#8

夏生なつおくん。元気げんきがないですねえ。どこか具合ぐあいがわるいのですか。それとも昨日きのうねむれなかったとか? こまったことがあったら、エンリョせずにいってくださいね?」

 トミサワさんがいいました。

 わたしは「はあ」と、うなずきます。

 ここは町役場まちやくばにある応接室おうせつしつです。

 男子寮だんしりょうの部屋にいたら、寮母りょうぼさんがやってて「いますぐに町役場まちやくばくように」というので、ノコノコとひとりで出向でむくことになったのでした。

 だけど、龍之介りゅうのすけわかれてからなにもすることがなくて、ボーッとしてたから、びだされてぎゃくによかったのかもしれない……。

夏生なつおくん。ほんとうに、だいじょうぶですか?」

 よっぽどぼんやりした顔をしているのでしょう。

 くりかえし心配しんぱいをされてしまいました。

「……はあ。だいじょうぶです。どうもすみません」

 さえない返事へんじをします。

 わたしだって元気げんきをだしたいけど。

 頭がぐるぐる、むねがモヤモヤするのです。

「きみは子どもなんですからね。おとなにたよるのはあたりまえなんです」

 トミサワさんは「これを」といって、手帳てちょうのようなものをローテーブルのうえにきます。

「これは身分証みぶんしょう。そして、こっちが久慈町くじちょうがきみの身元引受人みもとひきうけにんになったという証明書しょうめいしょ。こっちは、配給はいきゅうチケット。……まあ、当面とうめんのおこづかいですね」

 手帳てちょうのとなりに、封筒ふうとうと、おかねのようなものがならびました。

 配給はいきゅうチケット?には、100とか500とか数字すうじいてあります。

 なんだか、おもちゃのおかねみたい?

「コレ、ものとかできるんですか? おかねとはちがうんです?」

「この世界では、いわゆるへい経済けいざいとよばれるものは、爆発四散ばくはつしさんしましたよ」

 トミサワさんはにっこりとわらって、おそろしいことをいいます。

 配給はいきゅうチケットをゆびでコツコツとたたいて、

「つかいかたはおかねとおなじです。気晴きばらしに、コマツにでもいって、ものでもしてきたらどうですか。メンタルケアは大切たいせつですよ?」

「メンタル……なんですかそれ?」

「ココロを健康けんこうたもちましょうってことです」

 わたしは今日きょう何度目なんどめかの〝ためいき〟をしました。

 ココロ、健康けんこうになりたい。

「なんだか深刻しんこくみたいですねえ。……あ、そうそう。これをわすれるところでした」

 と、トミサワさんはくろいものをローテーブルにきます。

 梶原かじわらトーカからあずかったスマートフォンでした。

充電じゅうでんしておきましたよ。とりあえず、これできみにわたすものはすべてです」

「……はあ。ありがとうございます」

 スマートフォンをにとり、しばらく見つめます。

 ふとくちからこぼれたみたいに、わたしは「トミサワさん」とびかけていました。

「……あのですねぇトミサワさん。このまえ、べつの世界からきたことはヒミツにしろって、いったじゃないですか?」

「ええ。いいましたね」

「……それ、ずっとまもらなくちゃだめですか?」

「というと?」

 トミサワさんはいいながら、メガネをなおしました。

「つまり。場合ばあいによっては、おしえちゃダメですか……? もちろんだれにでもってワケではなく、ひとをえらんで、ってことですけど」

「ふむ。……だれかにおしえたいのですか? なぜ?」

「……なぜっていうか。ウソをつくのがつらくて」

 わたしは上目うわめづかいでトミサワさんを見ます。

 そういえば、こっちの世界にきてから、わたしはウソをついてばかりでした。

 ひょんなことから男子だんしのフリをすることになったし。

 べつの世界からたことについてもそうです。

 正直しょうじきにいうと、最初さいしょはちょっとオモシロかった……なんだか自分がべつの人間にんげん変身へんしんしたみたいで。

 でも、ウソがばれないようにウソをついて、それをくりかえしていると。

 どんどん自分のことをキライになっていくのです。

 ──おれはオマエの味方みかたになりたいだけなんだ。

 そういってくれた気持きもちも、ウソでごまかして。

 なんのためにウソついているのか、わからなくなって。

龍之介りゅうのすけにだけは、ほんとうのことをいってみようか……)

 そう思ったけど、勇気ゆうきなかった。

 お母さんにひどいことをいってしまったときと同じです。

 もっと勇気ゆうきせたらよかったのに。

何回なんかい、おなじまちがいをくりかえすんだろう……)

 自分で自分が、いやになります。

夏生なつおくん」

 ばれてかおをあげると、トミサワさんはメガネをぬのでふいていました。

特定とくていのだれかにウソをつくのがイヤだ……ということでっていますか?」

特定とくていっていうか。べつにたいした相手あいてじゃないけど──」

「でも、そのひとにはウソをつきたくないってことですよね?」

「……はい。そうです……」

 わたしは、うなずきました。 

 なるほど、とトミサワさんはメガネをもどして「夏生なつおくんの判断はんだんはなしてしまってもかまいませんよ」と、いってくれました。「ただし、これだけはおぼえておいてくださいね。人間にんげんには、いいひととわるいひとの2種類しゅるいがいるわけじゃないんです。ふつうの人間にんげんが、いいことをしたり、わるいことをしたりするんです」

