15 職人会議は初めてですね?

 魔法の高熱炉は、意外に早く出来上がってきた。

 蝋を溶かして燃やしちゃう程度の温度なら、それほど難しくはないらしい。

 ついでに、個人用にもう一台作ってもらおう。……ここを離れても良いようにね。


 魔導機作りのトップの人は、何とシルフの人。

 キャラだからあまり意味がないと思うんだけど、「気分的に落ち着かないから」と丸メガネを掛けている、ピノさんこと、ピノ・ブランさんだ。

 せっかくなので、ラウンジでお話しちゃおう。

 駐屯パーティーのカレンさんが、結局カウンターに常駐してお料理中だったり。

 ワインとマルゲリータのピザを出してくれた。


「うまっ! ここに常駐しちゃいそう!」

「どうぞどうぞ、大手3ギルド共同出資の工房なので、ご遠慮なく」

「本当だったんだ。……征服戦が始まってから、みんな前線に出ちゃって世情に疎くなっちゃった」

「精霊軍は優勢です。どこも前進基地的な町は取ってるんだけど、各勢力の町との中間の集落を魔族軍側は完全占拠して、人族側のも防衛戦中です」

「詳しいね?」

「通信機代わりの宝石で、毎日連絡取ってるの」

「もう……そういう情報は共有しようよぉ!」


 ……言われてみれば、尤もだ。

 ここに、他の生産者たちも残ってるって、聞かされてたのにね。

 人付き合いが苦手な娘で、申し訳ないです。

 今、手を止められる生産職さんをラウンジにご招待して、遅ればせながらの現状報告会を行う。もちろん説明役は、駐屯護衛部隊のリックさんたちに任せちゃう。彼らの紹介もあるし、何より私に任せて話が進むわけもないじゃないか!(開き直り)

 防具職人のノームの人に、ついでにチェーンの量産もお願いしちゃう。

 鎖帷子の飾り用の細く小さなリングをいっぱい作ってもらって、ネックレスやブレスレットなどの鎖に流用したいの。ジュエラー側から、金のインゴットの提供を持ちかけたら、快く引き受けてくれた。

 強度はないけど、飾りつけには有用。それに合金にしたりすると用途も広がるもん。

 鍛冶工房として纏まっている組織上は、武器職人のサラマンダーさん。ケインさんが責任者らしい。


「宝石の魔力って、剣や武器に付けられないものかな?」


 聞かれても試したことがないし……。

 そうだ、ピノさんにも聞いてみよう。


「魔導機を作る上で、魔力ってどんな扱いなんですか?」

「はぁ……やっと、こういう話ができた!」


 大きな溜め息を吐いて、ピノさんが微笑む。

 ピノさんは、魔導機を作るにおいて、ずっと宝石を気にしていたらしい。

 それは鍛冶屋さんも一緒だし、アクセにもなる服飾屋さんも一緒。里に集まってはいたものの、ずっと横の繋がりが無かったから、頭を抱えていたそうです。

 私は私で、戦闘ギルドとばかり一緒にいたからなぁ。

 生産職というより、戦略兵器工房みたいな感じだったものね。

 そして、ピノさんがまず、手の内を明かしてくれた。


「魔導機づくりは、基本的には部品に『ルーン』という魔法記号を刻んで命令するの。冷風扇を作るなら、風を送る部品があって、その前に網か何かに氷のルーンを刻んでセットすれば、風が送られて、冷やされる……こんな作り方」

