04 気が長過ぎますか?

「ただいま、カー君!」

「おかえり、サクヤ。課題の素材は手に入ったかい?」

「バッチリ! 任せといて」


 カーバンクルの笑顔に送られて、地下の作業場に入る。

 今日は鑑定席に座って、魔法光をオンにする。

 眩しいっ。でも、この眩しさが必要。

 坑道で採掘してきた翡翠を5個並べる。1つはそのまま翡翠の結晶だけの玉石たまいしだけど、他はまだ鉱石の中に結晶が眠ってるの。

 加工するなら玉石の方が楽なんだけど……ちょっと鑑定してみる。

 光の中に石を透かして……翡翠の鑑定ポイントは、透明度と、緑色の濃さと、結晶の中にヒビとかの有無と石板に書いてあった。

 ……これ、かなり高品質の翡翠じゃない?

 結晶の中にヒビも無いし、透明度もなかなかのもの。欲を言えば、少し緑色が薄めかな?

 どちらにしても、課題で使うにはもったいない。

 もっと腕を上げてから磨くと、良い宝石になりそう。

 しばらくは、持ち物欄にキープの物件ですね。

 曹長岩アルビタイトのくっついたままの原石を並べる。……どれを使おう?

 ここは便利な魔法の世界。

 魔法の機械にセットすれば、結晶だけ取り出してくれる。

 どれも結構大きいな……あ、親指サイズの小さな結晶がある。大きいやつのプラスアルファで生成されたのかな?

 ちょうどいいや、課題ならこれで充分。色もオレンジ色の安い翡翠だもん。


「さて、これをどう加工しよう?」


 ここからが宝石職人の腕の見せ所。

 右目に拡大鏡を挟んで、翡翠の原石を光に透かす。

 オレンジ翡翠は紅茶みたいだね。

 色がくすんでいる部分や、中に小さなヒビや歪みのある部分を探す。ペンで印を付けながら、見る。なるべく大きくなるように考える。

 翡翠はオーバルカット……楕円球を半分に切った形が綺麗だし、幾何学模様の多角形を作るよりは、良さそうな。

 ……結晶の中で、斜めに寝かした形で削り出そう。

 まずはグラインダーでガシガシ荒削りして、いらない部分を削り取っちゃう。

 それから底面(テーブル面っていうんだって)を決めて作って……カクカクに楕円球っぽく平面を作って、その角を取るように削って、仕上げ研磨して……できたぁ!

 小指の先くらいのサイズになっちゃったけど、オーバル型。


「このサイズなら、指輪かな?」


 ペンダントヘッドには、ちょっと小さい気がする。

 お高い銀を使う指定があるから、今回は一点物の作り方で作ります。

 銀をインゴット延べ棒にして、それを4ミリ角の角材に加工して、サイズは指輪なら13号の指定あり。

 ローラーで圧縮して、時々熱をかけてナマして、一辺を2ミリ厚まで圧縮して長さは58.5ミリ位で鋸ギコギコ。

 サイズの丸材に合わせて、木槌で丸くして、合わせ目を綺麗に削って銀蝋ぎんろうをバーナーで溶かしてくっつけちゃう。ヤスリで合わせ目を綺麗綺麗して、歪みだけ取っておく。

 石を置く部分だけ、外側を平らに削ろう。

 別の銀板を加工して、石の台座を作る。今回は単純に石が収まる楕円の枠に、押さえる爪をつけるだけでいいや。デザインはイマイチだけど、形を作って自信と、経験値を積むことが大事だと割り切ろう!

 後はひたすら磨く! 砥の粉の目をどんどん細かくして磨く! 手が痛くなって、泣きたくなっても磨く!

