18 海の幸は美味ですか?

「サクヤー! 大丈夫、怪我してない?」


 定時会議で、いきなりサーヤの声が飛び込んできてビックリした。

 さすがに、人族との間の集落(第2集落と呼ばれているそうな)を巡る激戦の中で、戦力としてのサーヤを抜くわけには行かない。

 気持ちは嬉しいけど。


「大丈夫だよ。逆に私が何も出来なくて、申し訳ないくらい」


 苦笑しながら応えると、心配に心配を重ねつつ、ロキさんと交代した。

 網焼きした帆立貝を頬張りつつ、ちょっと照れる。


「サクヤたちは、今はどの辺りだ?」

「滝の横から、東にジャングルを抜けた所。砂浜があったよ!」

「砂浜? 海の幸が獲れそうね」


 ニマっと笑った顔が見えるようだ。すあまさんが口を挟む。

 元気にピノさんが、状況を報告した。


「まだ、ざっと見ただけだけど……珊瑚と、真珠を見つけたサクヤさんが一番喜んでる。紬さんは海藻を物色中で、ケインさんは砂鉄を探してる。私も、砂の成分を調査し始めた所です」

「珊瑚と真珠は、どんな力の宝石?」

「珊瑚は品質によって、一定時間の炎ダメージ無効。真珠は相手の硬直です。もちろん、これも一定時間」

「使い方次第ってことか……」


 まるで空き家に動物が引っ越してくるゲームのように、海岸に珊瑚が打ち上げられてたんだよね。ついでに貝たちも、波打ち際に。アコヤ貝を探しつつ、ホタテ風のものを開けていって真珠を見つけたんだ。

