03 戦闘しなきゃだめですか?

「この人、シルフの剣士の『サーヤ』さん。二刀流だよ」


 キラキラ羽ばたく妖精羽根が可愛すぎる。

 でも、何で? キャラ選択画面だとあんなに目つき悪いのに……。


「アハハ。顔とかプロポーションは作り込めるじゃない。サンプルに誤魔化されずに、シルフをとって正解だった」


 羽根をキラキラさせて、得意げ。ちょっと羨ましい。

 緑色の革鎧と、両腰に下げた短剣が、ショートの髪と相まって格好良いの。

 いかにも素早そうな感じ。


「あと一人、呼んでるんだけど……」

「誰を呼んだのさ?」

「女性の方が良いかと『ダリ』さん」

「ダリねえが、時間通りに来るわけ無いじゃん……」

「たまには来るのよ?」


 いきなり声をかけられて、サーヤさんが反射的にロキさんの後ろに隠れる。

 ダリさんはセクシャルバイオレットなニンフさん。右太腿丸出しの斜めカットのドレス姿。深い紫色のロングヘアと、ボンキュッボンなプロポーションが凄い。


「この娘? 拾っちゃった腹ペコ文無しウンディーネって」


 酷い言われようだけど、まったくその通りだから言い返せない。

 かしこまって、ペコリとご挨拶。


「ウンディーネの『サクヤ』です。駆け出しジュエラーで……戦闘経験無しです」

「うんうん、いいよ。誰でも最初は初心者」

「ジュエラーは珍しいわ。みんな、気長な作業すぎてギブアップしちゃうもの」


 概ね、受け入れてもらえるようで安心した。

 ロキさんを頭にパーティーを組むことになった。


「ふふっ、これで移動はサボれるわね」

「サクヤさんはどこか、行きたい所は有る?」

「あ……できれば鉱山に行きたいです。レベル3への課題が、銀細工と翡翠ひすいのアクセなので」

「レベル2で音を上げなかった人なんだ。……本当に貴重かも」

「何、ダリさん。そんなに脱落者が多いのかい?」

「宝石磨きに一日の、鋳物の加工から磨きに一日だっけ? 他じゃ有り得ないでしょ」

「はい。でも、そのくらいかかるものでは……」


 猫を被ったままの私の答えに、ダリさんの赤い唇が弧を描いた。


「応援するから、ぜひ極めて。何か有りそうな職種なんだけど、選んだ奴がみんな脱落していくのよ、ジュエラーは」

「ダリ姐は宝石、似合いそうだもんね」

「それに、先々マジックアイテム化しそうじゃない? 作れる知り合いを探してたの」


 そう言われると、何だか嬉しい。

 求められる人間像から、程遠い私だもん。

 ロキさんは、女の子だから女性プレイヤーを呼んだ方が良いと思ったかも知れないけど、実際は女性同士の方が、合わない時の反目は激しいから心配してた。

 何とか、グループに混じって採掘できそうだ。

 嬉しい。レベル3に近づけるよ。


 精霊の里を抜けると草原に出る。

 何だかプレイヤーさんがいっぱいだ。


「この草原が、最初のレベル上げポイントになってる。ここで出る敵は、まずサクヤさんが攻撃して」

「えっ……やったこと無いけど……」

「俺達には雑魚すぎるし、少しは戦闘を覚えとけ。PvP上等のゲームだから、他のプレイヤーの餌食だぞ?」

「私、他の種族と関わる気は無いもん」

「だめだめ。精霊同士でも意地の悪いプレイヤーがいて、新人狩りとかして稼ごうとするのがいるから注意だよ」


 サーヤさんの言葉に、目を丸くする。

 そんな鬼のようなプレイヤーがいるの? 酷すぎるよ。誰も居着かないよ、そんなの。


「ああ……サクヤさんは放っておいたら、身ぐるみ剥がれて、また腹ペコ文無しウンディーネになっちゃうタイプだ。目を離せない子だなぁ」

「解るだろ、サーヤ。俺が世話焼いてるわけ」

「納得した。素直すぎるよ、この娘」

「フレンド登録しておこうね。里を出たい時は、誰かに声をかけるんだよ。絶対に一人で出ちゃ、駄目だから」


 わーい。フレンド登録が3人になった。私的には快挙。

 駄目な子扱いされてるみたいだけど、気にしないことにする。

 このゲームの社会常識的には、本当に駄目な子っぽい気がしてるから。

 あと「さん」とか「ちゃん」付けはやめてもらう。こそばゆい。


 進んでいたら、大鼠が出た。

 えい、ウォーターカッター! 当たった所にサーヤさんがとどめを刺す。

 初戦闘初勝利! 『ネズミの尻尾』と『ネズミの前歯』が手に入った。ナニコレ?