「ルーンって……宝石に刻んだらどうなるんだろう?」

「試してみたいから、1個頂戴! 戦闘部隊ばかりに供給されてるから、売ってないし、こっちには回ってこないんだもん!」

「ごめんなさい……気が付きませんでした」

「大丈夫。サクヤさんだけでなく、今日の今日までみんな横の繋がりがなかったもん」


 あはは……と、生暖かい笑いが広がる。

 解る。物作りをしていると、籠りがちだものね。

 ピノさんは、ケインさんにも「大きな機械部品作って」とお願いしてる。

 餅は餅屋で、品質良さそうだし、慣れてるから早いそう。


「では、ジュエラーの説明をしますね……」


 私のまどろっこしい説明も、みんな熱心に聞いてくれる。一番謎の職種だったらしい。

 宝石は加工するだけで、魔力を込めないという点に一番驚かれた。起動時に魔力を流すけれど、宝石はその魔力に反応するだけだ。

 ケインさんの鍛冶は語るまでもない。出来上がりの品質によって、ステータスにプラスされる物は出来ても、いわゆる魔剣はまだ出来ていない。

 服飾工房の主は、つむぎというニンフさん。

 こちらも糸の工夫に拠る品質向上が頭打ちで、ボタンなどに宝石や、魔導機的なものを仕込めないかと思ってたけど、伝手がなかった……らしい。


 向こうで、調理や、木工の工房と農園や牧畜の組が輪を作っているように、この4人はちょっと膝を詰めた方が良さそうだね。

 私は最近考えていることを、ぽつんと溢してしまう。


「……魔法って、何だろうね?」

「魔法はともかく、魔力は電気みたいなものと考えて良いんじゃないかな?」

「電気?」


 丸メガネを人差し指でずらして、ニヤッと笑うピノさんをつくづく眺めてしまう。


「ほら、私の方はルーンというプログラムに、魔力を流して部品を動作させてるし。サクヤさんの方は、宝石というユニットに魔力を流して動作させてる。……水晶に電圧かけて、発生する振動で動作させるクォーツ時計みたいなものじゃない」

「なるほどぉ……各宝石の固有の振動が、発現する魔法になる……のかな?」

「それ、面白い考えだね?」

「じゃあ、魔剣はどうなる?」


 ケインさんが口を挟む。

 意外におっさんっぽい。これは私が答えよう。


「金属も鉱物だよ。多分……固有の振動が有るはず。振動を操る……それ、ルーンで出来る?」

「たぶん出来る。でもそれは魔剣じゃなくて、魔動機の剣だね」

「そっか……剣に魔力を込めて振動を変える? 電池みたいに」

「魔力電池は有るよ? 錬金術工房で売ってる。前日に残り魔力を込めておくと、翌日一杯くらいは使える」

「よせやい。……電池交換する剣なんて、どこの玩具だよ?」


 魔力電池なんて存在、初めて知った。

 他業種の職人さんとも、話してみるものだ。


「その点、衣服は応用し易そうです。魔力を通す繊維は見つかっているので、ボタンを宝石か魔導機で作れば、その都度魔力を纏えそうです」


 紬さんがしっとりと、でも力強く笑みを輝かせる。

 防御値が紙な魔道士さんの為にも、早めにできると嬉しいな。


「物理防御とか、魔法防御を上げる宝石は見つかってるのか?」

「それは割と、早いレベルで知識を石板から貰ってるよ。石でボタンを作るより、金属のボタンに石をつける形の方が、流用が効くから早く作れそう」

「サクヤさん、それだと布の存在関係なく防御値が上がってしまうのでは?」

「あうっ! そうなるね……」


 一歩前進しそうな感じだったのに……。

 ピノさんの言う通りだよ。

 紬さんは、めげずに上品に微笑んだ。


「あとで、解っている石の効果を教えて下さいな。こっちでもみんなで知恵を絞ってみますから」



 その夜の定時連絡で、職人会議が実施されたことを報告した。

 ロキさんには


「まだやってなかったのかよ?」


 と、呆れられてしまった。

 苦笑しながらも、ピノさん、ケインさん、紬さんには、アクアマリンの加工が終わり次第、定時会議に参加してもらう方向で決まった。

 うん。生産側が私一人では、あまりにも心許ないからね。


 小さいけれど、大きな一歩だと思う。

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