17 守られるだけでいいですか?
ログインすると、猛烈な水音に驚かされる。
鉱山の裏側にある大瀑布。
昨夜はここまで歩いて、リアルなお時間を理由にログオフしたんだった。
周りの薄明さは、朝なの? 夕方なの?
リアルタイムとの時間進行が違うから、ちょっと戸惑う。
……夕方か。今日は夜の旅路になりそうだ。
湿気は凄いけど、滝からの水煙もあって、ここはとても涼しい。
「あ……お帰りなさい」
先にログインしていた
みんなが集まってくるのを待つ間、私も見習って手仕事してましょうか。石を磨くのは無理でも、金属部分は手作業で磨ける。砥の粉を付けて、布でコシコシ……。
熱中している内に、いつの間にかみんな揃ってた。
持ち物欄にナイナイして、服の砂を払う。
「どんなコースで行きましょう?」
「誰か考えてるヤツは……いそうにねえか。前線の連中は、どの辺りまで踏破してる?」
ケインさんが、地図らしき大雑把な図を広げて確認する。
ニョっと爪を出して、トロさんが地図をなぞった。
「この瀑布の休憩所から左に少し降りて……あとは真っすぐ北のテイタニアまでの一本道は踏破している」
「そりゃあ、最短距離しか見てないってことだな……」
呆れてトカゲさんの顔を歪める。
時間勝負で速攻をかけたから、仕方ないと言えば仕方ない。
その後は拠点集落の防御線が続いて、それどころじゃなかったろう。
「じゃあ……一本道まで出たら、海に突き当たるまで東に行ってみよう? 砂浜だったら、里の開発チームでも拾いに行ける物が有るかも知れない」
眼鏡をキラリンとさせた、ピノさんの提案に反対する理由がない。
私的には、海岸があれば海洋宝石が期待できる。
宝石の中には、穴を掘っても出ないものも有るんだ。
ランタンを点けた斥候のトロさんを先頭に、滝の横を降りてゆく。
続いて、ケインさんとなっちょさんの前衛隊。紬さんと私を挟んで、最後尾がピノさん。紬さんが念の為、魔法の灯りも点している。
これが、最も無難な隊列なんだって。
さて、ジャングルに分け入ろうかと、浴衣っぽい衣装の裾をお端折りする。
……ケインさんは何をわざとらしく、目を逸らしてるのかな?
「いや……何だか、見ちゃいけないものを見ている気がして」
「何言ってるのよ。下はハーフパンツだし。三角島に来てから、ずっとそんな恰好だよ?」
「着物マジックというか……妙にな」
「オジさんはやーねー」
「こら!」
ピノさんが、製作者の紬さんに同意を求めて、怒られてる。
オジさんの感慨は置いておいて、行こ行こ。
「サクヤさんは、回復以外に魔力使いは禁止です。せめてレベル20のヒールウォーターを覚えてくれないと、回復役としても心許ないので」
「はーい」
一応全体回復のヒールレインまでは覚えてるけど、みんなのHPからすると、焼け石に水程度だとか。
頑張りたいけど、『まほうつかうな』と言われてしまうと、頑張りようが無い。
みんなに頑張ってもらって、経験値を稼いでもらわねば。他力本願……辛い。
司令塔のピノさんの指示だから、従うけど。
苔が多いから、足元が滑りやすいね……。下ばかり見てるわけにもいかないし。
ああっ。足元を確かめていたから、なっちょさんの猫拳を見逃した!
とっても無口ななっちょさんが、大トカゲを一撃で仕留めたみたい。……次こそは、しっかり見る!
「ねえ……ピノさん。この辺の敵の強さって鉱山とだいぶ違うのかな?」
「微妙に強い感じ? でも、なんで?」
「この先が砂浜なら、里の工房組でも採りに来られるかな? って思って」
「ちゃんと守られてくれればいけそう。護衛パーティーは良い腕してるよ」
「海の材料は、まだ入ってませんものね」
虫は苦手らしく、困り顔で羽虫を払う紬さんも同意してくれる。
ウチの工房のラウンジで、お料理中のカレンさんがいるから積極的に動いてくれそう。
この先が砂浜であって欲しい。
「気いつけろ! 団体さんだ!」
ケインさんの声で気を引き締める。
牙を見せて睨む虎さんの前に、壁役のケインさんが進み出て、行く手を塞いだ。
そして虎の威を借る狐……ならぬ、目付きの悪い猿が4匹、石や腐った木の実を投げつけてくる。しまった、小さな盾だけでも買ってくれば良かった。
「右をなっちょさん、左をトロさん。虎の後ろは私と紬さんでやるよ。サクヤさんは頑張って避けて!」
指示をしたピノさんは、キラキラ~っと、妖精羽根で舞い上がる。
ショートボウで、見事に猿の手首を射抜いた。
ここは魔法はいらないと見たのか、紬さんは皮のタオルのようなもので石を投げて援護してる。……そういうものも有るんだ。
左右二人の前衛さんは、さすがケットシー!
