25 よりによってイモムシですか?
「お前ら……段々調子に乗ってないか?」
苦虫を噛み潰した顔で、ケインさんが訝る。
砂漠の日差しが強すぎるからと、紬さんが日傘を作ってくれたのよ。
私と紬さんは、ゴーレムのキャトル君の肩に乗ってパラソル差してる。ピノさんもキラキラ飛びながら、パラソル差してる。
「必要なら、お作りしますよ?」
「サマンダーの意地で、日傘を差せるか!」
紬さんの優しい言葉を拒絶するくらいなら、文句を言わなければいいのに。
ちなみに、なっちょさんも番傘風の日傘を差してます。デザインは紬さんの趣味。……紬さんも良く解らない人だよね?
私が浴衣っぽい服着てるのも、紬さんの仕業だし。
ケインさんが、気が急くのも解るけどね。
この砂漠の砂に含まれる砂鉄は、かなり質が良いらしい。ただ、まだ含有量が低いのだとか。
どこかに含有量の多い場所が有るとしたら……第一候補は、神殿の周囲でしょう。
「お喋りはそこまで。接敵です!」
スラリとサーベルを抜いて、猫精霊ケットシーのトロさんが前に出る。
肉球保護のため、砂漠用に紬さんの作ったデザートブーツが可愛い。
気を練るなっちょさんは、閉じた番傘を後ろに放った。こちらも、色違いのブーツを装備してる。気の邪魔はしない繊維のようです。
砂の中から現れた敵は、巨大なイモムシっぽい奴。……サンドクローラーと鑑定できた。
虫嫌いな紬さんは、嫌な顔をするけど……。
「このイモムシ、糸を吐くらしいよ?」
「あぅ……」
そうなると、注視しなければいけなくな
虫嫌いの服飾職人も、意外に難儀だよ……。植物じゃあ、育てる時間と畑が必要なので、糸は魔虫が吐く物が多いから。
なっちょさんの回し蹴りは、身体に弾力性が有り過ぎて、効いていないみたい。
ピノさんの矢と、トロさんのサーベルが、ちまっとダメージを与える。
「一撃でやっちまったら、拙いんだよな?」
「紬さんの為に、糸を吐かせて回収しないと」
「お手数おかけします」
「手数はかけても、経験値は同じってな!」
斧を横薙ぎすると、みちっと膨れたイモムシの体の一部が裂けて、ぐじゅっと透明な体液が飛び散る。……ちょっとグロい。
リクエストに応えたわけではないだろうけど、イモムシはシュルルと糸を吐いた。
「…………っ!」
糸は素早く伸びて、なっちょさんの手首に絡んだかと思うと、あっという間に全身を糸で絡め取ろうとする。
慌てて私が、ウォーターカッターを唱えて糸を切断した。
回復専念と言われているけど、この場合は許されるよね? ダイヤモンドすら切断するウォーターカッターに、切れないものはない。……時間さえかければ。
なっちょさんは、すぐに後退した。
キャトルくんから飛び降りた紬さんが、その毛並みから絡んだ糸を解いてあげる。
「もう良いな?」
痺れを切らしたケインさんの炎の斧が、イモムシボディを立てに切り裂いた。
断末魔を上げて仰け反ったイモムシは、そのまま後ろに倒れ込んでポリゴンに変わった。
サンドクローラーの卵を手に入れた……って、いらないよ、こんなの。
「じゃあ、私に頂戴……」
「ってことは、まさか?」
「凄く良い糸を吐くのよ……困ったことに」
紬さんがこの世の終わりのような顔をして、発見の喜びを伝えてくれる。
今の主流であるシルクスパイダーより、上物らしい。
なっちょさんを絡め取ろうとした勢いからして、糸を吐く量も多そうだものね。
「イモムシ……大嫌いなのに……」
泣きそうな顔で、私からドロップした卵を受け取る。
早く帰って、虫が大丈夫な服飾職人さんに渡して、育ててもらわないと。
とても紬さんが育てるとは、思えない。
笑っちゃいけないけど、私……ジュエラーで良かった。
「世の中、上手くいかないものだね」
同情顔で、ピノさん。
アイテム欄のやり取りだけで、直接手に触れないのが、紬さんにはせめてもの救いだ。
あと、アイテム欄の中身が普段は見えないのも。
服飾職人に革命を起こしそうな感触を得て、更に先に進む。
次は鍛冶屋さん方面かな?
