48 さらば愛しき日々よ?
「参ったーっ!」
中央公園のお食事テーブルに、紬さんとピノさんが突っ伏してる。
なになに、何があったの?
私はついに売り出された生春巻きを、リルはもつ煮込みを持って相席する。
二人共疲れた顔をしているけど、問題解決したんじゃないの?
「魔力遮断シートが、魔力を遮断してくれないの!」
「何で? 単体だと効果あったよね?」
「あれは調合の産物だから、裏貼りできないの。縫い合わせてみようと思ったら、その縫い目から、魔力が一気に流れ込むんだよ……」
「材質もしなやかさに欠けるから、着心地もイマイチだし……」
あちゃーっ。
縫い目は、確かに針穴だもんね。一気に流れ込んじゃうか……。
一筋縄じゃあ、いかないねぇ。
完全に他人事と、私はくすくす笑うだけ。
方向性は間違っていないと思うから、頑張って欲しい。
「サクヤ、冷たい~」
気持ちは解るけど、もう宝石の出番ないじゃん。
愚痴は聞いてあげられるけど、相談に乗れることは少ないと思うよ?
私は、ようやく鋳込みまで終わった、サーヤのジュエリーを仕上げないといけない。
決められたタイムリミットまで、あと1ヶ月ほど。我が儘なのかも知れないけれど、私はロキさん、サーヤ、ダリさんの3人には無事でいて欲しいと思ってる。
サーヤの分の後は、ダリさんも更に強化してあげたい。
ずっとお世話になってきた彼らに、私が報いる方法はそれしか無いもん。
もはや職能レベルの最高点に到達してしまった私には、何の課題もない。得られた知識を組み合わせ、より高品質なものを作り出していくだけ。
焦る気持ちを抑えて、デリケートな研磨作業に終止する。
呆れてしまうくらいに僅かづつしか削れないくせして、力を入れ過ぎた時など、一気に削れてしまい、そのリカバリーに気持が凹む。
本当に、職人技の世界だよ……。
屋台についに、いちご大福なんぞが登場したものだから、カーバンクルのカー君に差し入れちゃおう。絶対に好きだと思ったんだけど、歯にベトッとくっつく大福の食感が苦手だという感想。……難しい。
「味は文句なしに好みなんだけど、この大福という物が僕には合わないようだ」
渋い顔をするカー君に、口をあーんしてもらって、歯ブラシでこしこししてあげる。
これは磯辺焼きとか、納豆餅とかも駄目だねぇ。
食感が合わないのは、悔しいよね。私もネギやタマネギのジャリジャリが嫌いだもん。
カレーやシチューのように、クタクタに煮込まれていれば平気。
だから、訪問したタイミングで、タマネギの煮込み具合が違う牛丼屋さんは何気に苦手。
半生だったり、クタクタに煮込まれていたりで、差がありすぎませんか? 盛った牛丼からチマチマとタマネギを取り除く作業が、カウンター越しに見えてしまって申し訳ないのだけれど、ネギ抜きで頼むのが無難だよ。
そこらのこだわりのラーメン屋さんでも、平気でネギ抜き注文を忘れて、流れで作りやがるのに、牛丼屋さんは必ず抜いてくれる。……見習え。
……あれ? そんな話だったっけ?
違う。大福で方向がずれちゃった。
カー君のお口にお水を流してあげて、ガラガラ……ペッ。
牙に青海苔ならぬ、大福をくっつけていたのでは、可愛い生き物が台無しだもん。
「それで、また君は前線に出るつもりかい?」
「出たくはないけど……状況が許さない場合があるから」
例えば、人族がフェイントを使って、ゴジ君ブラザーズを魔族側に引き付けておいて、その間に第2集落を急襲するとか。
その可能性があるから、ゴーレム君たちの集中配備が必要になった時には、私はその逆に備える必要があると思うの。キャトル君の主として。
そうなると、ジュエリー加工する前の宝石を、何とか使えないものかと思っちゃう。
研磨するのにも時間がかかるけど、ジュエリーに加工するのだって大変だ。
せめて、研磨済みの宝石を、何とか使えないかと考えたくもなる。
「宝石は、見合うジュエリーを設えられてこそ、本当の輝きを放つものだよ。それは、サクヤも承知しているはずだね」
「勿体ないとは思うけど、戦闘期限が迫ってるから、多少はね」
「その為の知識も、君はもう持っているんじゃないかな?」
「……うん」
解っているからこそ、他の使い方が有れば良いな? ……と、思ってしまう。
これは、ジュエラーとしての自意識の問題。
でも、カー君は憂鬱そうに溜息を吐いた。
「君の持つ知識が、全てだよ……サクヤ」
「……やっぱり?」
「その為の、レベル10だからね」
「人族側に、レベル10のジュエラーは……いる?」
「まだ、レベル7が最高だよ。サクヤは突出してる」
「カー君のおかげだね」
「……肯定しづらいことを言われると困る。僕は別に依怙贔屓をしていないよ?」
「うん、知ってる。アドバイスは的確だけど、分かりづらいもん」
私もぎこちなく、笑う。
本当に、私の知る答えしか無いみたいだ。……困ったな。
手を振って帰ろうとする私に、ぽつんとカー君が呟いた。
「僕が君にできる、唯一のアドバイスだよ。……サクヤ、考えてご覧。宝石にジュエリーが必要な理由を」
「……もう。相変わらず、解りづらいよ?」
「そういう役回りだからね」
「ありがとうカー君。少し考えてみるよ」
相変わらず、カー君のヒントは解りづらい。
今すぐに対応する必要がないのが、せめてもの救いだ。
屋台に寄って、冷やし麦茶を買って、チマっと飲みながら帰る。
つい暑くて、一気に煽りたくなるのを我慢、我慢。
水じゃあないんだから、そんなに一気に煽っていたら、お小遣いがいくらあっても足りないよ。
そして、サーヤのサークレットを磨くんだけど……。磨き始めて、初めて分かる大失敗。
カチューシャのような形で鉢金兼用……なんて考えずに、素直に細い鎖で装着する形の方が良かった。
だって……磨く面積が、全然違うんだもん。
鎖であろうと、カチューシャ風であろうと、魔力的には変わらないなら、磨き作業の少ない方を選べば良かった。
これも経験だし、少しでもサーヤの守備力になるなら、頑張る。
人間だろうと精霊だろうと、頭を守るのは大事。
珍しくリルが飛び跳ねて、くるくる回ってる。
やっと、レベルアップしたみたいだね。
鉱山に行くみたいだから、キャトル君を連れてついて行く。
石の用は足りてるけど、良さげな宝石は滅多に取れないから、回数を増やすのは大事。
1個2個は、これはっ! っていうのが採れるもん。
最優先でジュエリーにするやつ。
でも、そろそろ……そんな愛すべきゲームの日常も終わるのかも知れない。
多勢に無勢を、集落の防御で補っていた第1集落の防衛戦が破られ、魔族側が最後の砦となる町の『ソドム』まで撤退したという話が、飛び込んできた。
これで人族と精霊族の戦果は、ほぼ同等。
拮抗している第2集落か、魔族の前線の町である『ソドム』を落とせば、人族側の勝勢が揺るぎないものとなってしまう。
人族側の攻勢の要は、2体のゴーレムであると言う。
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