46 私は私だよ?

「なんだか、やり遂げた感があるわぁ……」


 運営さんから届いた、ワールドワイド版移行のお知らせ改訂版を見て、私は満足して微笑んでいる。

 種族が4種族から、5種族に変更されたお知らせ。

 そう、日本版プレイヤーと、スクリーンショットをばら撒いて海外にアピールした勇者がいたおかげで、ケットシー追加が決定したのだ。

 私も、運営さんにメールを送って、猛抗議した甲斐があったよ。

 大きな流れがもう変えようが無いなら、せめて1つくらい我が儘を言わせて欲しい。


「カー君も無事に、世界版に移動できるなら、安心だよ」

「もっと他に、心配すべきことがあると思うけどね」


 カーバンクルのカー君は、美味しそうにフルーツサンドをパクついている。

 これ、絶対に好きだと思ったんだ。

 澄ました顔でカー君は言うけれど、実際の所、領地争いに私が関与する余地って、あまり無いんだよ。

 あと2ヶ月ほどの戦いの後、状況判定で勝者が決まる。

 その後、半月の長いメンテ期間を置いて、世界版に合流することになった。

 三角島が、そのまま半島としてワールドマップに付け加えられるから、設備やゴーレムなどは、そのまま持ち込めるらしい。

 スキルやステータスも、そのままスライドするのだけれど、唯一……人族以外のプレイヤーは、5種族で作り直すことになる。基本ステータスは、その種族に合わせ、成長分と使える技能は継承可能だとか。

 ニンフやウンディーネは、エルフとステータスが近いから、それが一番無難に移行できるそうな。ハーフリングとかに移行しちゃうと、MPが0になるから、二進も三進も行かなくなっちゃうだろうけど……そんな無茶さえしなければ、良い。


 それと合わせて、これまで争ってきた3勢力……人族、魔物族、精霊族が全部同勢力になるわけで。

 プレイヤー間の問題の方が、大きそう。

 合流して、一つの国を作るのが理想なんだけど……。

 特にギルドにも属さず、お気楽生産職な私は、そういう話に加わる気はないもん。

 私は基本的にロキさんの選択について行くだろうし、すあまさんたちとか、ケインさんやピノさん、紬さんやリルが一緒でいてくれたら言うことがないと思うだけ。

 私が悩むことは、何も無い。


「割り切っているんだ?」

「直接戦う人じゃないもん。私は誰かの為に有るよ」

「君らしいね。友達の作り方で、嘆いていた頃が懐かしいよ」

「カー君、それは言わない約束だよ?」


 誰か一人と繋がれば、どんどん人の輪が広がっていく。それが、MMORPGだ。


「それより、カー君。どうかな、その指輪の出来は」

「サクヤの新作だね」


 プリンセスカットのルビーを、左右4つづつ。合計8個の0.1カラットのメレー・ダイヤで飾ったお品。ロキさんに託す予定の会心作だ。


「腕を上げたね。ギリギリだけどジュエリーでのプラス1効果が加わって、物理攻撃力プラス4の凶暴な品になってる」

「カー君に褒めてもらうのが、一番嬉しいよ」

「サクヤはもう少し、自分の重要性を理解した方が良いね」


 最後に変なことを言われたけど、カー君が褒めてくれたので、ご機嫌でアトリエに帰る。

 今度は何を作ろうかな?

 やっぱり、サーヤの為のブラックスピネルのサークレットかな?

