24 お土産は見つけましたか?

「わぁっ! 出たぁっ!」


 ピノさんに、しがみつかれてしまう。……もっと頼れる人の影に隠れようよ。

 みんな戦闘態勢に入ろうとするけれど、幽霊っぽいお爺さんは厳かに言った。


「うむ……不浄な場所を清めてくれたこと、礼を言わせてもらおう。おかげで、こうして姿を現す事ができた」


 何とも尊大な口調でのたまう。

 ……幽霊のくせに、ちょっと偉そうな感じ?

 誰? と言いたげなこちらの様子を察して、名乗ってくれた。


われはザ・グレンリベット家18代領主、ブラントン4世である」

「……酔っ払いそうな名前だな」

「その領主様が、どのようなご用事なのでしょう?」


 ケインさんの素直過ぎる感想を、紬さんがとりなす。

 鷹揚に頷いた領主様(幽霊)は、感慨深げにキャトル君を見た。


「我がザ・グレンリベット家に、代々受け継がれた言葉がある……」

「『陽に向かいし時告げる山羊』云々じゃないよね?」

「違う……。『神の御姿を連れし者、訪ねし時に叡智の鍵を授けよ』というものだ。だがまさか、本当に神の御姿を連れし者が現れようとは……」

「はーい。私、キャトル君の主ですっ!」


 挙手して、元気に宣言する。

 解かりやすく、キャトルくんにも同じポーズをさせてみたけど、なぜ不評?


「……本当に、この者に叡智の鍵を授けて良いものか?」

「態度は軽いが、叡智の鍵には……たぶん値する? ……とは思う……ぞ?」


 ケインさんも、なぜそこで言い淀むかな?

 弁護してくれそうなピノさんは、幽霊を見ないようにして震えてるし。


「まあ、良かろう……ついて参れ」


 のんびりと、領主様(幽霊)の跡について地上へ戻る。

 瓦礫に塞がれて、謁見の間に行けない状況に領主様(幽霊)は、眉間に皺を寄せた。


「ひょっとして、鍵のある所に行けないとか?」

「うむ……。だが、今は生身でない故、何とかなろう」


 領主様(幽霊)は、瓦礫に吸い込まれるようにして消えた。

 そして、程なく上の方から降りてくる。


「便利だね、幽霊」

「なりたくてなったのでは、無い……がな。儀式としての厳かさに欠けるが、まあ良い。受け取り手がそなたであれば、真面目にやっても様になるまい」


 何とも、失礼なことを言われた気がする。

 言い返してやりたいが、大事なものを貰えそうなので堪える。


「叡智の鍵を授ける。……使い方は言い伝えにはない。受けた者が考えてくれ」


 何とも雑な宣言で、指輪を一つ貰った。

 うわ……ラウンド・ブリリアント・カットのダイヤモンドリングだ。直径で8ミリくらいあるから、2カラット前後? 金属部分も……うん、たぶんプラチナ。石は無色透明な上、七色の分散光も綺麗に出てる。

 リアルの世界に持って帰っても、ひと財産のお宝だよ、これ。


「お宝扱いするでない……罰当たりめ。石の価値以上のものが、その指輪には備わっている……はずだ。その指輪を正しく用い、古代の叡智を得るが良い」

「何で、イマイチ自信を持って言えないの?」

「伝え聞いているだけだからの……。どこで、どう使えば古代の叡智を得られるのかなど、伝えられてはおらんのだ」


 まあね。そこまで伝わっていたら、自分で叡智を得ちゃうものね。

 何となく、どこに行くべきかは予想が着いた。


「わかったよ、領主様。じゃあ、古代の叡智を得て来るね!」

「……軽いの。まあ、良い。これで吾も安らかに眠れる」

「おやすみなさい。いい夢見てね」

「死者が夢を見ても、もう叶えるうつつもないわ。……だが、最後の最後で楽しかったぞ」


 祈るのも何だから、笑顔で手を振ってあげよう。

 笑って逝けるのなら、供養するより喜んでもらえると思うんだ。

 でも、こんな指輪を渡すためだけに、幽霊でいなくちゃいけなかったなんて理不尽。開放してあげられて、良かったよ。

 だって、領主様なのに、仕えてくれる人さえいなかったんだから。

 呆れた笑いを残して、領主様(幽霊)は薄れ、消えていった。

 それに合わせたかのように夜が明けていくのは、演出ではなく、ただの偶然だ。


「やっぱり、古代の叡智を得る場所って……あの神殿みたいな場所だよね?」

「次の行き先ってガイドが出ているようなものだからな」


 私の疑問に、ケインさんがメタに答えてくれる。……夢のないサラマンダーだね。

 クスクス笑いながら、補足してくれるのは紬さんだ。


「古代技術の結晶のような、ゴーレムが御神体扱いされているなら、知識を収めた場所も神殿扱いされていて、不思議はないです」


 そう。私もそう言いたかったの。

 問題はどんな形で、どんな風に知識が収められているのか? なんだけど。

 鍵と言われたものが宝石の指輪なのだから、単純にドアに嵌め込むとは思えない。

 ダイヤだよ? プラチナだよ? そんな雑な扱いはしないだろう。


「それより、早くここを離れようよ……これ以上、何か出たら嫌だ」


 怯えたピノさんを笑いながら、東に歩きだす。

 このまま、川を越えて道を超えて行けば良いんだよね?

 特に神殿までの道は、描かれていなかったから。

 再び、紬さんと二人、キャトル君の肩に乗って行こう。草むらには何が潜んでいるのか、解らない。……という理由で。

 今度は、雑木林のような所にも寄り道してもらう。

 カー君へのお土産の、木の実も見繕わなくっちゃね。


「木の実は、秋じゃないと採れなくないか?」

「この暑さだし、南国フルーツとか有るんじゃないかな?」


 うん、旬の終わりのライチや、グァバ、マンゴーっぽいのが採れた。

 一応鑑定もしてみたし、毒はない。食べてみたけど、甘くて美味。これならカー君も大満足さ。


「よくNPCに、そこまで入れ込めるなあ?」

「失礼な。……カー君は私の大事な友だちだよ。NPCとはいえ、最初から親身になって話してくれたんだから。カー君がいなかったら、このゲームなんてとっくに投げてた」

「そ、そうか……鍛冶屋の方のバハムートは、無愛想だったからなぁ」

「私はジュエラーで良かったよ……。って、ケインさんはちゃんと砂鉄を探してる?」


 グァバっぽい実を渡しながら、問い詰めてみる。

 ひと齧りして、サラマンダーは眉……は無いから眉間を顰めた。


「やみくもに探しても無駄だ……。良い砂鉄は、たいがい川砂に含まれてるものさ」

「じゃあ、期待は今度の川沿い?」

「なんだが……上流の滝からの流れで期待外れだったから、下流はどうだか……」


 渋い顔をするケインさんに、ピノさんが頬を緩める。


「むしろ、神殿の付近が期待できるんじゃない?」

「何でそう思う? 羽根付きよ」

「だって、このキャトル君の材質は、鋼の一種っぽいけど謎素材じゃない。合金って感じでも無いよね?」

「ふむ。そういう考え方もあるか……」


 だから、材料を見る目でキャトル君を見ないで欲しい。

 大切な仲間なんだから、バラしたそうな目で見ちゃ嫌だよ。

 途中で一泊(ログアウト)して、テイタニアへの道を越え、川を越える。

 期待はしていなかったものの、やはり川の砂鉄はダメそうだ。


 そして、草原を抜けた先には……砂漠が広がっていた。

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