27 第3クールに突入ですね?
本拠地の出島より、一回りこぢんまりとしたテイタニアに到着した。
いっぱいお礼を言って、なっちょさん、トロさんとは、さようなら。
ちょっとキャトル君が目立っているけど、そこはしょうがない。ひとまず解散して、私は宝石工房に向かった。
本人も言っていた通りに、カウンターにはカーバンクルがいた。
でも、本当にカー君かな? 何だかちょっとシュッとした感じなんだけど?
「やあ、サクヤか。無事にテイタニアにたどり着いたみたいだね」
「カー君、痩せた? 私のいない間に苦労していたとか?」
「いや……暑いから、サクヤの言っていたサマーカットというのを試してみた。少し過ごしやすくなったよ」
「えー。私にやらせてくれたらいいのに……」
「サクヤに任せると、本当に威厳が無くなりそうだからね。サクヤの衣装も可愛いよ」
ありがとう。紬さんの逸品だし、お世辞でも嬉しいよ……。
でも、私の提案を受け入れてくれたの嬉しくて、約束のお土産を渡す。木の実と言うよりは、フルーツっぽくなっちゃったけど。
「ありがとう……うん、このライチは好物なんだ」
器用に前足でつるんと剥いて、白い果肉を食べている。
実は私はちょっと苦手なんだけど、紬さんが好きなので多めに採ってきてある。喜んでもらえて、私も嬉しいよ。
旧交を温めたら、お仕事お仕事。
戦闘レベルが27になってるくらいなので、持ち物覧にまとめていたドロップ品を売り払う。それぞれの数は有るけど、種類はそれほどでもないから。ついでにゴーレムコントロールの指輪……あの黒い奴用のも売り払う。残念ながら、もう海の藻屑になっていて、指輪単体の意味はない。
「……これも売ってしまって良いのかい?」
「うん。黒いのは海の藻屑だし、紅いの用のもう一つもってるから」
「了解。……では、これだけになる」
「カー君、この金額でこの町に工房を買える?」
「買えるよ。まだ、ここには職人が少ないからね。でも、君にはみんなが作ってくれた工房が有るんじゃないか?」
「あっちは軍事物資の量産基地だから。私は、こっちでいろいろ実験したり、技術を磨こうと思ってるんだ」
絶対何か言われるから、単独行動。
……私はやっぱり、人間関係は苦手だよ。
「君らしいね。でも、ちゃんと後でみんなに説明すること。君を大事にしてくれる友人には、せめて正直であるべきだ」
「うん……肝に銘じておく。できればここから近い所が良いな。たまには、カー君の顔を見ないと落ち着かない」
「では、出てすぐ南のところだ。サービスで屋根を水色に塗ってある。……あそこなら、搬入口から、ゴーレムも入るだろう」
「ありがとう。至れり尽くせりだね」
「お土産のお礼もあるから」
やっぱり、カー君はカー君だ。
お礼を言って工房を出て、水色の屋根の建物を探す……。わあ、すぐ近くだ。
搬入口からキャトル君を入れて、ドアに向かって招き猫のポーズで休ませておく。これならきっと目立たない。
建屋の中央で設定画面を出して、私好みに設定する。
こっちの工房は『アトリエ・サクヤ』という名で、看板は特に出さない。
前の工房で、誰かが遊びに来てくれる楽しさを知っちゃったから、ドアの近くにカウンターを設定して、お店っぽいこともしてみよう。
後は工房セットを呼び出して、位置を調整する。すべてが手が届く範囲にある嬉しさよ。
後は蝋型用のピノさん作の高温炉を設置して完成。
ここが、私の新しいお城だ。
石板の読み方も気になるけど、まずは久しぶりに宝石を磨こう。
珊瑚の切り出しも後回しにして、途中まで加工していたのに、注文品が多くて後回しにされていたクンツァイトのステップカットから。腕は落ちてないかな?
