20 船底深く潜むもの?
男性陣の期待も虚しく、ベッドの下には何もなかった。
これ以上調べる所は無いので、船長室を出て再び船室へ。階段を降りて食堂らしきところへ出ると、またしてもガイコツが襲いかかってきた。
今度は4つ。
「これだけいるってことは……本当に出港準備をしていたんだろうな」
斧を一閃したケインさんが、首をひねった。
「スケルトンとか、ゾンビとかは地縛霊っぽいよね?」
「おそらく、この船の船員の成れの果てだろう」
防御専念のトロさんとピノさん。
紬さんも頭を悩ませてる。
「出港準備をしていたのに、どうして? 船には、目立ったダメージはないのよ?」
「余裕ある組で、こいつらを注意して見てくれ。死因が解るかもしれない」
そうは言われても、錆びた鉄の円盾を構え、
前からある傷なのか、今ついた傷なのかの区別がつかないよ?
「しっかり武器を持っているのも、解らないよ……。普段は盾まで持って歩かないだろう?」
武器庫ならともかく、ここは食堂っぽい。
せいぜい、フォークとナイフで襲いかかるくらいじゃないの?
それも何だか、嫌だけど……。
「こんな綺麗に白骨化してるってことは、ほぼ即死だったろうね」
「盾まで装備した海賊を、これだけ即死で倒す相手かよ……」
隣の部屋も同様だ。左右に砲塔が並ぶ砲撃室。
ワラワラと湧き出るスケルトンたち。
「何かに襲われ、それを迎撃に出て倒された。……もう本能だけで、骸骨になっても迎撃してるってわけ?」
「たぶん、そんなところだろう」
「あの……嫌な思い付きなんだけど……」
「何だよ、サクヤ……怒らないから言ってご覧?」
「骸骨になってまで、迎撃本能で戦ってるとしたらさ……その相手、まだ船の中だよね?」
「あ……ああ……ガイコツになるまでに時間がかかって、その間に逃げたのかもしれないけどな……」
私の思い付きに、ケインさんが棒読みになってる。
よほど気に入ったのか、奥にまだいる可能性が高いよ……。
船の内装も、荒らされた感じはないし。
下への階段のフタ部分は、バキバキに壊されている。
最下層の船室の廊下には、またスケルトンの群れ……。
「あ、あの骸骨は船長さんっぽい」
ピノさんの言葉通りに、一つだけ偉そうな服装の骸骨が混じってる。
警戒はしたけど、哀れ……脳味噌がないと他のガイコツと、なんら変わらない。
「やっぱり、あの奥にいるんだろうな……」
「船室の奥だけ、扉がぶち破られてるから」
「あとは精鋭軍を呼んで、私たちは帰ろうよ……」
そんな怖そうな相手と、戦いたくないよ?
手頃な相手と、チマチマ戦ってのレベル上げを希望したい。
なのに前衛陣は、スイッチが入っちゃってるみたいで。
「どうせなら、顔くらい見てからにしようや」
「報告するにも、何がいるのかを伝えておかないと、準備ができないだろう?」
駄目だ……止まりそうにない。
紬さんと顔を見合わせて、苦笑する。
ピノさんはもう、やる気満々なんだよ。
ゲームだから、セーブポイントに戻されるだけどはいえ、死ぬのは痛そうで、嫌だなぁ。
ひとりだけ取り残されるのはもっと嫌だから、一緒に突入する。
ここは貨物室かな? 大きな木箱がいくつも積まれている。
そこに待ち構えていたのは……。
「……何、あれ?」
映画で見たエイリアンのような、後頭部の長い黒光りした……生き物、じゃないよね?
それはゆっくり起き上がって、顔をこちらに向けた。
「たぶん……ゴーレムだよ」
緊張した声で、錬金術師のピノさんが看過する。
黒い鎧姿のゴーレムは、カメラなのか、目なのか、虚ろな赤い光でこちらを見る。
敵意を感じたのか、いきなり動き出した。
「コイツ、けっこう速いぞ!」
手甲のようになったピアサーの、左右連撃を盾で受けてケインさんが呻く。
更に尻尾の先の針が襲うが、フルアーマーの鎧が弾いて難を逃れた。
「……何でゴーレムが、海賊船を襲ったのでしょう?」
「紬さんは、サクヤみたいなことを言ってないで、装甲強化をくれ!」
ちょっと、ケインさん! それは失礼すぎるでしょう!
