えっと……あ。受けた魔力をキープして、魔石で吸い取っちゃう!」

「理論上はね。実際に炎魔法やら、サイレントやらをかけてみて実験しないと駄目だけど、上手くいったら、敵の魔法を吸収できるかも」

「紬さん、発想がサクヤっぽくなってない?」

「うふっ。影響されてるかも」


 ちょっとナニソレ。

 私、そんな悪質じゃないよ?

 面白そうな代物だと思ったけど、絶対風評被害だよ!

 お願いだから、抗議だけさせて。

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