30 進むべき道?
レベルアップしたなら、鉱山に行ってみたくなるのが人情というもの。
石板書写でうんざり中のケインさんを始め、ピノさん、紬さんと賛同を得て、定時会議で保護者たちに『ゴーレム付きなら、何とかなるか……』のお墨付きを貰って行ってきた。
金属では、金銀銅に加えて、パラジウムやロジウムなどの合金素材やメッキ材が出た。
プラチナは、まだだね。あれは、ダイヤモンドあってこその金属だからなぁ。
鉱石の新顔は、エメラルド。他には、ベリルやトルマリンの仲間。
これで、ほぼ硬度7の石は、出揃ったかな?
大漁、大漁と、気分良く戻って来る。
コロンコロンと、魔法のサムシングで鉱石から、宝石の結晶を取り出す。
ついでに、金属も全部インゴットにしておこう。すぐ使えるに、越したことはない。
「で、今度サクヤは何を作るの?」
まだ石版を読んでないので、ピノさんは退屈そう。
読むのは楽だけど、書写するのはね。一応はデジタル世代らしいケインさんが苦戦してるから、ピノさんが苦労するのは、もうちょい先。
「時間を稼いであげないと、紬さんが可哀想だから」
大の虫嫌いな彼女に、イモムシの飼育をさせるのもね。
順番が回って来るまでに後進を鍛えて、石板を読めるレベルに出来るでしょうか?
私は魔法光に石を透かして、採掘してきた宝石たちの評価を始める。
次の課題は、なんとなく予想が着く。石には言及されないけれど、前回の石選びが手抜き気味だった分、今回はしっかりと選ばなきゃ。
「これから構想を練るんだけど、コンビネーションリングを作るよ」
「コンビネーションリングって?」
「ほら、キャトル君のコントロールリングみたいに、2種類の金属を使った指輪だよ。今回のレベルアップで読んだ石板が、ジュエリーの金属の話だったから、今度の課題はこれかなぁと読んでる」
「相変わらずの深読み具合だなぁ……」
手元に見本も有るからね。
18金のホワイトゴールドと、ピンクゴールドのコンビネーションリングを作る予定。
メインの石はやっぱり綺麗だから、エメラルドかな?
回復魔法にプラス効果と、私向き。
うん……この石が良いかな?
エメラルドカットって名がついているくらいだから、上から見て長方形の角を落としたような形のカットにする。
ちょいちょいと線を引いて、一番綺麗な部分を取り出すの。
「今度は、水晶を使わないの?」
「うん……あれも一つの道なんだけど」
「別の道が有るんだ?」
「ほら、今ケインさんの所に行ってる、ダイヤの指輪が有るでしょ?」
「石板を読む為のヤツね?」
「そうそう。……あれはかなりの制御をしているのに、ダイヤ単体の指輪でしょ? だから、水晶を使わずに、石を制御する方法もあるんじゃないかと思って」
「マジ……?」
「マジ! カー君も言ってたもん。本物のジュエラーは、宝石の能力を超えて魔力を付与するんだって。ちなみに石板と、レベルが足りないと読めない文章を作ったのは、高レベルの錬金術師さんらしいよ?」
「うわ……先が遠いよ」
「うん、頑張るっきゃ無い」
クタッとカウンターに突っ伏してしまった、ピノさんを笑って、石を削り始める。
水晶を使っての制御は、なんとなく対人専用の装備加工用のものじゃないかと思ってる。簡単にできる分、絶対に石の能力を超えないし、水晶を含む宝石2個分の加工時間を考えると、微妙な効果が多かった。
多分どこかに、ツボになるような組み合わせもあるのかもしれないけど……。
何人かの分担作業で作る分には、効果が上がる。でも、限界は早いんじゃないかな?
私が思うに、まだ手探り何だけど……ジュエリー部分の金属の加工にこそ、宝石制御の秘密があるんじゃないかと思ってる。
あのダイヤの指輪、あんなにシンプルなのにいったいどこに? と思ってしまう。
レベル6になって、合金やジュエリー構想の石板を見せてもらえたのも怪しいでしょ?
