19 洞窟の奥には?

 東を向いている分、洞窟の入口は明るい。

 中央が深い水路になっていて、その左右に二人やっと並べるくらいの通路が有る。

 ちょっと人工物か、自然の産物かは、悩む。

 再びランタンを点けたトロさんを先頭に、洞窟に足を踏み入れた。

 磯臭さが強い。岩肌に潮の香りが染み付いている? それとも何かが有るの?


「もうちょい足場が広がってくれないと、まともに戦えないぜ」

「海に落ちちゃった時は手を上げてね。私と手を繋ぐと、水面歩行が可能になるから」

「特に金属鎧で、火の点いてる人だね」

「そんなドジは、踏まないようにするさ」


 ぜひ有言実行して欲しい。

 金属鎧だと容赦なく沈みそうだし、アニメでは火の消えかけた火トカゲさんが、死んじゃいそうだったもん。

 少し進むと、楽に二人並べる広さになって安心する。

 そして、ここがダンジョンではなく、普通の洞窟であることも判明した。


「こらっ! あんな物が有って、普通の洞窟のワケがないだろう?」


 細かいことは、どうでもいいじゃない。

 光の届く範囲に岩壁の終りが見えてきて、その岩壁が見えなくなるくらいに木造の構造体が有るだけなんだし。……その構造体だって、とても動くようには見えない。


「いや、どう見てもあれは船だろう? 動きそうにないくらいにボロだけど、いわく付きの宝物が眠っていそうじゃないか?」

「鉱石採れそうにないし……」

「完成品は、お宝として出そうな気がするよ?」

「……少し頑張れそうな気がしてきた」


 お宝となるような『完成品』のジュエリーには、興味が出るよ!

 自分たちなりのものは作っているけど、これぞ宝物! っていう完成されたジュエリーは、この世界ではまだ見たことがなかった。『お手本』になるお宝ジュエリーは、確認しておかなきゃいけない!

 仕方がない……ボロ船探索をしよう。

 幽霊船っぽくて、嫌なんだけど……。

 ギシギシと軋むはしごを上って、甲板に出る。見上げるマストは、まだまだ丈夫そうだけど、帆はもうボロボロ。紋章も見えない。


「どういう船なんだろうね……?」

「こんな洞窟に隠しているようでは、海賊船かな?」

「海賊船なら……お宝がつきものだろう」

「どこかに隠した後だと、謎の地図とかしか無いかも……」

「夢の無いウンディーネだな……?」


 私の運なんて、VRユニットが当たった時点で尽きてる気がする。

 ほぼ苦労無しで生きてるだけでも、大ラッキーだから。

 それを象徴するように、甲板に入れる穴を探していたら大シオマネキと、パンチロブスターが団体で現れた。……硬そうな団体さんだ。


 「フォースフィールド!」


 物理攻撃メインと見て、紬さんが初手でみんなの物理防御力を上げた。

 なっちょさんが気を練り、ケインさんは種族特性で、斧に炎を纏わせる。トロさんは防御専念して、敵の攻撃を散らす構え。ピノさんは、トロさんに風を纏わせて敏速を上げた。

 私は……例によって防御専念という名の待機。

 カニ2個とエビ3個。左右のハサミの乱打は痛そうだけど、前衛陣はしっかり耐えきってみせた。

 そして、気を練ったトロさんの正拳突き!

 クリティカルしたのか、甲羅が砕けてカニさん1匹の動きが止まった。

 ケットシーなのに……猫なのに……肉球なのに……凄い。

 ケインさんの唐竹割りの斧はエビに避けられて、ハサミを一本飛ばして終わった。

 ピノさんは目玉狙いで矢を放ったが、ハズレ。トロさんは相手が悪いと防御専念。サーベルでは、甲殻類はしんどいよね。

 私は……約束を破って、一度だけ魔法を使っちゃえ!

 得意の細いウォーターカッターで、ハサミのもとの関節の柔らかい所をスパッと斬り飛ばす! これでケインさんの前のエビは、両ハサミを失った。


「ナイス判断だけど、サクヤは危ないことをしちゃ駄目だって。防御専念して」


 ピノさんに叱られた。

 攻撃すると、それだけヘイトを買うから、遠距離攻撃が有る敵だと的にされかねない。

 ……ピノさんの言うのが正しい。まだ、敵の戦闘力がわからないもん。

 ハサミが無くなり、尻尾アタックに切り替えたエビの柔らかな尻尾の裏に、ピノさんが雷属性の矢を射て大ダメージを与えた。

 その後、残りのカニは斧で真っ二つにされるわ、エビは肉球三連撃で気絶するわで、押せ押せムード。残りのエビを追い詰めて、一気に駆逐した。


「ワォ、身の詰まったカニのハサミゲット。これは完全に食材」

「こっちは、ロブスターの肉。食材モンスターか?」


 ……納得のドロップアイテム。

 他にカニ味噌も出てる。じゅるり……。

 海で地引網とかしたら、バトルになりそうだね。伝えておかないと。

 甲板に穴のようなものはなく、船室のドアを空ける。

 あぁ、やっぱり出たよ。ガイコツ3つ。


「この船は、俺に相性が悪すぎる……」


 トロさんはまた、苦渋の防御専念。スケルトン系は、刃物は効果が薄いのよ。

 ボロボロの衣服は、マリンボーダーの名残が有る。やはり、海賊っぽい?