タタタッと木の幹を駆け上がって、いきなりの接近戦を挑んでる。
なっちょさんは、回し蹴りから、後ろ蹴りのコンボ! 更には、猿が乗っていた木の枝を蹴って、その勢いでエルボーを叩き込む。強いっ!
トロさんは、意外にトリッキー。
猿の眼の前に盾を突きつけて、目線を塞ぎながら、思いがけぬ方向からサーベルを突き出してダメージを与える。
ケインさんは、真正面から虎の猛攻を受け止めながら、後ろに振りかぶったままの大斧を何時振り下ろすか狙っている。
私は何か投げつけられたら避ける準備の、ドッジボール状態。協調性に欠ける子だったから、得意なはずがないぞ!
遠距離攻撃阻止に動いてくれて、本当に助かります。
木の幹を背負わせた猿の胸に、正拳一撃! あ……相当効いたっぽい。サルさん1匹、力無く墜落。そのまま、とんぼ返りの要領で、後ろの猿の首に足をかけて、引き倒すように後頭部を木の幹に打ち付けた。
ちょっとグロ画像になったけど、なちょさん強い! 何、この猫さん。
トロさんも、えげつなく猿の口にサーベルを突きこむようにとどめを刺す。
一気に仲間を失って、慌てた最後の1匹も、ピノさんの矢で喉笛を貫かれて落ちた。
残るは虎さん。
振り抜いたケインさんの斧が、豪快に左前足を斬り飛ばした。
うん、血煙っていうのを初めて見た気がする。痛みに咆号して襲いかかる虎さんの攻撃を、盾で受けるというより殴り返しているね。……ケインさんも強いや。
木の上から飛び降りた、なちょさんがダイビングエルボーを虎さんの腰に決める。あぁ……これは腰の骨を砕いたっぽい。
動きの止まった虎さんの残りの右肩に、トロさんのサーベルが突き刺さり、悲鳴を上げるように吠えた首を、ケインさんの斧が豪快に斬り飛ばした。
……なんて、実況しているくらいに、本当に見ているだけで終わってしまった。
戦闘レベルが14になったよ……何もしてないし、何も成長していないと思うのに。
「本当に何もせずに終わっちゃった……」
「いざという時の回復役だもん。それまでは、じっとしてなさい」
溢れた呟きを、紬さんに拾われちゃった。
「その石を投げるの、私も練習しようかな?」
「サクヤさんだと、どこに飛んでいくのかわからないから、ちょっと怖いよ……」
戯けてピノさんがいうけど、ちょっと傷つく。
そんな私の指をそっと撫でて、紬さんが笑った。
「そんな練習をしていると、手指が無骨になって、繊細な細工ができなくなっちゃうよ? サクヤさんの価値は生産にあるんだから、気にせずにお姫様気分でいなくちゃ」
「お姫様って……そんな!」
「採取と、加工技術の向上のために来てるんだから、気にしないようにしなくちゃ。餅は餅屋って言うでしょ」
紬さんが、私の手をぎゅっと握る。
そっか、心苦しいのは私だけじゃない。……紬さんの石も、当たってなかったね。
更にジャングルの奥に踏み込んでいく。
何度かの戦闘中に、現れた大蜘蛛に紬さんが興味を持ったけど、吐く糸は繊維には向かないみたいだ。
戦闘レベルが15になって、ブラストウォーターという水の塊をぶち当てる魔法を覚えたけど、私に望まれる魔法じゃないから、それほど使う場は無さそうだね。
鬱蒼とした木々が薄くなり、波の音が聞こえてくる。
ジャングルを抜けた私達の前に、白い砂浜が広がっていた。
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