 ……で、開けた後の海をそのままにするのも何なので、網焼きにして美味しく頂いております。醤油が欲しくなるけど、ワインを垂らしてもイケる。

 真珠は出ないけど、ハマグリやサザエも焼いちゃったり。

 釣り竿や網があれば、魚はもちろん甲殻類も獲れそうだ。里の工房チームにも、手が空いた時には、この海岸までの遠征を勧めておく。

 私たちの経験上は、最大障壁は虎さん。何とかなりそうという、里の護衛チームの力強い言葉に安堵した。

 今の私達には、前線の防衛戦略も、それに伴う物資の準備、補給計画も遠い話になってしまう。完全な別行動だもんね。

 話は聞いていながら、興味は砂浜の方だ。

 先を考えると、あまり数多くは持っていけない。珊瑚は大きめのを3つ持ち、真珠は1粒づつ包んで、宝石袋に入るだけ入れておく。これで真珠は持ち物枠1つで済ませる。

 このまま海岸を北上しながら、昼間の陽射しの下での海岸も見ておきたい所。

 変化が無いとは限らない。

 明るい陽射しの下なら、見落としも無くなるだろう。


 両手で掬った砂を隙間から、少しづつ落としてみる。

 夜だからこそ、キラキラとした砂の成分が、灯りに反射して目立つんだ。

 これも石英……水晶と成分は同じだけど、こっちは宝石にするよりは石灰なんかと混ぜて焼いて、ガラスに加工する方が良いやつ。


「安全性が確保できれば、ここにも集落を作りたいね。ガラス工房に塩田、珊瑚に真珠に海の幸で、充分に稼げそうだもん」

「心配なのは天候か……ジャングルの植生を思うと、スコールの大水や、津波も心配だ」

「心配するのは、後から来る里からのメンバーの仕事。私達は、発見と提案をすれば良い立場だもん」

「お気楽に言いやがって……」


 ピノさんに突っ込むケインさんも、そこまで考える気は無さそう。

 でもなぜ、砂鉄にこだわるの? 鉄鋼石の方が、多く採れて楽なのに。


「砂鉄からでないと、精製できない鋼も有るんだ。薄刃でも粘りのある、切れ味抜群の剣が作れる」


 凄みのある笑顔。……強い前衛さんだけど、やっぱり鍛冶屋さんだね。

 鉱床と同じように、どこかに良質の砂鉄の産地があると信じてる。

 それは私たちも同じで、探索範囲を広げれば新しいものが見つかるはずだよ。実際に私が、サンゴや真珠を見つけたわけだし。その発見が、自信につながる。


「海の幸は、申し訳ないくらいに羨まれちゃった」

「まあな……肉や野菜だけでなく、貝も食いたいだろう? それも、採れたてのホタテの網焼きだからな」


 会議を終え、お腹がくちくなった私達は、もう一度気合を入れ直した。

 意外に、この砂浜は続いてる感じ。


「うーん……こっちの方が大きいけど、品質はこっちかな?」


 落ちてる珊瑚を拾っては、手持ちと見比べる。持っていたのを、ポイっと捨てる。

 どうせ、日が昇るまでは海岸にいるのだ。のんびりやろう。

 トロさんも海藻を拾っては、波で洗ってる。


「それ、食べられるんですか?」

「軽く酢をかければ、そのままサラダだ。付け合せにちょうどいい」

「トロさん、料理するんだ?」

「サブ技能には、手頃だったので」


 ぶっきらぼうに言うけど、トロさんっていう名前からして好きそうだ。

 さっきもホタテを網焼きたのに、醤油が無くて往生してた所にさらっとワインをかけてくれたのだし。

 ぶっきらぼうなトロさんと、とにかく無口……というか、なっちょさんに至っては、まだ声を聞いてすらいない。

 表情やリアクションは感情豊かなので、特に気にならないけど。喋るのが億劫なのか、別の理由があるのか……。コミュニケーションは取れてるから、詮索する必要もない。

 砂の中から突然現れた赤マンタも、即連携して倒しちゃうくらいだもの。

 余計な波風を立てる必要もないよね。


 アカエイの毒をゲットしたから、ピノさんに渡す。

 調合すると、毒消しを作れるかもと言う。貧弱な回復担当としては、ぜひ調合をお願いしたい。


 東の空が明るくなってきたと思ったら、ぐんぐんと日が昇って来た。

 普段は工房の中にいるから、あまり感じないのだけれど、ゲーム内の時間経過速度は現実の3倍だというのを実感してしまう。

 日の出を見るのは、お正月番組以来(もちろん録画の映像だ)だけど、情緒も何もなくぐんぐん日が昇っていくのね。あっという間に、青い空。白い砂浜に、青い海から波が寄せては返す。見る限り、島や岩礁は無さそう。


「一気に暑くなる以外に、変化は無いね……」

「歩くより、泳ぎたいぜ」

「サラマンダーさんの海水浴って、炎は大丈夫なの?」

「気分の問題だ。お前も、ウンディーネとして逸る気持ちとか無いのか?」

「うーん……海はマーメイドの領分だからなぁ」

「……このゲーム、人魚はいないだろ?」

「そだね……ローンの領域と、言い換えとく」


 このメンバー、ローンはいないんだよなぁ。

 アザラシ変化とか、見る絶好のチャンスなのに……。

 ウンディーネは水の精霊だけど、塩水じゃなくて真水のイメージだと思う。泉とか、湖とかにいる話は聞くけど、海のイメージは無い。

 種族特性で水面を歩けるはずだけど、海でもイケるか試してみようか……と思ったら、みんなに全力で止められた。

 はい……敵に遭遇したら、一撃で死にます。


 そんな馬鹿話をしながら歩いてきた、砂浜の終わりは、切り立った崖が聳えていた。

 黒みがかった、ゴツゴツした岩肌。

 高さは、3階建てのビルくらい有るかな?


「じゃあ、今度はこの岩肌に沿ってジャングルに戻ってみる? 滝の西側も見てみたいし」

「まって! サクヤ、あそこに洞窟が有るよ?」


 ピノさんの指差す方を見ると、岬という程でもないけど……海に向かって迫り出した部分に、洞窟が口を開けていた。

 岩肌を伝って、狭い岩場を伝えば行けそうなんだけど……。

 塔とかダンジョンは、探索しないって約束させられてる。

 なのに、ケインさんがウインクして


「まだ、ダンジョンって決まったわけじゃないよ……な?」

「それにスタート地点直後って、敵も弱いはずだし……サクヤさんのレベル上げもしなくちゃ回復が問題になるよ……ね?」

「行くなら、きっちり護衛させてもらう」


 ピノさんの言い訳を、トロさんも煽るし。

 なっちょさんは掌を拳で叩いているし、紬さんも斜め上を見て微笑んでる。

 なんだ……誰も止める人がいないじゃないか!


 みんなで岩肌を伝って、波を気にしながら突き出した岩を足がかりに、進んでゆく。

 洞窟は意外に大きく、大きめのデパートの入口くらい有る。

 ガタガタの岩で出来ているし、ちょっと天井も高いけど、広さはそんな感じだ。


「それじゃあ、ちょっと覗いてみるか」

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