肩を竦めて、スペルを唱え始める紬さんも何気に酷い。
たぶんそれは、とても大事なことだと思うよ……。
とはいえ、なっちょさんの正拳突きが躱されて、カウンターで傷を追ってしまうと、そっちが優先だ。左腕を血に染めたなっちょさんに、ヒールドリップをかける。
猫の頭の上に浮かんだ雫が落ちて、一瞬水を被る。それで傷口は塞がったはず。HP回復までには足りない。
肉球アップをサムアップで返す。……いつかウンディーネにも肉球を。
「コイツ1体で、海賊たちを全員屠ったんだね……」
様々な属性の矢を順に射掛けながら、ピノさんがギリッと奥歯を鳴らした。
疾風のようなゴーレムに大盾を駆使しながら、ケインさんが受け止める。相手の手数を減らそうと、なっちょさんの踵落としが左手首に炸裂! 見事に手甲をへし折った。
なのに、ゴーレムが一旦ステップバックする。
そして、木箱の上に乗った指輪が怪しい光を放って、手甲を復活させた。
「何だ、コイツ……不死身かよ?」
「違うよ! あの木箱の上の指輪……あれが光って、再生させたの!」
「そんなのは見えていないが……?」
トロさんがみんなを伺う。……私以外に見えてないの? 何で?
「他ならぬジュエラーの目だもん……信じるよ。あの指輪ね」
キラキラ妖精羽根で舞い上がったピノさんが、テグス付きの矢で狙いを定める。
「いただきっ!」
「ピノさん、気を付けて!」
奪われた指輪を取り返そうと、ゴーレムが跳ねた。
その鼻先に大盾を突き出して、ケインさんが力任せにはたき落とす。
積まれた木箱に叩きつけられたゴーレムの顔面に、なっちょさんの回し蹴りが飛ぶ!
狙い澄ました一撃が、フェイスパーツをグニャリと歪める。……が、今度は再生されない。
「本当に、サクヤの言う通りみたいだね……」
だからって、ピノさん。
その指輪を、私に投げ渡さないで!
受け止めた私の掌の中で、漆黒のオニキスと、ぼんやりとも見える水晶のコンビネーションリングが輝きを放つ。綺麗だし、研究したいけど、今は持ってると絶対に襲われる。
持ち物欄に放り込んで、ナイナイしちゃう!
「良かったな、サクヤ。お宝が手に入って」
「こんな状況で喜べないでしょ!」
皮肉を言うケインさんに、アカンベェだ。
サラマンダーは、炎を上げてニヤリと笑った。
「それじゃあ、場所を変えようや!」
ゴーレムに体当たりを食らわせて、貨物室に火を放つ。
さすがに木造船。可燃物はいっぱい有る。
回れ右をして、全速力で逆走だ。甲板から洞窟の中に飛び降りて、燃え上がる船を眺める。
「サクヤは砂浜まで走れ! お前らは守ってやれよ!」
「ケインさん、ここは俺が引き受ける! は無しだよ?」
「あれが、このくらいで屠られるものかよ。狙われるのはサクヤだろうから、俺はゆっくり後退しながら、アレを観察する。……泳げるのかどうかで戦略は変わるからな」
「無茶しちゃ駄目だからね!」
きつく言いつけて、スタコラサッサと逃げ出す。
アレが泳げるなら、水中から来られて終わる。……そうでないなら、勝機は有る。
砂浜に戻って、戦闘態勢を取る。砂浜なら、そうそう素早くは動けないはず。
ゴーレムは、岩肌を伝うケインさんの頭の上を飛び越えて、空中から来た!
……ならば!
「ウォーターブラスト!」
この間覚えたばかりの、攻撃呪文をぶち当ててやる!
カウンターで食らったとはいえ、くるりと回転して降り立つ……でも、そこは海の中だ。
遠浅の海岸。溺れはしないだろうが、頭の上まで海水に漬かって、ギクシャクと戻ってくる。やはり水……それも、海水は苦手らしい。
「それじゃあ、私も……トルネード!」
膝の水位まで戻ってきた所を、今度はシルフが風を使う。
海水を巻き上げた竜巻の中に包みこまれ、みるみると動きが遅くなってゆく。
見た目では解らないが、金属である以上、塩害の腐食は免れない。
止めは、なっちょさんの三連撃だ。
頭と両腕を殴り飛ばされ、ゴーレムは仰向けに倒れて海に沈んだ。
「終わった……のかな?」
「たぶん……ね」
「錬金術師としては興味があるけど……さすがにアレを引き上げて、調べる気にはならないかな……」
「好奇心は猫を殺すと、言いますからね。今はご遠慮下さい」
トロさんのセリフに、やっと笑顔が戻った。
ゴーレムの沈んだ場所を恐恐眺めながら、手に入れた指輪を確かめる。
オニキスと……これはミルキークォーツかな?
半透明な水晶と、漆黒の石の並んだ指輪を見つめた。
複数の種類の石を、併用するジュエリーも有る。
きっと、その法則があるはずなんだ……。
この指輪とゴーレムの関係は?
考えることはいっぱいあるけど……今日はここまでだね。
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