08 駆け出し宝飾鑑定士ですよ?
お話は纏まったんだけど……せっかくここまで来たのだから、里に戻らずに坑道に行っておかないと!
予定通りのダリさん、ベルさんに加えてサーヤさんも
「危なっかしいから、絶対目を離さない!」
って、付いて着てくれてる。……ありがと。
ダリさんには「ついでに少し鍛えようか?」と言われて、死にかけた手前、断ることも出来ず……回り道して戦闘レベル上げをしています。
レベル10で、全体回復魔法のヒールレインを覚えた所で勘弁してもらう。
一気に倍のレベルだ。この勢いでジュエラーの職能レベルも上がらぬものか……。
ようやく坑道に連れて来てもらえた。
「ベルが銀が欲しい理由ってやっぱり……?」
「そう、サクヤの宝石をジュエリーにするためさ」
サムアップならぬ、肉球アップでウインク。
くっそぉ……応えたいのに、私の指には肉球が無い……。
ベルは銀坑道に、私は宝石坑道に入る。
最初の?マークを叩いたら、あっさりムーンストーンが出た。やっぱり、レベル4にならないと採れない石だったのかな? これを仕上げればレベルアップできる希望に、控えめなサイズの胸が膨らむ。
できるだけ拾って行くつもりだけど、効果が解っただけにオレンジ翡翠が欲しい。
サーヤ(ベルを名前呼びなのに気づいて拗ねた)やダリさん、ロキさんたちにも持っていて欲しいもん。サクヤ特製、身代わり地蔵ならぬ身代わり宝石。
4つ拾えたので、もう一つを誰にあげようかと考えていたら
「自分で持ってなさい、死にかけウンディーネさん」
とダリさんに笑われた。
確かに。誰より必要なのは、私だ……。
里に帰ったけど、工房云々は少し待ってもらって、宝石工房の作業場に帰る。
何だか、ホッとするのは気のせい?
「お帰り、サクヤ……楽しそうだね」
「うん。ムーンストーンも採って来たし、オレンジ翡翠の効果も解ったよ」
「あまり実地で知って欲しくはないけど……」
「心配してくれて、ありがとう。カー君」
今日は人生で、一番「ありがとう」を言った日かも知れない。
両親にも、リアルでもっと言ってあげた方が良いかも。
ムーンストーン……月長石の特殊効果は解ってる。
石を壊すことで、一つ前のセーブポイントに戻れるワープ石だ。使い方からして、ペンダントに仕上げたい。本来は長石グループは宝石の中でも良く産出される石だって、ネットで調べたら書いてあった。
翡翠よりも柔らかいし、加工も難しくないはず。
ハッカ飴みたいな、半白濁した原石を光にかざす。
うん……オーバルに磨けば良いね。
ちょっと傷の有る方をテーブル面に選んで、ガシガシと平らに削る。親指くらいの大きな石になりそうだね。表面を綺麗な楕円球になるように、まず多角形に、それから角を落としていく。
ムーンストーン独特の、シーンって言われる光の帯が石の中に見えてくると、頬が緩んじゃう。この石は白いから、ちょっと雰囲気が出ないんだけど……。夜空色の石だと、綺麗に光の帯が映えるんだよ。
もふもふのグラインダーに砥の粉を付けて磨きます。……明日、ね。
いくら何でも、坑道から戻った日には終わらない。
ちなみに、次の日にも終わらなかった。
三日目のスタート直後に、やっと終わった。同時にレベルアップのファンファーレ。
あんな次回予告付きの石板だったから、割と近いと思ったんだ。
カー君に手を振りながら、2階への階段を上がる。
ああっ! 肉球アップ……ずるいよ、カー君もできるんだ?
なぜ、ウンディーネには肉球が無いの……?
ちょっとがっかりしながら、2階で石板を読んでいく。……私の手の中にある宝石の効果、全部解った。そして【駆け出し宝飾鑑定士】のスキルが付いた。
トタトタと作業場に駆け下りていって、手持ちの磨き終えた宝石を光に照らして、拡大鏡で覗き込む。
「この翡翠……魔法効果+2だ……やっぱり凄い石だった!」
前に玉石の状態で拾って、かなり良さげなので後回しにしたやつ。指輪に加工してあるから、これはダリ姐さんにあげよう!