「は、はあ……」

「ときには、やさしさからヒドイことをする人間にんげんもいます。ただしいことをしているつもりの人間にんげんもいます。そういうパターンがいちばんおそろしい」

 うーん、むずかしい。よくわからないです。

 やさしいのにヒドイことをする。そんなことがあるのでしょうか。

「お、おぼえておきます」

 そうこたえたけど、ノドにひっかかって、みこめません。

 もしかして、まえにチラッと話題わだいにでた、迷信めいしんしんじるひとたちのことをいっているのかな。

 トミサワさんのはなしかんがえていると、だしぬけにドアがバーンとひらきました。

「ちょっとジャマするよォ」と町長ちょうちょうさんがかおをのぞかせます。

「……ボス。はいるときはノックをするようにといってるでしょう。もし、書類しょるい仕事しごとをしていたら、いまのおとでミスをしてるところですよ?」

「つまらないこというね、おまえ。そんなんじゃ毎日まいにちたのしくねえだろ?」

 お小言こごとをもらった町長ちょうちょうさんはダルそうな顔をしました。

「おっと、夏生なつお。ここにいたのか」

 と、その顔をいきなりあかるくしてこちらにけます。「いたぜ、おまえさんワンダラーズに加入かにゅうしたんだってな! 自警団じけいだん仕事しごと興味きょうみあるのか?」

「えっ。どうしてそれを?」

 わたしはおどろいて、まばたきをします。

「うわさでいたのよ。新入しんいりがはいったってな!」

「ほんとうですか夏生なつおくん?」とトミサワさんもこちらを見ました。

「はい、まあ……昨日きのう。いろいろとなりゆきで……」

「どうしてまた自警団じけいだんなんかに?」

 トミサワさんはなにかいいたそうでした。

 それとは正反対せいはんたいに、町長ちょうちょうさんはニコニコです。

「なあにおれ見直みなおしたのサ、だらだらしてねえでスパッと自分のやること見つけてくるとはたいしたモンよ」

 そういって「わはは」とわらいます。

「ワンダラーズのメンバーは、ひとりずつ専用せんようのバイクを支給しきゅうされることになっているのは知ってたか? せっかくだし、おれがとっておきをプレゼントしてやるよ。時間じかんはあるかい。今からちょっとえや」

 ことわれないフンイキで、町長ちょうちょうさんはあごをクイッとひねりました。



      ◯


「ストレンジャー?」

 部下ぶかからの報告ほうこくけたボクは、おもわずこえおおきくした。

「……ハイ。その可能性かのうせいたかいとのことで。どうしましょう?」

 と、部下ぶか不安ふあんそうな顔をした。

 ついさきほど、メッセージをけとったのだという。

 ボクらのバイクには無線機むせんきがついていて、はなれていても会話かいわができる。

「……とにかく。くわしいはなしを聞きたい。そとに出よう」

 湯呑ゆのみを縁側えんがわくと、ボクはがる。

「ばっちゃん、悪いけど、急用きゅうようはいったかもしれん。茶菓子ちゃがしはまた今度こんど

「何かあったのかい、龍之介りゅうのすけ?」

「だいじょうぶ、たいしたことじゃないよ」

 ボクは、わざとあかるいこえをだす。

 ばっちゃんたちには、よけいな心配しんぱいをかけたくなかった。

 ワンダラーズの仕事しごとで、おとしより世帯せたいまわりにているんだけど、みんなひとりらしをしていて、さみしいんだ。

 それにしても、やっかいなことになった。

 〝ストレンジャー〟というのは、自警団じけいだんだけにつうじる言葉ことばで。

 侵入者しんにゅうしゃ、という意味いみだ。

「もしもし。龍之介りゅうのすけだ。くわしいはなしを聞かせてほしい」

 民家みんか前庭まえにわ駐輪ちゅうりんしていたバイクにもどると、無線機むせんきびかける。

〈リーダー、おつかれさまです〉と通信手つうしんしゅこたえた。〈じつは、あやしいノイズをキャッチしたんです〉

「ノイズ?」

〈はい。500キロヘルツ85びょう周期しゅうきで、規則きそくただしく3かい。それが30分まえからくりかえされています。ピー・ピー・ピーってね。自然しぜんのノイズじゃありません〉

「3かい? SOSか?」

 通信つうしん世界せかいにおいては、3かいくりかえすというのは「たすけて」の合図あいずだ。

 だけど、通信手つうしんしゅは、そうかんがえていないようだった。

相手あいて人間にんげんならね。ノイズのどころは、だいたいの位置いちをつかめています。ここからおよそ15キロはなれた場所ばしょです。方角ほうがくは──2方角ほうがく

