06 JKをPKするのですか?
ドキドキしながら、2階へと階段を上がってゆく。
何とか間に合ったのだけど、どこまで明かしてもらえるのだろう?
2階の知識の間に浮かぶ石板を見て、深呼吸する。
よし! 読もう……。
ふむ……ジュエリーは種類じゃなくて、身に付ける場所で効果が変わってくるの?
魔法属性のものなら、右手は魔法攻撃力。左手は魔法防御力。治癒属性のものなら、喉元は相手を治癒する時に効果があって、胸元は自己回復の時に効果が有る。
額のサークレットとか、脚のアンクレットには触れてない。
説明されてる石も翡翠にガーネット、アメシスト、オパール、ムーンストーンのみ。
……情報が中途半端だよね。
あ……私、まだムーンストーンを持ってないや。鉱山で採れるのかな?
カットについては、ステップカットの4つにしか触れていない。磨いただけのオーバルとかは、そのままの性能らしい。
石の品質については、レベル5での【初期鑑定】のスキルで、この辺りの石は見られるらしいって……何よ、その次回予告!
むぅ……とにかく四角形のステップカットは、石の力の方向性に関係するのか。
翡翠は色によって追加効果が有るらしいんだけど、詳しくは書いてない。中途半端すぎるよ、この歯抜けの知識は!
レベル4で中途半端だから?
もう一つ上げるには、どうしたら良いんだろうね?
唯一持っていない、ムーンストーンも加工しなきゃ駄目?
やれることは全て、やっていくしかないか……。
知らん顔のフリをするカー君を睨みながら、トボトボと工房を出る。
ロキさんが屋台を出していてくれればいいけど……。あれだけみんなに、「一人で鉱山にいこうとするな!」と言われたら、一人じゃ動けないよ。
あ……今日は屋台が出てないよ。
どうしよう? ひとりで行っちゃう?
「おや? どこかに連れて行って欲しいのかな?」
あ、ダリさんだ。
ちょうど良かった……。まだ、人にメッセージ飛ばすのって、勇気がいるから。
相変わらず、お色気過多。
「ジュエラーのレベル4になったんだけど、知識が半端なので、鉱山行って知らない石を集めたいです」
「ちょうど良いね。……行こうか?」
「二人で、行くの?」
「もう一人、行きたい娘がいるから。……それに、ちょっとサクヤにも協力してもらおうかと」
「……何?」
「始まったら教えてあげるわ。……ちょっと待って。連絡を取るから」
ダリさんは、メッセージを飛ばしまくっている様子。
串焼きが無いと、ちょっと手持ち無沙汰だ。お腹も空くし。
少し待って、やって来たのはニャンコ! 猫型妖精のケットシーだ。
「ダリ
「ふふっ……そうかも。ベル、この娘が噂のジュエラーさん。サクヤだよ」
「は、初めまして……」
「そういう堅いのは無しにしよ? あたいはベル。弓手兼任の武器づくりの大雑把さに飽きた鍛冶屋」
「……サクヤです」
そうか……ケットシーという手もあった。
ニャンコの可愛さに、キャラ選択の時の安直さを後悔しちゃう。妖精の羽も可愛いけど、猫は……猫はっ!
ちなみにベルさんはハチワレ猫。とても可愛い。撫でたい。モフりたい。
プレイヤーじゃなかったら、遠慮なくモフるのに。
「じゃあ、行こうか?」
「え……3人で大丈夫なのですか?」
「んー……何とかなるんじゃない?」
何とかなるのかな?
ダリさんが大丈夫と言うなら、信じるしかない。
さっとショートパンツのライトレザーな、革の上下風鎧(?)をベルさんは纏う。私は、そのまんま。……いい加減、何か服のバリエを増やした方が良いのかな?
