24 お土産は見つけましたか?
「わぁっ! 出たぁっ!」
ピノさんに、しがみつかれてしまう。……もっと頼れる人の影に隠れようよ。
みんな戦闘態勢に入ろうとするけれど、幽霊っぽいお爺さんは厳かに言った。
「うむ……不浄な場所を清めてくれたこと、礼を言わせてもらおう。おかげで、こうして姿を現す事ができた」
何とも尊大な口調で
……幽霊のくせに、ちょっと偉そうな感じ?
誰? と言いたげなこちらの様子を察して、名乗ってくれた。
「
「……酔っ払いそうな名前だな」
「その領主様が、どのようなご用事なのでしょう?」
ケインさんの素直過ぎる感想を、紬さんがとりなす。
鷹揚に頷いた領主様(幽霊)は、感慨深げにキャトル君を見た。
「我がザ・グレンリベット家に、代々受け継がれた言葉がある……」
「『陽に向かいし時告げる山羊』云々じゃないよね?」
「違う……。『神の御姿を連れし者、訪ねし時に叡智の鍵を授けよ』というものだ。だがまさか、本当に神の御姿を連れし者が現れようとは……」
「はーい。私、キャトル君の主ですっ!」
挙手して、元気に宣言する。
解かりやすく、キャトルくんにも同じポーズをさせてみたけど、なぜ不評?
「……本当に、この者に叡智の鍵を授けて良いものか?」
「態度は軽いが、叡智の鍵には……たぶん値する? ……とは思う……ぞ?」
ケインさんも、なぜそこで言い淀むかな?
弁護してくれそうなピノさんは、幽霊を見ないようにして震えてるし。
「まあ、良かろう……ついて参れ」
のんびりと、領主様(幽霊)の跡について地上へ戻る。
瓦礫に塞がれて、謁見の間に行けない状況に領主様(幽霊)は、眉間に皺を寄せた。
「ひょっとして、鍵のある所に行けないとか?」
「うむ……。だが、今は生身でない故、何とかなろう」
領主様(幽霊)は、瓦礫に吸い込まれるようにして消えた。
そして、程なく上の方から降りてくる。
「便利だね、幽霊」
「なりたくてなったのでは、無い……がな。儀式としての厳かさに欠けるが、まあ良い。受け取り手がそなたであれば、真面目にやっても様になるまい」
何とも、失礼なことを言われた気がする。
言い返してやりたいが、大事なものを貰えそうなので堪える。
「叡智の鍵を授ける。……使い方は言い伝えにはない。受けた者が考えてくれ」
何とも雑な宣言で、指輪を一つ貰った。
うわ……ラウンド・ブリリアント・カットのダイヤモンドリングだ。直径で8ミリくらいあるから、2カラット前後? 金属部分も……うん、たぶんプラチナ。石は無色透明な上、七色の分散光も綺麗に出てる。
リアルの世界に持って帰っても、ひと財産のお宝だよ、これ。
「お宝扱いするでない……罰当たりめ。石の価値以上のものが、その指輪には備わっている……はずだ。その指輪を正しく用い、古代の叡智を得るが良い」
「何で、イマイチ自信を持って言えないの?」
「伝え聞いているだけだからの……。どこで、どう使えば古代の叡智を得られるのかなど、伝えられてはおらんのだ」
まあね。そこまで伝わっていたら、自分で叡智を得ちゃうものね。
何となく、どこに行くべきかは予想が着いた。
「わかったよ、領主様。じゃあ、古代の叡智を得て来るね!」
「……軽いの。まあ、良い。これで吾も安らかに眠れる」
「おやすみなさい。いい夢見てね」
「死者が夢を見ても、もう叶える
祈るのも何だから、笑顔で手を振ってあげよう。
笑って逝けるのなら、供養するより喜んでもらえると思うんだ。
でも、こんな指輪を渡すためだけに、幽霊でいなくちゃいけなかったなんて理不尽。開放してあげられて、良かったよ。
だって、領主様なのに、仕えてくれる人さえいなかったんだから。
呆れた笑いを残して、領主様(幽霊)は薄れ、消えていった。
それに合わせたかのように夜が明けていくのは、演出ではなく、ただの偶然だ。
「やっぱり、古代の叡智を得る場所って……あの神殿みたいな場所だよね?」
「次の行き先ってガイドが出ているようなものだからな」
私の疑問に、ケインさんがメタに答えてくれる。……夢のないサラマンダーだね。
クスクス笑いながら、補足してくれるのは紬さんだ。
「古代技術の結晶のような、ゴーレムが御神体扱いされているなら、知識を収めた場所も神殿扱いされていて、不思議はないです」
そう。私もそう言いたかったの。
問題はどんな形で、どんな風に知識が収められているのか? なんだけど。
鍵と言われたものが宝石の指輪なのだから、単純にドアに嵌め込むとは思えない。
ダイヤだよ? プラチナだよ? そんな雑な扱いはしないだろう。
「それより、早くここを離れようよ……これ以上、何か出たら嫌だ」
怯えたピノさんを笑いながら、東に歩きだす。
このまま、川を越えて道を超えて行けば良いんだよね?
特に神殿までの道は、描かれていなかったから。
再び、紬さんと二人、キャトル君の肩に乗って行こう。草むらには何が潜んでいるのか、解らない。……という理由で。
今度は、雑木林のような所にも寄り道してもらう。
カー君へのお土産の、木の実も見繕わなくっちゃね。
「木の実は、秋じゃないと採れなくないか?」
「この暑さだし、南国フルーツとか有るんじゃないかな?」
うん、旬の終わりのライチや、グァバ、マンゴーっぽいのが採れた。
一応鑑定もしてみたし、毒はない。食べてみたけど、甘くて美味。これならカー君も大満足さ。
「よくNPCに、そこまで入れ込めるなあ?」
「失礼な。……カー君は私の大事な友だちだよ。NPCとはいえ、最初から親身になって話してくれたんだから。カー君がいなかったら、このゲームなんてとっくに投げてた」
「そ、そうか……鍛冶屋の方のバハムートは、無愛想だったからなぁ」
「私はジュエラーで良かったよ……。って、ケインさんはちゃんと砂鉄を探してる?」
グァバっぽい実を渡しながら、問い詰めてみる。
ひと齧りして、サラマンダーは眉……は無いから眉間を顰めた。
「やみくもに探しても無駄だ……。良い砂鉄は、たいがい川砂に含まれてるものさ」
「じゃあ、期待は今度の川沿い?」
「なんだが……上流の滝からの流れで期待外れだったから、下流はどうだか……」
渋い顔をするケインさんに、ピノさんが頬を緩める。
「むしろ、神殿の付近が期待できるんじゃない?」
「何でそう思う? 羽根付きよ」
「だって、このキャトル君の材質は、鋼の一種っぽいけど謎素材じゃない。合金って感じでも無いよね?」
「ふむ。そういう考え方もあるか……」
だから、材料を見る目でキャトル君を見ないで欲しい。
大切な仲間なんだから、バラしたそうな目で見ちゃ嫌だよ。
途中で一泊(ログアウト)して、テイタニアへの道を越え、川を越える。
期待はしていなかったものの、やはり川の砂鉄はダメそうだ。
そして、草原を抜けた先には……砂漠が広がっていた。
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