攻撃力+1のガーネットの指輪はサーヤに。幻惑効果が有るから、きっと太刀筋が読まれない。赤いカーネリアンのブローチは、何と体力自動回復の効果のあるスグレモノみたい。お礼を込めてロキさんにあげよう。
「何を宝石を見てニヤニヤしてるのかなぁ?」
わぁっ! びっくりした。
いつの間にか、サーヤが後ろで笑ってた。ちょうどいいや。
「サーヤ、右手にこの指輪をはめてみて」
「ん……いいけど、どの指に?」
「どこでも良いと思うけど、薬指かな。石の力を自分のものにしやすいから」
「おっけ! で、どんな効果が有るんだろう?」
「攻撃力が+1だよ。それと幻惑の特殊効果持ちの石だから、太刀筋が読まれにくくなるかも」
「それが解るってことは……?」
「うん、レベル5になった。【駆け出し宝飾鑑定士】のスキルが付いたんだ」
「おめでとう! ……ところでさ、サクヤ」
「ん? なに?」
「この間、すあまさんの言ってた工房の件とか、宝石販売の件とか、頭に残ってる?」
「……今、湧いてきた」
「もう! 出ておいで。引き籠もったきりだから、みんな心配してるんだよ?」
「それ、デフォルトなのに……」
「知ってるけどさ」
ぎゅっと強引に手を引いて、引っ張り出される。
……多分、私の人生で初めての経験だ。
「引っ張り出してきたよ! レベル5になったんだって」
大通りの奥、木々に囲まえれたウッドデッキのような場所。
そこに3つのギルドのメンバーが集まっていた。3分の1は猫集会……和む。
おぉ……とざわめきで、私のレベルアップは拍手で迎えられた。
「【駆け出し宝飾鑑定士】のスキルが付いたって!」
「駆け出しっていう所が、微妙?」
「仕方ないじゃん。まだダイヤどころか、ルビー、サファイア、エメラルドっていう有名どころを扱ってないんだもん」
「そのへんは、占領戦が始まってからだろうな」
「私もそう思う」
きっと奪い合う領地の中に、その辺りが採れる鉱山も存在するんだろうな。
申し訳ないけど、みんなには頑張って占領して欲しい。
「それでは、サクヤさんも揃ったところで……」
しゃなりと、すあまさんが立ち上がる。美猫だなぁ。
そして私に、
あれ? これって……。
「……魔力が感じられない」
「サクヤさんも感じられないんだ。……結果的に、ジュエラー技能がない人が金属加工しても駄目みたい。レベル1でもあれば、この通り」
「あ……こっちは少し感じるかな?」
ただ、弱いね。加工者と石のレベル差かな?
一番最初のラピスラズリでこれだと、高レベルの石はレベル差で、かなりスポイルされちゃうかも……。
「ジュエリー量産化計画は、暗礁に乗り上げたか……」
「そんなに悲観しなくてもいいんじゃないかな?」
「何で? サクヤには良い方法が浮かんでいるのか?」
「うん……パラメーター系は弱体化するけど、その石自体が能力を持っているものは、発動するんじゃないかと思ってる」
「具体的に、教えてもらえると助かります」
「例えば……ムーンストーンは、直前のセーブポイントまでワープして戻れる……けど、一度で壊れちゃう石。発動さえすれば使えるんじゃないかと……」
「本当に? そんな魔法、誰も覚えていないぜ?」
「試してみます? レベル上げに磨いた、飾り無しの石が一つありますけど……」
急遽、似たサイズのペンダントから瑠璃を外して、ムーンストーンを取り付ける。
実験もあって、私は見てるだけ。うん……魔力は感じる。
試しにと、この場でセーブして外に走った黒猫さんが、しばらくして不意に現れた。
真っ黒な石の嵌まった、ペンダントを見て唖然としている。
「できてもうた……」
関西系黒猫さんの呟きに、驚愕の輪が広がった。
私は力説してしまう。
「だからぁ……挫折しちゃった人を中心に、ジュエラーレベルを上げましょうよ。レベル3まで上げると、多分能力系の石でも活かせるようになる。宝石を磨く人と、金属で飾りをつくる人で分業するのは良いと思うんですけど、やっぱり職能レベルは無視できないです」
「確かに……上げる価値はあるぞ、こいつは」
使い捨てのスクロールみたいなものだからね。
ましてや、他の魔法とあまり被ったものがないみたい。……宝石凄い!
驚愕のざわめきを掬い取るように、すあまさんが話をまとめた。
「ギルド単位でなく、精霊軍の共有戦力の育成場として、サクヤさんの工房設立を合同で行うことに賛成の方は挙手を願います」
え……みんなでお金出してくれて、私の工房を造ってくれるの?
嬉しすぎるんだけど、美味しい話って大概、裏が有るよね?
ロキさんが満面の笑みを浮かべて、私の背を叩いた。
「いろいろ癖のある職種みたいだから、苦手なのは解るけど、みんなにアドバイスをしてやってくれ」
「本当に、それだけ?」
「本当だって。あとは、引き籠もり対策を施しておくだけだから」
ロキさんがいい笑顔過ぎて、いまいち全幅の信頼を置けないんですけど……。
サーヤとダリさんも喜んでくれているから、反対はしないけど、さ。
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