身体に馴染んで着心地いいから、着替える必要性を感じないけど。
その判断って、ダメな娘の考え方なのかも知れない。少しはTPOっていうヤツも考えよう。……その内に。
麗らかな良い陽射し。
この世界には梅雨とか、夏とか無いのかな? 季節イベントに困らない?
相変わらず、戦闘で騒々しい草原をのんびり歩く。
たまに出る敵も、今日はダリさんがペシッとやっつけちゃう。……本当に鞭の似合う人。褒め言葉になるのかは不明。
「ベルさんは、何を採掘に行くんですか?」
「名前は呼び捨てでいいよ。……あたいは銀を採りに」
銀の武器って、狼男でも出るのだろうか?
あまり外に出ないし、戦闘にも参加しないので良く解らない。
今度、サーヤさんに訊いてみよう。
「あら? ナンパにしては人数が多くない?」
山道に入った所で、ダリさんが立ち止まる。
ぞろぞろと、黒い服装で統一した一団が行く手を塞ぐ。後ろも塞ぐ。……囲まれたとも言う。
……サーヤさんに教えてもらった、PK集団だよね? プレイヤーを襲ってる人たち。
「さすがに、ダリ姐さんともあろう人が、自信過剰過ぎないか? その人数じゃあ、襲って下さいと言うようなもんだ」
わあ、絵に描いたような悪そうな人だ。ステレオタイプの悪役。最近、流行らない。
「ふーん。それで、『ブレイクライン』が総出で狩りに来たって言うわけ?」
「討ち漏らすのはもったいないからな。かなり良いアイテムを持っていそうだぜ」
「高評価、お礼を言わせていただくわ」
ダリさんは、怯むどころか色っぽく微笑んでる。
私は、どう逃げようかって考えてるのに。
「でも、自信過剰はそちらじゃないかしら?」
「俺達総出でも、あんたを狩れないというのかよ?」
黒い人達が殺気立つ。
ダリさん、喧嘩の煽り方が上手すぎる。
ふわっと髪を掻き上げて、妖艶なウインクを敵に投げた。
「馬鹿ね……違うわよ。あなた達の自信過剰は、常に自分が狩る側だと思っていること」
「……何だと?」
「私達は、あなた達を狩る為の囮よ? 簡単に引っかかるから、自信過剰だって言うの」
黒い人達を、更に外から囲い込むようにプレイヤーが大勢現れた。ロキさんも、サーヤさんもいる。みんな凄く強そうだ。
「『エコーズ』に『暴風』……それに『猫飯店』もかよっ!」
「いい加減、お前さんたちが迷惑になり過ぎてるからな。……プレイヤー対プレイヤーはルール内だし、このゲームのメインだから否定はしない。……だが、ある程度プレイヤー同士でルール決めしないと、生産プレイヤーが育たないんだよ」
「本格的な征服戦も始まるから、仲間内で潰し合ってる場合じゃないでしょ。こんなことは、これで最後にしたいのよ」
「大手ギルドの総意として、一度『ブレイクライン』は叩かせてもらうよ。その上で、征服戦に向けての協力体制を話し合いたい」
「何を上から目線で、勝手な事を抜かしてやがるんだ?」
その声を合図に、大規模な対人戦が始まっちゃった。
ダリさんが鞭でなく魔法を使っているから、かなりの本気。
サーヤさんも2本の短剣を両手に、攻守一体で舞う様に戦ってる。強いよ!
ロキさんは炎を纏ったまま、剛刀一閃。凄い凄い。
ベルさんも小弓を器用に操り、次々と矢を繰り出している。
圧倒的な攻撃に、黒い人達は総崩れになって、逃げ惑う。
「くそっ!」
エルさんの矢を躱した、黒いリーダーさんがナイフを投げた。
あれ? 何で真っすぐ私の方に飛んでくるの?
「サクヤ、避けて!」
完全に虚を突かれた形になって、誰もそれを撃ち落とせない。
何の心得もない私は、眼の前に飛んでくるナイフをただ呆然と眺めていた。
そして……。
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