時々砂鉄を採取しては、首を傾げてる人がいるから。
「サクヤ、悪いが……水をかけてくれ」
「は~い」
水を作ってかけてあげたら、金属鎧がジュッていった!
サラマンダーだけど、少し火が弱まるくらいがちょうど良いとか。
そのまま、トロさんにもかけてあげる。
猫が水をかけてもらいたがる程の暑さ……。ちょっとした形容詞になりそう。
砂漠の夜はマイナス気温になるらしいけど、まだまだ日は高い。日傘を差しても、けっこう暑いからね。
突然、大サソリとか、グレイトラーテルとかが襲ってくるから、武装を解除するわけにもいかないし……。私のレベルも上がって、全体回復が強くなった。
「あれ……あそこに見えるのが神殿じゃない?」
「蜃気楼の可能性もあるがな……」
困ったことに、ケインさん正解。
水はウンディーネの私がいるから、乾ききってしまうことはないけど……。
「今だけVRでなく、普通の3Dでやりたいぜ……」
「同感……運営さんはサディストだ」
大嫌いな虫に翻弄されている紬さんも、大きく頷く。
日が傾きかけた頃、ようやくオアシスのようになっている神殿に到着した。
兎にも角にも、建物の日陰に入って草の上に寝転ぶ。
……天国。
さすがにここは非戦地帯だろと、前衛さんは鎧を外した。
とりあえず、鎧や盾に水をかけて冷やしておく。万が一戦闘があったら、キャトルくんに頑張ってもらおう。
「やっぱり……この周囲か!」
紐付き磁石を放り投げて、砂漠の砂鉄を集めていたケインさんが拳を握った。
おお凄い……。磁石に髭のように張り付いた砂鉄を、大きなビンの中にこそげ落とす。
気の長い作業になりそうだと思っていたら、何やら機械を取り出した。
魔力を流すと、大きな磁石の並んだ帯の輪がベルトコンベアのように回転する。くっついた砂鉄を手元で逆回転するブラシで擦り落とし、漏斗を付けたビンに採取する仕組み。
ピノさんの作らしい。
「ちゃんと使えるようで、安心した」
「あとで量産を指示しておいてくれ。これっぽっちじゃ足りねえや」
「了解。ケインさんの採取が終わるまで、休憩だね」
大きく伸びをして、ピノさんがポテッと草の上に落下する。……気持ち良さそう。
なっちょさんは、腕組みをしたまま壁に凭れて目を瞑っている。トロさんは逆に、興味深げにケインさんの手元を覗き込んでいる。
「ずいぶんと執心のようだが、その砂鉄で特殊な鋼が打てるのか?」
「おうよ……。これなら
「それは……期待できる」
「剣士なら、試してみたくなるだろうな。……最初の一本の使い手は決まってるが」
「数は打てるようにするのだろう?」
「ああ、ここに採取部隊を出す予定だ。鉄鋼石ほどの量産は出来ないが、なるべく数は作れるようにしておく」
トロさんも、侍志望なのかな?
サーベルの方が、長靴をはいた猫って感じで可愛いのに。
「ケインさん、あとどれくらい?」
「まだ、半分ってところだな」
「じゃあ、私は落ちる~。神殿で時間取られそうだし、日を変えた方が良いよね?」
欠伸をしながら、ピノさん。
ああ、もうそんな時間なのか……。
探索は、明日だね……。おやすみ。
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