11 オカルトじゃないですよ?

 アラゾンアプリの通知が入ったので、郵便受けを見に行こう。

 あ……木花咲耶姫有栖このはなさくやひめ ありすです。厨二ネームだけど、本名だよ?

 サクヤのキャラの中の人。引き籠もり気味の在宅JK。

 街の本屋の減少が……と叫ばれる昨今。

 それに輪をかけるように、ネット書店で買い物をしている私。

 本屋さんは好きだけど、そこに辿り着くまでの異常な東京の人の多さに耐えきれない。郵便受けまで届けてくれるアラゾンさんと、宅配便さんに最大限の敬意を!


 ユーパッケの包装を開くと、来ました。『ミジンコでも解るパワーストーン』と『パワーストーン図鑑』。

『鉱物図鑑』とか『宝石図鑑』は、前に買ってます。

 本を買う時は、親のクレジットカードを利用してますよ? 漫画とかは気が引けるけど、こういう趣味的な本だと、聞こえが良いと言うか、何も言われない。

 買い過ぎると、釘を差されちゃうけど……。それは何でも同じだね。

 ペットボトルの冷えたジャスミン茶を飲み、昼食の母作り置きのサンドウィッチを齧りながら、ページを捲る。

 ミジンコよりは賢いと思ってる私は、この本で少しお勉強をしようと思います。


 絶対に上位の石ほど、パワーストーンが元ネタになると思うんだ。

 今の悩みが、少しでも早く解決するように……。

 知識を得る時は、絶対に紙の本派の私。

 モニターに映る文字だと、どうしても目が滑って読み飛ばしちゃう。

 エンタメな読書なら良いのだけれど、勉強の時は……。

 ……なんて、通信教育の在宅JKが言っても、成績の言い訳にしかならないか。



        ☆★☆



「……本当にこれで会話ができるのかしら?」

「できますよー。聞こえてます。すあまさん」

「渡された時は驚いたけど、本当に会話できるんだな……」

「まだ全方位放送の不完全なもので、すみません」


 アクアマリン通信腕輪は、予想通りの効果を示してくれている。

 人族との前線にいる『猫飯店』のすあまさん。魔族との前線にいる『エコーズ』のラドリオさん。精霊族拠点の町を開拓中の『暴風ブラストウィンド』のロキさん。それに、精霊族スタート拠点の私。実に4か所会話が成り立っているのだから。

 金の直径3ミリの針金ブレスレットという雑な作りだけど、みんなを驚かせることに成功した。本当は、もう一つ有るのを『ブレイクライン』のリーダー、ハーディさんに渡したいのだけれど、『ブレイクライン』は独自判断で動いてるらしい。


「電話みたいに受話器はいらないんだ?」

「頭に直接聞こえるのは、テレパシーみたいで楽しいわ」

「呼び出しが出来ないのと、常に魔力を流してなきゃいけない事。それと通話がみんなに丸聞こえなのは、その内なんとか対処します……」

「それは頼みたいけど、これで連絡が取り合えるだけで大違いだ。良くやった、サクヤ」


 ついでに各前線から、緑翡翠のアクセを各10個の依頼を貰った。

 ウチの修行中グループに頑張って作ってもらおう。

 緑翡翠は、壊すと大きさに合わせたMPを回復してくれるので、奥の手に便利。『身代わり地蔵』こと、オレンジ翡翠はなかなか出ないので、採掘待ちです。紫翡翠はHP回復だけど、対作業効率が悪いので加工してません。

 ちなみに黒翡翠は、一時的に素早さを上げる通称『加速装置』で、赤翡翠は一時的な攻撃力アップ。黄色翡翠は一時的防御力アップの、色無し翡翠は大きさで時間制限の魔法無効となっております。

 もちろん色なし翡翠は、オレンジ翡翠より貴重。まず、見つからない。

 緑翡翠のアクセは、惜しまずに使って窮地を切り抜けて欲しい。

 レベル1の新人ジュエラー9人も加わって、サクヤ工房も賑やかになってきました。


 今後は定時会議を決めて、魔力を切った。


 アクアマリン腕輪の増産と、改良の検討のどちらを急ごうかねえ……ちょっと悩む。

 ミジンコより賢い私は、パワーストーンでは水晶が大きな位置を占めることを勉強した。

 両立できた方が賢いよね?

 クルッと椅子を回して、工房の方に声を掛ける。


「ねえ、チュウミンさんは次のレベルまで、どれくらい?」

「あと、ラウンドと、ハートシェイプの2種類! もう一息です」

「じゃあ今回の翡翠は他の二人に任せて、暫しレベル上げに専念して。アクアマリン加工ができる人が欲しいから」

「はい、望むところですけど……」


 気遣いの人であるチュウミンさんは、ベルとレントさんを気にする。

 でも、こればかりは仕方がない。

 早く新人さんを育てて、せめて翡翠の加工を任せられるようになったら、順次レベルを上げていこう。状況的に、納得してくれた。

 私もレベル6への道を探さないといけない。

 そもそも私はギルドの人じゃないから、依頼に応えて作る必要はないと思う。

 勝手気ままに、やりたいことを試していかないと息が詰まっちゃう。

 申し訳ないけど、私は狭い所は好きでも、窮屈な立場は嫌い。この工房が工場化してきたら、どこかに研究室的な自分の工房を作って、独立しちゃうつもりだし。

 今度は引き籠もっても、通信できる手段も作ったから、問題ない!

 人事とか、組織とか、面倒なことは嫌いだもん。

 それが出来るなら、私は別の人生を歩んでいるよ……。


 そんな先の話より、水晶だ。


 オーケストラで言うなら、水晶は指揮者で、他の鉱物は演奏者なんだって。

 パワーストーンの原理は、鉱物個有の振動波で心と体を整えるの。

 あ……オカルトっぽいと思ったでしょ?

 けっこう科学的だなと思う根拠も、この水晶。

 水晶というから眉唾っぽくなるけど、英語読みでクォーツと言っちゃうとどうよ?

 そうだよ、クォーツ式腕時計のクォーツ。

 アレの原理は、水晶……クォーツに電圧を加えるとするの。その振動を電気信号に変えて動いてるんだよ!

 ほらほら、一気に科学的になってきたでしょ? ……本の受け売りだけど。

 自然にも月の満ち欠けのリズムが有って、人間にもバイオリズムが有る。

 すべてがリズムで動いているんだもん。それを振動と言い換えれば、オカルトなんて言えなくなってくる。

 現実世界では、信じるも八卦信じないも八卦なんだけど、このゲーム世界では本当に意味が有りそうなんだ。

 だから、ミジンコでも分かる範囲で頑張る!


 この間採掘してきた、透明な水晶の結晶を眺める。

 透明度や硬さじゃダイヤモンドに負けるけど、ダイヤモンドは昔から王の石。でも水晶は世界中で、精霊や神様の宿る神秘的な石って言われてきた。

 今まで採掘できなかっただけあって、その詳細を記した石板はまだ読めていないんだ。

 レベル5までの、マジックアイテムとしての鉱石のキーが翡翠だったように、この先しばらくは、この水晶がキーになると思う。


「君は、どう使ったら良いんだろうね?」


 呟いてみるけど、答えてくれるはずもない。

 まだ勉強が足りないのかなぁ?

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