10 ここが三角島なの?

「暑いっ……運営め、これは想定外だ……」


 火の精霊のはずの、サラマンダーのロキさんが愚痴ってる。

 メンテが明けて、プレイヤー全員が放り込まれた三角島は、真夏の島でした!

 リアルでは、そろそろ関東地方も梅雨明けとなる時期。

 ついに私が初期ワンピから、ハーフパンツと七分袖チュニックに着替えてしまうくらいに暑い。みんなに驚かれたけど、本当に暑いんだよ。

 精霊族の本拠地となる出島は、全く精霊の里そのまま。

 生産専念の私としては、あまり実感が沸かないのだけど……。この暑さと、周りの植物の植生の違いが、ここが三角島だと主張してくる。

 椰子とかシュロとか、凄く南国。

 誰が付けたのか、いつの間にか工房の天井に、プロペラみたいなシーリングファンが回っていた。……ここも南国ムード?


 まだ牽制状態とはいえ、占領戦が始まっているのにロキさん、サーヤ、ダリさんのトリオが揃っているのは、私の我が儘に拠るものです。

 念の為、この地での鉱山を見ておきたいんだよ。

 精霊の里と同じなら、前進基地となる街の占領を待つし、別のものが採れるなら早めに手に入れておきたいじゃない。

 その確認だけ、こちらに来てすぐに済ませておきたかった。

 レベル3への課題で、翡翠磨きに音を上げたみんなも付いて来るって。

 本当に外出には、信頼の欠片も無い私……。さすがにこっちに来てまで、PKは無いと思うんだけどなぁ。仲間を狩るより、敵を狩って欲しいぞ?


 今までの草原は、こっちではジャングル。

 いかにも熱帯雨林という感じで、蒸し暑いの。シャレじゃないけど、虫がいないのは良いこと。

 出るとしたら、敵モンスターです。


「それを、サクヤが倒せそうな気がしないから、心配なんだよ?」


 あはは……2度目の鉱山行き以来、戦闘レベルは上がっていないぞ?

 ベルとかは、けっこう戦えるのが不思議。出てきた飛びトカゲをペシッと倒す。

 道もそれなりに踏み固められているし、すぐに山道に入って坑道に到着した。精霊の里の坑道よりも近い気がする。


「大差ないよ? 最初の時は遠く感じるし、二度目は『ブレイクライン』との戦闘だったからよけいに遠く感じてるんだよ」


 サーヤに笑われたけど、反論できない。

 今日は珍しく、何もなく坑道に着いたんだよ。

 まずは金属の坑道。コツンとやったら金が出た。銀も出るけど、金も出る。プラチナは出そうにない。


「レベルか? やっぱりジュエラーを上げなきゃダメなのか……?」

「レベル4への必須は何だっけ?」

「サクヤさん曰く、全12種のジュエリーカットを試作みたい……」


 ベル、レントさん、チュウミンさんの修行中トリオが、銀しか出ずに頭を抱える。

 征服戦用のジュエリー作りの合間にやるから、プライベートのレベル上げはなかなか時間が取れないかも。私が楽する為にも頑張って欲しい。

 ついでに、レベル3で見つかる宝石全部磨いて、ムーンストーンも磨くと、すぐにレベル5にもなれちゃうぞ。

 宝石坑道に行ってみたら、私だけ水晶の類がずらずらと掘り出せた。紫水晶アメジストは既に出ていたけど、ローズクォーツやら、黄水晶シトリンやら、あ……クォーツキャッツアイ! すあまさんに似合いそう。あ、水晶じゃないけどアクアマリンみっけ。


「いきなり種類が増えたね……」

「水晶ばかりあっても困らない?」


 持ちきれない分を、ダリさんやサーヤにも持ってもらっちゃう。

 この水晶だらけが、レベル6への鍵なのかな?

 オレンジ翡翠を磨き終えたら、試してみよう。いや……順番を入れ替えた方が良いかな?


「ねえ、ロキさん。通信機って必要?」

「当たり前だろう? 情報の速さが勝敗を分けることも……って、作れるのか?」

「たぶん……みんなにはまた、金属磨き地獄が待ってるけど」


 ゲンナリするみんなを伴って、工房に戻った。

 思いついたことは試してみよう。

 アクアマリンの鉱石から結晶を取り出す。


「アクアマリンが通信機になるの?」

「たぶん……アクアマリンはコミニュケーションの石だもん」

「お……パワーストーンの話だね?」


 私とサーヤの会話に、ダリさんも加わる。

 こんなに宝石が有るなら、能力付けに何か法則があると思うんだ。

 パッと思いつくのって、やっぱりパワーストーンだよね。

 さっき大量に水晶の種類を見つけて、確信しちゃった。宝石としては、そんな沢山の種類の水晶はいらないはずだから。


 ……でも、皆さん? 興味津々に覗き込んでいらっしゃいますけど。


「これから石を磨くから……出来上がりまで一週間くらいかかるよ?」


 ああっ……と、みんな座り込んでしまった。

 ごめん、ジュエラーそういう世界なんだよ。



       ☆★☆



 仕方がないと前線に戻る三人に、「出来たらメッセージ入れるね」と約束して送り出した。

 うん……ひとりって落ち着く。

 四角いクッションカット向きの原石を探して、ゴリゴリ荒削り。

 使い方からして、腕輪が良いよね?

 たぶん通話はできそうな気がするんだけど、問題はまだ残ってるんだ……実は。

 アクアマリンを持ってる人全員が会話できちゃったら、困るじゃない。

 宝石番号を入力して……なんて出来ればいいけど、そんなのはきっと無理。

 対になる石とか? 通話範囲を決める方法を探さなくちゃ。

 一応、一対だけ同じ結晶から取り分けた石も磨いているけど……うーむ。

 削りながら、ぽやんと考える。

 通話対象を限定する方法って、何かあるかな?

 カットを変える? 指輪とかペンダントとか種類を分ける? 金属部分の材質?

 どれも、これだ! って感じがしない。


「えっ! どこかお出かけですか?」


 そんなに驚かなくてもいいじゃない。

 大丈夫、里の中だから。


「ちょっと、カー君とお喋りしてくるね」

「カー君? ? ?」

「カーバンクルのカー君」


 なんか生暖かい顔で見られた。

 常識だよ?

 みんなもっとパズルゲームしようよ。カーバンクルといえばカー君。

 こっちに来ても宝石工房は有る。あ、カー君もちゃんといる。


「久しぶりだね、サクヤ」

「カー君も元気?」

「毛皮の種族としては、この暑さにはちょっと困っている」

「サマーカットする?」

「いや……君に任せると威厳が無くなりそうな気がするから、止めておく」


 ちぇっ……ポンデライオン風にしようと思ったのに。


「わざわざ出歩いてるなんて、珍しいじゃないか」

「うん……悩んでる。石の力って、方向性というか……グループ分けする方法みたいのがないものかな?」

「僕は答えられないよ……」

「有るのか無いのかくらいは教えてよぉ、ケチ」

「立場上、答えられないことも有るんだ。……でも、そんな事ができたらレベル5じゃ収まらないだろうね」


 ウインクしながら、カー君。

 ありがとう! 本当に大好きだよ。


 方法は有るんだ。そして、それが出来がたらきっとレベル6になれる。

 それだけ教えてくれたら、あとは自分で考える。

 きっと、これまで通りではない方法なのだろう。


 気合を入れて考えよう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る