22 叡智の結晶ですか?

「動かない……死んでいるのか?」

「ボディの色艶を見ると、とてもそうは思えないけどね……」


 敵対反応どころか、起動する気配もない。

 退屈しきっていた私達は、恐る恐るゴーレムくんに近づいてみた。

 先日黒いゴーレム相手に大立ち回りをしただけに、色が変わったくらいでは、とても神々しくは見えない。


「こら。……一番の紙装甲がそんなに近づくな」

「解ってるけど……捜し物」

「初めて来た所に落とし物か? 器用なウンディーネだな」

「そんなわけ無いでしょ! 当然どこかに有るはずの指輪を探してるの!」


 あの黒いゴーレムにとっての回復装置で、想像だけど、あの指輪を追いかけて海賊船を壊滅させたんじゃないかと、私は思ってる。

 それだけ大事なものを、本来はどこに置いてあるのだろう?

 祭壇の周囲を探してみる。……けど、見つからない。何で?


「サクヤさん……ゴーレムの胸元。アレって指輪では?」


 紬さんの指摘に、鎧の胸元を確かめてみた。

 ああっ……。たしかにオニキスと、ミルキークォーツ。指輪が胸元に嵌まり込んでいるように見える。


「あの指輪が起動キー……なのか?」

「引き抜くと、動き出すのかもね……」


 ケインさんと、ピノさんも同じ見方だね。

 ちょっとみんなに離れてもらって、黒いゴーレムの指輪を、アイテム欄から取り出して翳してみる。……反応はない。

 指輪と、ゴーレムは対になっているみたいだ。


「でも、どんな方法で指輪とゴーレムを対にしてるんだろう?」

「それはゴーレムだから、ルーンで……」

「待ってよ、ケインさん。まだルーンと宝石の連動の仕方なんて、知らないよ?」

「だよね? 私だって、水晶と他の宝石のコンビネーションリングなんて作れない。つまりは、みんなの技術を合わせると、こんな物まで作れるってこと?」

「技術を合わせるというか……それぞれの技術を極めるというか……」


 敵としてではなく、創造物として見ると、このゴーレムはとんでもない。

 命令はされていないのに、自己判断で戦ってたよね、あの黒いヤツは。

 それはルーンの力なの? それとも、宝石?


「どこかに、聖典みたいなものは遺ってないか? こんなに神様扱いで祀られているくらいなら、聖典が取説みたいになっているかも知れん」


 できれば設計図や組立図希望だけど、その聖典すら見当たらないのではお手上げ。

 そもそも、この子は何で置いていかれたんだろうね?

 これだけ洗いざらい持って移住した感じなのに、御神体(?)だけ置いてきぼりなんて、あんまりな気がするんだけど?


「この間戦わされた感じでは、神は神でも『祟神タタリガミ』っぽいけどな」

「でも、ゴーレムだよ? 何で、そんなのを崇拝するやら……」

「うーん……ゴーレムを作った人たちと、祀った人たちは時代が違うとか? ゴーレムであると知らずに祀った……のかなぁ?」

「……失われた文明ってやつか?」

「このゲームの時代背景って、どうなってたっけ?」

「……そもそも、そんな説明あった?」


 随分前のニューゲーム時代を思い出してみる。

 確か……タイトルが出て、キャラクター作成画面になって、ワールドに放り出されて……。ああっ! 妖精さんに連れられて施設案内された覚えは有るけど、世界設定なんて聞いたことがない!

 盲点だったよ……。

 歴史は俺達が作る! のノリでやってるもんね……特に前線組。

 ほじくり出すと、いろいろ出てくる設定なのかな?

 とりあえず、私たちはこの世界の第3世代っぽい。……心の片隅に小さくメモしておく。

 生産職が過去の文献を参考にする時に、重要になるのかもしれない。


「……で、このゴーレムをどうする?」

「どうするって?」

「現状は動き出す気配がない。……放って置いて、見なかったことにするか? 無理やり動作させて、経験値にするか?」

「分解して、調査するのは?」

「……分解できそうか?」


 聞かれたピノさんが、首を横に振る。

 調査したいのは山々なんだけど、分解方法の見当すらつかないんだよ。

 ネジとか、固定金具とか見当たらない。何しろ指輪の光で、勝手に再生する相手だ。一筋縄じゃいかない。


「塩水が弱点なのは、解ってるんだから……」

「幸い、ここは港町」


 ケインさんとトロさんは、やる気だけど……。

 なっちょさんも、戦うなら異存はないみたい。ピノさんは……研究材料にしたいよね。も持って帰れないのが辛い。試してみたけど、持ち物欄には入らない。

 紬さんは、お好きにどうぞの構え。鎧のゴーレムは、お洋服を着てないものね。


「戦うのなら、指輪を取るのを私にやらせて」

「一番戦闘に向いてない奴が、何を言い出す?」

「試したいことが有るの!」


 有無も言わさずに、ここは私が押し切る。

 前回は急な事で慌てたけど、落ち着いて考えると……ね?

 みんなが戦闘準備に入ったのを確認して、私はゴーレムくんに近づく。

 指先で摘んで指輪を引き抜くと……ゴーレムの目に赤い光が灯った。

 私は、祈るように気持ちで、その指輪を自分の左手の中指に嵌める。


 ……そう、指輪なんだよ。


 これがゴーレムに起動キーであって、回復装置であるなら、なぜ指輪の形をしているのか?

 起動したゴーレムは、私の前に跪いた。

 やっぱり、これはゴーレムの主人の証だ。

 海賊たちが襲われたのは、きっと指輪を身に着けずにいたから。どんな経緯で手に入れたのかは知らないけど、これは装備し、魔力を流してやらなきゃ駄目なものだ。


「……どういうことだ?」

「指輪を装備したことで、私がこのゴーレム君の主人になったみたい」


 戦う気満々だったみんなには悪いけど、たぶんこれが正解。

 古の世代の叡智の結晶だもん。壊すのも、置いていくのも勿体ない。

 連れて帰れるものなら、連れて帰って、いつか時が来たら参考にできれば良い。


「だぁ……戦闘無しか……」


 数日がかりで港町を調べて、戦闘一つ無かったのは拍子抜け?

 ケインさんは呆れ顔だ。

 でも、私とピノさん的には、とんでもない宝物を見つけた計算。

 それに何より、前衛大強化!

 ゴーレム君は、硬い! 速い! 強い!


「確かに……戦わずに仲間にできるなら、それに越したことはないでしょう」


 トロさんがサーベルを鞘に収めた。

 舌打ちをしながら、ケインさんが足を踏み出す。


「次は……城だっけ、早く行こうや。何かと一戦交えないことには、気持ちの収まりがつかねえや」


 あはは……数日間、すっぽかしを食わされたような町で、最後にこれだものね。

 口にはしないながら、みんな似たような気持ちみたい。

 私たちが歩きだすと、ゴーレム君も後から着いて来る。ちょっと可愛いかも。

 おいでおいでをして呼び寄せると、こちらの思考を理解したらしい。

 ゴーレム君が早足で接近してきて、右掌を差し出した。

 その掌に足をかけて、ヒョイッと肩に……乗れた!

 金属質で硬いし、揺れるし……座り心地はイマイチ。今度、紬さんにクッションでも作ってもらおうかな?


「もう、サクヤは歩くことくらい、サボろうとしないでよ!」


 目ざとく気づいたピノさんの指摘に、みんなで笑うし……。

 でも、キラキラ妖精羽根で飛んでる人に、言われたくないよね?

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