21 とても長い時が過ぎたのですね?

「だから、危険な事はするなと、あれ程……」


 定時会議で、ロキさんが頭を抱えた。

 ぷりぷり怒るサーヤの顔も目に浮かぶけど……個人的にちょっと追いかけたいんだ。


「でも、今悩んでいる水晶の使い方……きっとこの件を追いかけていくとヒントが有ると思うのよ」

「何でだ?」

「ゴーレムが拘ったコンビネーションリング。……オニキスとミルキークォーツ。宝石と水晶のセットなんだよ?」

「錬金術師として、私も追いかけたいな。アレがルーンで動いているのか? どうやって宝石と絡めているのかは、確かめないと」


 ピノさんのバックアップもあって、海賊船の古地図にあった港町、城、神殿? を回ることを承諾してもらった。護衛が有るとはいえ、戦闘チームじゃないから、イマイチ探索に信頼がない。


「……確かに、魔族軍あたりは何かを発見していても不思議はないです。戦力に不安があるなら、補充しましょう」


 すあまさんは言ってくれるけど、あまりこっちに強兵を引っ張ってしまうのも気が引ける。港町の調査如何で考えよう。

 地図のスクリーンショットをメッセージに添付して送っておく。

 できれば、ゴーレムの作り方とか見つかると、絶対人数の不足を補えると思うんだ。

 何か人数差を埋める手が無ければ、領地争奪戦なんて、人数の多い所が勝つに決まってるもん。

 ……それでは、面白くないでしょ?


 会議を終えて、先を急ぐ。

 今度は半島を横断する形で、ジャングルを行く。洞窟の戦いでは、ストレスを溜めていたトロさんが、アナコンダを一突きにしてウサを晴らしてる。

 おかげさまで、勝手に私の戦闘レベルが20になった。

 ヒールウォーターを覚えたよ。これでやっと、回復役を名乗れるようになった。「偉い偉い」と褒めてもらったけど、微妙に子供扱いされてる気がする。

 丸一日のオンライン時間を費やしても、まだ途中。翌日、ジャングルを抜けたところで、高台から、かつての港町を臨むことが出来た。

 なだらかな丘を降りて近づくけれど……廃墟だね。

 かつては、繁栄した貿易都市という感じ。

 建物も石造りで、港そのものも大規模なのだから……。もはや港に船はなく、街には人影もない。潮風に磨かれたような石壁と石畳の道が、白々しいほど眩しく、南国の陽射しに灼かれている。


「片っ端から、調べていくしか無いか……」

「幸い、時間だけはたっぷりあるから」


 濃い日陰に隠れながら、手近な建物に入る。

 朽ちた生活の名残だけがあった。何時の時代のものか、木造りの家具が残るだけ。

 布の類は色も褪せ、長い時にぼろぼろになっている。

 住居跡は、どこもそんな感じだ。何だかとても気が滅入る。

 見落としが無いように、一応探しはするけど。


「書物とかは残ってないね……」

「海風に吹かれて、ボロボロになって……本棚の埃になっちまったんじゃないか?」


 鍋とか、食器とかは残ってる。ビンも転がってる。

 でも、生きているものの姿は全然見えない。


「いっそ、ゾンビでも、大サソリでも出てくれないかと思うよ」

「戦闘でも起きてくれた方が、緊張感が保てるぜ」


 丸2日かけて民家を見回り、残すは港沿いの施設だけになる。

 倉庫群らしきものと、役場らしきもの、神殿っぽいもの。


「まずは、倉庫じゃないか?」

「記録が残っているなら役場っぽいけど……」

「どんな神様を祀っているのかは、興味があるかな」


 ……意見が割れた。

 じゃんけんの結果は、役場、倉庫、神殿の順。あまり、こだわりはない。


 役場……なのかな?

 広いスペースを区分するようなカウンター跡。奥にはデスクと本棚。地階もありそうだ。


「死に絶えた街と言うよりは、どこかに移住して捨てられた街って感じだな」

「生活感が感じられないくらいに、きれいに片付いてるわ」


 ペンとかインク瓶とかも残っていない。

 探す所も無いくらいにがらんとしたフロアを横目に、地階への階段を降りる。

 石壁に木製の棚が、ずらりと並んでいる。

 全てが持ち出されたのだろう。木箱一つ残っていない。

 はぁ……何だか、人類が滅亡してしまった後の世界を、歩いているようだよ。


「それ、わかる。物音の一つくらい、して欲しいよ」

「こんな何にもない街に、わざわざ地図を残して誘導するか……?」

「みんなが飽きた頃に、何かが有るのかもしれないよ?」

「性格の悪い運営だ……」


 運営さーん、悪口言ってますよ?

 何てチクったら、腹いせに敵でも出してくれるんじゃなかろうか?

 そろそろ、寂しいから怖いに変わりつつあって、歌を歌いながら探し歩く。最初の倉庫も、がらんとしてるだけ。

 2つ目の倉庫の隅に、粗末な木箱が残っていた。

 開けてみると、鋼鉄製のタワーシールドが1つ、入ってた。


「防御力プラス1の効果があるから、悪いものじゃないよ?」


 私の鑑定結果に、みんな微妙な顔をしてる。

 単品としてみれば、充分に価値の有るものだし、喜ぶべきなのだろうけど……これだけ歩き回らせて、これかよ感が大きい。


「まあ、使うんだけどな……」


 唯一のタワーシールドユーザーのケインさんが、そのまま装備を変えた。

 これだけだと悲しいので、後2つの倉庫にも、何か入っていて欲しい所……。


「あ…………」


 3つ目の倉庫を覗いての、この脱力感よ。

 と、ひと目で何も無い感じの倉庫だけど、一応隠しドアとか秘密の地下室とか有るかもしれないので、見て歩くしか無い。

 最後の倉庫の真ん中に、これみよがしに宝箱が置いてある。

 ピノさんはご苦労さまだけど、隠しドアのチェックをして、宝箱の罠解除を……ご丁寧に毒針の罠があったそうな。中身は……。


「とんがり帽子……魔法攻撃プラス1だって。拍手~」


 乾いた笑いと共にパチパチと拍手して、気分だけでも盛り上げてみる。

 運営さーん……。

 紬さんに被ってもらう事に、誰も異存はない。


「じゃあ最後。……一応、神殿っぽい所にも行っておくか」

「……お邪魔しま~す」


 重い足取りで、神殿っぽい所に行ってドアを開ける。


 途端に前衛たちが身構えた!


 何があったのかと、私も紬さんの慌てて中を覗き込む。

 ステンドグラスをあしらった礼拝堂は、まだその美しさを失ってはいない。

 左右に古びたベンチの並ぶ身廊しんろうは、もう緋毛氈も褪せている。

 その真っ直ぐの先の祭壇に立つのモノが、差し込む陽射しに赤金色のボディを鈍く輝かせた。

 後頭部が長く伸びた金属鎧……。


 色は違えど、あのゴーレムに間違いはなかった。

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