翡翠の仲間なんだけど、ちょっと割れたり欠けたりしやすいので注意が必要。
薄紫の透明度が高い綺麗な石。組成がちょっと違うのか、紫翡翠とはまた別物なんだ。
こっちは知力アップになるはずだから、石板解読の助けになる……と自分に言い訳しておこう。
旅も楽しかったけど、こうしている方が私は落ち着く。
薄く曇った石の表面を磨いてやると、本来の澄んだ輝きを取り戻す。時間はかかるんだけど、時間なんてすぐに溶けてしまう。
クンツァイト自体は価値の高い石じゃないけど、中でもこの石は良いねぇ。
いろいろ忘れてる気がするけど、まあ良いやと気の済むまで磨いて、その日はログアウトした。
「サクヤ!」
翌日ログインすると、お店に見知った顔が揃っていて、いきなり怒鳴られた。
「あ、ロキさん久しぶり。よくここが解ったね?」
「そんなもん、でっかいゴーレム連れた工房って聞けば、一発だ! ……じゃなくて、何で連絡もしない。定時会議を決めたのはいったい誰だ?」
「え……私だったっけ?」
「お前が通信の石を作らなけりゃあ、会議なんてできんわ! ……で、何で昨日一昨日と参加しなかった?」
「え? 1日サボった印象はあるけど、2日もサボった?」
「日付感覚も無くなってるのか? お前……集中すると、何もかも抜け落ちる悪い癖はやめんか!」
「まあね……サクヤの事だから、そんな所でしょ?」
「さすがダリさん、よく解ってる」
「でもね、サーヤが心配して大変だったのよ。タイタニアの町の側で鉱山探そうと、変な所に迷い込んでるんじゃないかとか」
「ああ、それやりそうだね」
「もう、呑気に笑ってないでよ。本気で心配したんだから」
サーヤに睨まれた。気持ちの真っ直ぐな子だから、痛いほど刺さるんだ。
嬉しいような、恥ずかしいような……。
「まあ……とりあえず、ただいま。無事にテイタニアに到着しました」
「2日ほど遅いわ……」
結局その日は、監視付きで定時会議にアクセスした。
怒られるより呆れられたのは、人徳?
まあ、会議の中心は連れ帰ったゴーレムのキャトル君だ。
「ロキさんは、いま実物を見てるんでしょう? どんな感じ?」
「ごっついな……。これに招き猫をさせてるサクヤの趣味がわからん」
「……招き猫?」
しばらく会話が止まる。これ知ってる。絶句ってやつだ。
「ゴーレムに招き猫をさせてるって、サクヤさんはどちらかと言うと、千客万来な状態は苦手じゃなかった?」
ああっ! そうだった……。
すあまさんの鋭いツッコミに、私の方が唖然としてしまう。迂闊だった。
2体いたら、狛犬か仁王像も出来たのに……1個屠っちゃったからなぁ。
「サクヤが頭抱えてる間に話を進めよう。ケインのおっちゃんに訊いても、戦力としては充分過ぎるそうだ。ただ、職人連中は前線投入には乗り気じゃないみたいだけどな」
「サクヤさんが気に入ってるみたいだし」
「それもあるけど、いろいろ研究してみたいって気持ちが強いみたいだ。まさに古代の叡智の結晶みたいだから」
ふむ……キャトル君を前線投入するかどうかなら。
「私も別の理由で反対です」
「何でだ? サクヤ」
「だって、いきなりこんなのが出てきたら、どこから持ってきた? って話になるでしょ? 量産できるものじゃないし」
「まあ、そうだな」
「そんな事したら、他陣営も島の探索始めちゃうよ? 劣勢の魔族軍に運営さんが下駄を履かせようと、巨大ロボットかなんか用意しかねないじゃない」
力説する私を、醒めた目で見るのはやめてよ、ロキさん。
「巨大ロボットはともかく、他陣営に島探索のきっかけを与えちまうってのは有るな。何が出てくるか解らないというのにも一理ある」
「巨大ロボットは男性陣は、むしろ見てみたがるんじゃない?」
「味方になるならともかく、敵にはしたくないよ」
真正面で魔族軍を牽制している、ラドリオさんの意見は素直だ。
キャトル君は、イメージ的にはキラーマシンな感じだもん。
魔族軍もそうだけど、二正面作戦で抑えている人族軍が、ゴーレムとか持ち出すと厄介だろうね。ウンディーネも水は出せても、塩水は専門外だ。半人、半アザラシな精霊ローンは出せるのかな?
結局、キャトル君はテイタニアの守り神として祀る……じゃなかった、置いておくことに決まった。管理は、一番悪用しそうにない私の仕事。
「あとは、古代の叡智とされる石板の解読ですね……」
あ、そういうのも有ったね。
私の様子で、忘れていたことに気がついたのだろう。
ロキさんが盛大な溜め息を吐いた。
駄目な娘でゴメンよ……。
問題は山積みだったよ。現実逃避している場合じゃないか……。
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