何をどうすれば良いのかなんて、全く想像つかないけど。
「本当に良く、何が有るのか解らない所に突進するよね」
「あはは。でも、『こっちだよ』ってカー君が手招きしてくれるから」
「あの微妙なセリフで、そこまで確信できるのも凄いや」
実はもう一つ。
わざわざ、石板と文字は錬金術師の仕事だと教えてくれたのも、ちょっと怪しいと思ってる。
ジュエリーの加工を極めていく段階で、どこかで錬金術と絡んでくるのでは?
金属と魔力の関係だから、共通点が多いもん。
その時の為に、セコくピンクゴールドとかの合金の情報を流しておく。ケインさんの武器、鎧ではあまり意味はないけど、錬金術絡みの道具の飾りには使えるものね。
一部材料が採掘できないっぽいので、後で作ったらインゴットをあげよう。
石を磨くのに、実にリアルタイムで3日かかるのが、ジュエラーって奴さ……。
エメラルドは硬度が7しかない分、傷の多い石なんだけど、これは良さそう。
自分なりに精は尽くしたけど、ちゃんとこの石の持っている力を、余さず磨き上げられたのかなぁ……。
あのダイヤの指輪を見てから、そんな事も考えちゃう。
鑑定結果は、治癒魔法+1……うーん、見立て通り。精進せねば……。
さて、ホワイトゴールドは金75パーセントに、ニッケルかパラジウムを25パーセントだけど、今回は加工性が下がっても彩り重視でニッケルにしよう。
ピンクゴールドは同じく金75パーセント。残りの25パーセント中、八割が銅で、残りが銀やパラディムなどを混ぜて……というのが基本だけど、彩り重視で配合は弄れる。……今回は、ホワイトゴールドとのコンビだから、赤みを強くしようね。
まさか配合で力が変わるとか……解らない事は気にしない! 気にしちゃ駄目。
1ミリ幅のピンクゴールドのリングの前後を、同じ1ミリ幅のシルバー・ゴールドのリングで挟んで、そちらから爪と台座を出して、石を固定する……デザインで良いかな?
厚さ的に蝋を削って仕上げるのは危険なので、ベジェ曲線で。
3つに分けた原型を作って、湯口を作って、ツリーのように湯口に並べて刺して、型剤で囲って……蝋型を溶かして。
あ、ちゃんと型は2つ作ってるよ。ホワイトゴールド用と、ピンクゴールド用。
溶けた金属を流し込んで、冷めたら型をぶち壊す! ……出来た。
湯口を切って、まずは接着する端面だけ平らに削って……パイプに通して揃えながら固定して、金蝋で接着する。
この先は、普通の指輪と変わらない。
特に意匠を凝らしてないんだ。その分、爪の根元に窓と言われるスリットを付けて光の入りを良くしたり、石を固定する石座との密着とかをしっかりするように頑張ってる。
宝石そのものが輝くわけではなく、宝石を照らす光の量を増やして、様々な光が宝石の中で透過し反射し、屈折をしたりするから、綺麗に輝いて見えるの。
宝石のカットって、実は幾何学や数学の世界。
それぞれの石が持つ個性に合わせ、光の屈折や、反射を考えて面の角度や広さを決めていくのが、リアルの世界のやり方らしい。
魔法のサムシングが跋扈するこの世界では、どこまで求められるのかは不明だけどね。
私の小さい脳味噌に、幾何学を求めないで!
いでよ、魔法のサムシング!
いずれ、その時が来れば解るかな?
出来ることなら『ミジンコでも解る幾何学』何て本を、買わなくて済みますように……。
これ、ゲームだよね? 楽しんでナンボのものだよね?
本気で運営さんにお願いするよ……。
きちんと石を固定した時、レベルアップのファンファーレが聞こえた。
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