「戦利品よ、ギルドで売るとお金になるわ」


 そっか……ネズミがお金を持ち歩いていたら変だし、ネズミのお小遣いを巻き上げるみたいで、寝覚めが悪いもんね。


「納得の仕方は人それぞれだけど……納得できたなら何でも良いか」

「PvPには、とことん向かない娘ね、この娘は……」


 複雑な顔をされたけど、理解できたんだから良いと思うの。

 ツノウサギとか、突撃スズメとかもやっつける。

 サーヤさんは、ササッと切り刻むし、ロキさんは大剣でズンバラリ。ダリさんだけはまだ、手の内を見せてくれない。

 でも、みんな強いね。草原を抜けるまでに、私もレベルが上った。


「サクヤは、そこの湧き水を呑んでおきな。MPが回復するから」


 それは嬉しい、薬代を節約できる。

 今夜の宿代も、もう稼げているらしい。良かった。屋根のある部屋で眠れるよ。


「ここから坑道までの戦闘は私達に任せて、見ていなさいね。使うだけMPの無駄っていうくらい、効かないと思うわ」

「経験値や、アイテムは入るから、すぐにレベルが上がるよ?」

「今までサボってた分、頼むよ。ダリ姐」

「……おまかせ」


 ニヤッと笑ったダリさんが取り出した武器は……鞭だ。似合い過ぎてる……。

 山道からは団体戦。急に襲ってきた岩サソリ3っつを、一振りで葬り去ってしまう。似合うだけでなく、強いや。


「左の岩陰……タチの悪いのがいるから、気を付けて」


 黒い鎧の一団が、こっちを見てる。

 値踏みをしていたようで、舌打ちが聞こえた。


「『ブレイクライン』の連中か……ルール内とはいえ、あまり初心者狩りされると純粋な生産プレーヤーが育たないんだよなぁ」

「そうでなくてもPvP上等のゲームで、敬遠されてるのにね」


 ロキさんとサーヤさんが唇を噛む。

 私だって、同じプレイヤーに襲われて身ぐるみ剥がれたら、二度とこのゲームはやらないって思っちゃう。優しくしようよ……本当に。

 私はきっと、ラッキーな娘だ。

 ロキさんたちは、そんな連中を寄せ付けないくらいに強い。

 ノーダメージで坑道に到着して、私の戦闘レベルは3を超えていた。

 新魔法。単体状態回復のトリートドロップを覚えたよ。


「新人さんだから、優しくしてやってな!」


 ロキさんがひと声、坑道に声をかけてくれる。ドッグランに来たワンコのように、私は坑道に突進する。ここは銀の鉱山。鉱石4つでインゴット延べ棒1つだから、8個採れば当分は大丈夫かな?


「そこも採れるよ?」


 と教えてくれて、場所も空けてくれる。みんな優しい。

 お礼を言って、次は宝石坑道だ。

 おぅ……こっちは、他に一人ノームさんがいるだけだ。採り放題?


「あぁ……本当にジュエラーが少ないって解るわ」

「お邪魔しまーす」


 うん……いろいろ採れるね。

 トパーズにトルコ石、ガーネット……滅多に来られそうにないから、しっかり採っておこう。ちゃんと翡翠も5つ出た。他は、アメジストとか、オパールとか。瑠璃ラピスラズリの質の良さそうなのも採れた。

 でも、なんでこんなに宝石の種類が有るんだろう?

 多分意味があるのだろうけど、まだまだその域までは遠い気がする。


「ありがとうございました。これで次のレベルの課題も出来そうです!」

「お礼はまだ先。里に帰るまでが遠征だよ?」


 そんな風に、笑い合いながら帰路につく。

 魔物素材の売り方を教えてもらうと、しばらくは大丈夫な金額になった。

 もう金欠ウンディーネとは、呼ばせない。


 初めて、このゲームから微笑んでログアウトできた。

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