 すべての面に自分の泣き顔が映るくらいになったら、出来上がりだ。石を固定しよう。

 凄く頑丈な仕上がりだけど……一応、翡翠を付けた銀のジュエリーのはず。


「カー君、出来たよ!」


 階段を駆け上がって、暇そうなカーバンクルに指輪(?)を提出する。

 ぷっと吹き出したのを見逃さないけど、一応真面目に鑑定してくれた。


「優雅さには欠けるけれど、ちゃんと翡翠の指輪の機能は満たしている。オレンジ翡翠を使うとは……まあ、解って使ったわけじゃないとはいえ、良い判断だよ。……合格だ。次に石を乗せる指輪を作る時は、もっと細くした方が優雅に見えるよ」

「やったぁ!」

「それから、提出物は、初めてのサクヤ作のジュエリーだ。記念として返すよ」

「え……っ。それならもっと、良い石を使って作るんだった……」

「こらこらっ」


 おぉ……ジュエラー3レベルになった。

 次の課題は何だろう?


「いろいろなジュエリーを自由に作って良い。この先は、そこの掲示板に高額買取の『依頼』は出されるけど、『課題』はもう無い。駆け出しの宝飾工として、経験を積むにつれてレベルが上っていくよ」

「ありがとう、カー君。もう免許皆伝?」

「いや、職工としての許しを得たばかりじゃないかな?」

「そっか……道は遠いんだね」

「近すぎても、つまらないだろう?」

「作ったものって、どこで売れば良いのかなぁ?」

「ここでも買い取るけど、中央広場に露店を出して売る方が高く売れるかな。いずれ、お金が貯まったなら、自分のお店を出せば良い」

「潰れちゃったら、悲しいね……」

「そうならないように、腕を磨こう」

「解った。頑張るよ、カー君」


 とりあえずレベルが上ったので、2階の石板を読みに行く。

 また、新しい鉱石の知識を得た。

 ダイヤモンドとか、ルビーとか、どこで採れるんだろう? ダイヤモンドは硬すぎて、同じダイヤモンドでしか研磨できないらしい。ルビーもルビー自身か、ダイヤモンドで研磨する必要があるとか。

 そんな硬い石、研磨するのに何日かかるんだろう? ……気が遠くなるよ。

 それから、瑠璃……ラピスラズリのペンダントやブローチには、魔法防御プラスの効果が有るとだけ、意味有りげに書いてある。

 これ、絶対他の石にも、それぞれ何らかの効果が有るって事じゃん!

 次のレベルにならないと、今手元に有る石の効果が解らないって事じゃん!

 ズルイよぉ……レベル上げないわけにいかないじゃん。


 階段を降りて、カー君を睨んでやる。

 わざとらしく知らん顔してるし……芝居が下手ね。

 いいや。気長にやろう。


 お腹が空いたから、ロキさんの串焼きを食べに行こう。

 今は5本買っても、余裕のある私。文無しウンディーネは卒業してます。

 るんたるんたとスキップしながら、中央広場に遊びに行く。

 屋台が出てたよ。串焼き……とりあえず3本下さいな。


「お? サクヤか……ずいぶんと久しぶりじゃないか。ドロップ・アウトしたかと思った」

「工房に籠もってただけだよ。……ジュエラー3レベルになったよ!」

「ホイ、お待ち。……そりゃ凄い。どれくらい作ったら3レベルになるんだ?」

「ん? これ1個……」


 串焼きを齧りながら、得意になって指輪を見せる。

 ロキさんは面食らった顔で指輪を眺めた。


「ずいぶん物理攻撃力の高そうな指輪だけど……まさか、これ1個作るのに10日かかったのかい?」

「うん、頑張った!」

「本当に、ジュエラーって……気が長くないとやれんなぁ……」


 何だか、しみじみと溜息混じりに言われた。

 久しぶりに私がいると聞いて、サーヤさんとダリさんもお喋りに来てくれたけど、反応は二人とも同じだ。

 その指輪、そんなに物理攻撃力が高そうですか?

 それと、ジュエラーってそんなに気が長く見えますか?


 複雑な顔で、私はお祝いで奢ってもらった串焼きを齧った。

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