 世界版でもイメージが残るように、可愛らしくシルフをイメージしたデザインに出来れば良いけど……その辺は魔力の流れ次第になる。

 指輪ならきっちり固定できるんだけど、二刀流のサーヤは隔たり無く加速してやらなくちゃいけないから、サークレットにするの。

 この間、サーヤの剣ができるまでの暇つぶしに坑道に行って見つけた石だから、本人も有るのを知ってるから急がないと……。



       ☆★☆



「解った。ちょっと退屈だが、『エコーズ』は戦線維持に務める」


 不満を押し殺して、ラドリオさんが同意した。

 この所は、マンネリ気味だった定時会議も、ちょっと熱を帯びている。

 タイムリミットが設定されたことで、勝利条件が見えてきたからだ。

 すでに、魔族の一人負けは確定している。

 圧倒的に優位になっているのは、我らが精霊軍だ。第3集落は完全に手に入れており、第2集落も防御側に回っている。

 人族は、魔族と争う第1集落を完全に手に入れた上で無ければ、第2集落を争っていても、精霊軍を逆転できない。

 第1集落戦に魔族が戦力を集中できるよう、防衛ライン堅持の動きをはっきり見せる役割も、重要。だけど、退屈そうだ。


「第1集落だけど……」

「ちょっと待って。サクヤですけど、先にロキさんに伝言です。ロキさん用に、攻撃プラス4の指輪が仕上がったので、取りに来るか、誰か寄こすかして」

「攻撃プラス4って……」


 会議に参加しているメンバーが、どよめいた。

 すあまさんに前に渡した指輪も、魔防がプラス4だったのに。


「あれも、人族側のプレーヤーが嘆いてたよ。『全くデバフが通らない』って」

「おかげさまで、助かってます」


 リアルスキルで居合を持ってるすあまさんだから、デバフでもかけないと止められないのに、それが効かなくなったと恐怖の的なのだそうな。

 ロキさんにこの指輪が渡ると、どうなるんだろう?


「下手すると、盾ごとズンバラリン?」

「剣じゃなくて、斧もんね」

「この際、斧も耐久性重視で新調したら?」

「それも、有りだな」


 ロキさんが楽しげに笑って、周囲がドン引きした。

 あの大きな斧だもんね。受ける方は、本当に怖いと思う。


「サクヤさんは次に、誰の為のジュエリーを作るの?」

「この間、掘り出しちゃったから、次はサーヤの。素早さをアップさせるよ!」

「戦局に影響するレベルだもんなぁ。人族に同情しちゃうよ」

「そんな大げさな……。たった一人の活躍で、戦局を左右できると思うなんて自惚れだって、何かのアニメで言ってたもん」

「MMOの局地戦なら、充分に影響するって……」

「うんうん、すあまさんが斬り込んだ後は、相手のパーティは盾役しか生き残ってないなんてザラだ」


 それは怖いよ。精霊族きっての美猫ケットシーなのに。

 何でも真っ二つの、斧使いサラマンダーなら怖いのは解るけど。


「指輪の受け取りは急ぐべきですね。戦線を押し上げることができれば、魔族が第1集落と、前線の町を抜かれない限り、精霊軍の勝利は確実ですから」

「問題は人族側のゴーレムだな。盆踊りで存在を知ったはずだから、必死に探しているはずだ」

「それについては、ごめんなさい」

「気にするな、いずれ出て来るものだ」

「問題は、アレを精霊族側に使うか、魔族側に使うか……ですね」

「その辺は向こう次第だから、今から考えてもしょうがない。魔族に使用するなら、まず第1集落の攻略戦からだから、対応する時間は有る」


 人族向けのゴーレムのデザインも、見てみたいな。

 種族ごとに違いそうだから、ちょっと楽しみだったりする。

 強奪作戦パート2でも、考えてみようかな?

 世界版になったら、仲間になるからその時に見られるという考え方もあるけど。


「アホか……? サクヤを前線に出す前に、俺たちが何とかするに決まってるだろうが」

「ゴーレムそのものより、操者を攻めるべきという方針が解りましたから」


 第2集落の2大ギルド長が、頼もしい。

 是非とも、奪ってきて欲しいよ。3種類並べて、スクリーンショットを撮るんだ。


「また、しょーもないポーズで撮ろうと考えてるだろう?」


 ……なぜ、バレる。

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