 他の二人が割り砕くものだから、時間はかかるけど、パーティとしての相性は、それほど悪くはない。トロさんは、ストレス溜まりそう。


「どっちに行く? 上か? 下か?」

「上は船長室だろうから、先にチェックをしておくべき?」

「ヒント満載の航海日誌とか、有るかもしれない」

「宝の地図とかも!」

「それ、絶対に謎の暗号が付いてるやつだね」

「『……陽に向かいし時を告げる山羊の両のまなこに我を収めよ』とか、かしら?」

「やめて……そのお宝は、私のポケットには大きすぎるから」


 しょーもない冗談を言いながら、腐りかけの階段を上がって艦長室に入る。

 カンテラの灯りに浮かぶのは、壁に貼られた海図。オウムか何かを飼っていたらしい鳥籠。机にベッド、本棚。転がった酒瓶。……兵どもの夢の跡? どこから来るのか、天井の隅にはクモの巣が張られている。

 海図に描かれた三角島は、かなり細かく描きこまれているよ。

 スクリーンショットを、文字が読めるサイズで撮っておこう。こんな精細な地図は、大きな情報だ。


「西側には港が有る……事になってる?」

「そこと、テイタニアを結ぶ道なんて、今は無いよね? これはどのくらい昔の地図なんだろう? 道の途中に、お城があるんだ」

「テイタニアの東南に描かれてるのは神殿?」

「その3か所はチェックしておいた方が良さそうだな……」


 まさか幽霊船で、今後の冒険コースが決まるとは思わなかった。

 他の陣営はどうなんだろう?


「このゲームに関しては、他の陣営の情報が取りづらいんだよなぁ……」

「何で? 普通は攻略サイトとか、匿名掲示板とかが盛り上がらない?」

「サクヤ……お前は普段から、情報を集めて無いだろう?」

「……なぜ、バレる?」


 今の会話で、それがバレる余地が有った?

 むぅ……みんな微妙な顔してる。

 ピノさんが呆れて、ずれた眼鏡を直しながら教えてくれた。


「この『ラ・コンキエスタドール VR』は、最初からPvPの領地占領型と宣伝されているから、各陣営の開発具合とかをバラすと直ぐに特定されて、晒されちゃうんだ。プレイヤーIDで入れる、公式の情報サイトと、各陣営の掲示板でしか、情報はやり取りされなくなっちゃってるの」


 あら、怖い。

 でもせっかく苦心して開発したアドバンテージを、タダで他所にも流通させる手は無いよね。だからこその、序盤の精霊軍快進撃だし。

 それを知らないのでは、情報集めをしていないのはバレバレだね。


「こんな風に、地図の穴埋めに動けそうなのは……魔族軍くらいか?」

「たぶん……人族は、そんな余裕がないだろうし」


 みんな、納得顔でそんな話をしてるけど……。

 キョトンとしている私に、紬さんが教えてくれる。


「魔族軍は、第3集落……テイタニアと魔族軍の間の集落を、完全にウチに獲られちゃったから、そっちを監視するに留めて、人族との間の第1集落奪取に全力なの。人族は人数は最大だけど、第2集落を争うウチと、第1集落を争う魔族軍で、2正面作戦を強いられてるから、余裕が無さそうなのよ」


 なるほど……人族も大変だ。両方を支えきれる所が凄いと言うべき?

 地図埋めで過去の遺産が手に入って、それが大きな武器になるなら、可能性のある魔族側にも注意しなければいけないかも。

 新たなアドバンテージを得るべく、女性陣は本棚に、男性陣は机に取り付いて、調査を始めた。


「ベッドの下とか調べなくて良いのか?」

「あとで調べるけど、別のお宝が出てきたりして……」

「嫌だぜ、そんな思春期男子みたいな海賊」


 下ネタな男性陣に呆れつつ、本棚に収められた本を調べていく。

 生産職の私達には、本の中にこそお宝がありそうで、目を皿のようにして読み込む。


「これは古い王国の紳士録だね……読む必要もないか」

「こっちは出納記録を綴じたもの。マメな海賊さんね。……今は、蔵書目録に描いておけば良いかしら」


 書物というよりは、記録を綴じたものが多い。

 印刷されたものでは無さそうだし、本が高価な時代の海賊さんかな? あまり学識の高い海賊さんは、いない方が自然?

 本棚はハズレっぽい。本を全部出して調べても、隠し扉も引き出しもない。

 机の方に、航海日誌があっただけだ。


「……平凡すぎない?」

「文章がシンプル過ぎるし、船を襲っても宝物らしきものを奪った記述がない」

「最後も、次の航海の準備で終わってるし……少年漫画の打ち切りエンド?」


 みんなして、総書評家状態。

 別に新人賞に応募するために書いた原稿でもないのに、袋叩きである。

 可哀想な海賊船長さん。

 キャイキャイはしゃいでいた私たちは、トロさんの一言で我に返った。


「……じゃあ、何でこの船はここで眠ったままなんだ?」

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