12 戦況はどうですか?

 きっとまた、変な人だと思われてる。

 桶に張った水に水晶の結晶を浸けている私……。


 ……遊んでるんじゃないですよ?

 魔力を流して、振動が見られるかどうか試してるの。

 見えないねぇ……。どうやったら見られるんだろう?

 肉眼で見られるようなものじゃないのかなぁ。

 四角いスクエアカットの機能に、『魔法の方向性』と書いてあったから、ちょっと見てみたいと思ったんだよ。

 パワーストーン的に、水晶の方がはっきり見えるかと思ったんだけど……。

 うーむ。振動じゃないのかな?

 魔力って何だろう?

 テレビのリモコンみたいに、そっちに向けて魔力を流したら、パッと発動するみたいのだったら解りやすいのに。

 VRだから、リアルに見えてプログラムだもんね。

 その辺りは入力からのルーチン起動で、内部処理なのかも知れない。


 んんぅ……と背筋を伸ばす。

 手強いなぁ。一体何をさせたいんだろうね。

 やめやめ!

 作りかけのまま置いてある、オレンジ翡翠のブローチを作っちゃおう。

 ロキさんも、ダリさんも、サーヤも『暴風ブラストウィンド』っていうギルドに居るみたいだから、風モチーフが良いかな?

 石がオレンジ色だから、銀ベースに金を加えた凝ったデザインにしよう。

 銀板、金板を糸ノコで切り出して、ヤスリで形を仕上げていくの。面倒くさい水晶のことも頭の隅に追いやって、集中……。



       ☆★☆



「『身代わり地蔵』が出来たから、配りに行こうか?」


 定時連絡の時に言ったら、「動くなーっ!」と言われ、大慌てのサーヤが飛んできた。

 物を見せたら、ニッコリと微笑んでくれたので一安心。

 気に入ってもらえたなら、嬉しいよ。


「ずいぶんと凝ったデザインだね。……何かに行き詰まってない?」


 と、しっかり見抜かれた。

 もちろん、笑って誤魔化す!

 サーヤは左肩の所で、マント固定のアクセとして付けてくれた。

 対人戦って、どんな感じなんだろう?


「けっこう楽しいよ?」

「でも、他のプレイヤーを……殺しちゃうんだよね?」

「サクヤらしいけど……ゲームだからね。普段はAIが操作するモンスターを倒しているけど、相手がプレイヤーの操作するキャラクターになっただけだよ。人族相手は、ちょっと気が引けるところはあるけど」

「気が引ける部分もあるんだ……」

「うん。相手も猫好きプレイヤーが『猫飯店』さんのメンバーを相手にするのに、躊躇するみたいだし。そういう意味では、魔族プレイヤーが一番可哀想かも」

「ああ……それは私も、あまり抵抗なさそう」

「でしょう?」


 サーヤは彼女らしく、あっけらかんと笑う。


「将棋みたいなもの……と考えると楽だよ。相手は絶対に負けたくないと工夫を凝らしてくるけど、それを負かすのが快感なんだ。作戦や、戦い方の読み合いだったり、レベルの差があったり。負ければ悔しいけど、その分、勝つのが嬉しいんだ」


 それなら、ちょっと解るかな。

 パズルゲームが好きだけど、オンライン対戦で見ず知らずの人と戦うのは、なかなか燃えるから。


「そういう意味では、サクヤの作ってくれるジュエリーって、ちょっとチートっぽいくらいに戦況を変えてくれるから、重宝してるんだよ?」

「でも、そういうのって実力で勝利した方が楽しくない?」

「やだーっ! 多少のチートっぽさより、勝ってこそじゃない。お金も減るし、経験値も減るもん」


 あはは。その勝利の鍵になると良いな。

 手持ちのトルコ石ターコイズの付いたネックレスをあげる。これ、ー1の魔法的な能力値減少デバフを無効にするんだって。

 前線から遠く離れた本拠地にいるから疎いけど、今は前進基地的な各勢力の町間の小さな集落の争奪戦中らしい。

 斥候が早めに接触して、相手の足を止めた魔族の町との間の集落は、先手必勝で精霊族が完全キープ。人族の町との間の集落にも、現状は精霊族が入っているものの、こっちはまだ予断を許さないとか。

 魔族の町との間の集落には、ギルド『エコーズ』を中心に駐屯して開拓中。

 人族との間の集落は、『猫飯店』と『暴風ブラストウィンド』が連携しながら、人族を撃退中とか。


「速攻が出来たのは、ムーンストーンのワープ指輪で斥候を単独先行させて足止めできたからだし、連携の鍵はアクアマリン通信だもん。今の優勢はサクヤ様々だよ?」

「そんな事はないよ。私は安全な所で好き勝手してるだけだもん。頑張っているのは、前線で戦ってる人たちだよ?」

「前線なんて、補給があってこそだから。他所にない武器は、ウチの大きなアドバンテージだよ。人数じゃ、人族に差をつけられて2番目なんだもん」


 やっぱり、人族は人気。

 精霊族は、ケットシーがあるから何とかなってるようなものです。

 サーヤと同じシルフは、女子限定だもんね。

 魔族にコボルトがいたら、壮絶な犬猫戦争になったに違いない。

 小物感が有りすぎる為か、魔族にコボルトはラインナップされてないんだ。


 ちなみに他所のジュエラーさんは、まだ翡翠の初期レベル……レベル3止まりだとか。

 アドバンテージをキープする為にも、私の早期レベルアップが望まれているらしい。

 ……そう上手くは、いかないんだよ。


「後々の為にも、水晶を詳しく知っておきたいから、ちょっと時間を下さいって伝えてくれると助かる」

「りょーかい。レベルが上ってくると、一足飛びにはいかないからね。……でも、水晶って難しい石なの?」

「うん……どうも、単独でどうこうする石じゃなさそう。それにしては種類が多すぎるし、うーん……って悩んでる」

「それは大変そうだねぇ……でも悩んでるよりは、遊びながら試して、『ダメだこれ』って笑ってる方がサクヤらしいと思うけどね」


 悪戯っぽい笑顔に、きょとんとしてしまう。

 ……だよね。私って、理論派のわけないじゃん。頭、悪いもん。


「ありがと、サーヤ。なんとなく開き直れた気がする」

「それは何より。じゃあ、頑張ってね」

「サーヤも勝ちまくってね」

「任せなさいっ」


 ウインク一つ投げて、キラキラ妖精羽根の羽ばたきと共に、サーヤが前線に戻っていく。

 そちらこそがPvP型VRMMORPG『ラ・コンキエスタドール VR』の本来の遊び方だとは思うんだけど、何となく複雑です。

 でも、心配しているよりは、少しでも戦いが楽になるような援護こそ、私がすべき事でしょう。

 工房に戻って、先日採って来た全ての水晶を目の前に並べる。

 まだ磨かれず、白いヴェールに輝きを隠された結晶たち。


「じゃあ、とことん……君たちと遊んでみようかな?」


 この際、カットなんてしなくていいや。

 白っぽく煙る原石たちを、結晶の姿のまま研磨し始める。

 にらめっこするより、玩具にして試しましょう。

 その方が、ずっと仲良くなれる気がする。


 でも、水晶の数……多過ぎない?

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