「くそ。よりによって、か」

〈ええ。まさに鬼門きもんです〉

 2方角ほうがくとは、北東ほくとう。その方角ほうがくにまっすぐいくと──風早市かぜはやしがある。

〈どうしますか。アラートしますか?〉

 アラートとは、まちのひとたちへの緊急事態きんきゅうじたいアラートのことだ。

 ボクはすこしかんがえた。「……いや。まずは確認かくにんにいこう。もしかしたら、そうなんしゃがSOSをしているのかもしれない。大至急だいしきゅうみんなをあつめてくれ」

〈わかりました。では通信つうしんおわり〉

通信つうしんおわり」

 ボクは無線むせんをきった。

 となりにひかえていた部下ぶか不安ふあんそうな顔に、うなずいてみせる。

「あいつらとまったわけじゃない。まだ、な」

「は、はい……」

心配しんぱいするな。それより、みんなをあつめるのに協力きょうりょくしてくれ。あ、それと……昨日きのう加入かにゅうした新入しんいりがいただろう。ミハラ・ナツオ」

「あっ。そういえばそうでしたね、あいつ、どうします?」

「あいつにはこえをかけなくていい。訓練くんれんすらしてないんだからな」

「わ、わかりました……! ではってきます!」

 部下ぶか気持きもちをきりかえたのか、すばやくバイクにまたがると、任務にんむたすべくエンジンをスタートさせた。

 部下ぶか見送みおくると、ボクはヘルメットを目深まぶかにかぶる。

 リーダーという立場上たちばじょう、さっきはああったけど。

 あいつらがまちにやってきたのかもしれないと、なかば覚悟かくごしていた。

 あいつら。

 ボクらのてき──そして、人類じんるいてき。その名は、ユニボーンという。


      ◯


「えぇっヤだぁああ、これ三輪車さんりんしゃじゃないですか──!!」

 バイクをくれるというので町長ちょうちょうさんについていくと、わたしをっていたのは、でっかい三輪車さんりんしゃでした。

 なにこれ? 想像そうぞうちがいすぎるっ!

 チッチッ、と町長ちょうちょうさんはゆびります。

 心外しんがいそうにまゆをひそめて、

三輪車さんりんしゃだなんてとんでもない! こいつはトライクっていうんだ! 歴史れきしのある、ゆいしょただしい車種しゃしゅなんだぞ?」

「でも……めちゃくちゃ三輪車さんりんしゃにみえますよ……!」

 まえにあるのは、タイヤが3つあるバイクもどき。

 手入ていれをかさなかったのか新品しんぴんみたいにピカピカで、きっと高価たかいんだろうなってのはわかります。

 でも。は、エンジンのついた三輪車さんりんしゃ

 10人いたら10人がおなじ感想かんそうつことでしょう。

 ずんぐりむっくりしてて、町長ちょうちょうさんにはわるいけど、カッチョわるい……。

「こいつのさがわからないとは。あまいぞ夏生なつお!」町長ちょうちょうさんは腕組うでぐみします。「タイヤが3つあるということは、安定あんていしてるんだ。初心者しょしんしゃのおまえでもすぐにれる。それだけじゃないぞ、こいつはカスタムだ。ちょうハイテクなんだぞ?」

三輪車さんりんしゃちょうハイテクって、むしろオモシロくなってません?」

「……だから。三輪車さんりんしゃなどではない!」

 わたしはためいきします。

 なんでよりによって「コレ」なの。

 ここは町長ちょうちょうさんの個人的こじんてきなガレージで、バイクはほかにもいっぱいあるんです。

 そのなかのひとつがにとまりました。

「あ。これいいなぁ。プレゼントしてくれるなら、こっちにしませんか?」

 まるっこいスクーターをゆびさします。

 ピザさんが配達はいたつってそうなやつ。カラーもずんだいろでカワイイ。

 どうせなら、ったのがほしいんですけど!

「ばか。そんなのポンコツだ」

「でも、練習れんしゅうなしですぐれそう。いいな、これがほしいなー」

 そういってスクーターにしがみつきます。

 必殺ひっさつ、だだっ作戦さくせんです。

 町長ちょうちょうさんはおおげさにかたをすくめました。「いいか夏生なつお三輪車トライクがウサギだとしたら、そのポンコツはカメだ。おそいのなんのって──ハッキリいって、ウチのトミサワがあしはしったほうがはやいくらいだ」

「うそだぁ」

「ホントだ。このまえひさしぶりにそのポンコツにったら、トミサワがわすれものですよーっていかけてきやがる。バイクのよこはしりながら、はい弁当べんとうわすれてましたよって、とどけてくれて……」

「うっそだぁ!」

「ホントだって!」

 わらわされてしまいました。くそう……。

 町長ちょうちょうさんはつづけていいます。

めるのはもちろん夏生なつおだ。……でもよくかんがえてみろ? そのださーい、どんくさーいポンコツにるのがいいか、それともちょうカッコいいハイテクマシーンにるのがいいか」

「…………」

「どうだ? どっちにする?」

「……トライクにする」

 まんまと作戦さくせんにはまってしまいました。

 町長ちょうちょうさんはニヤッとします。「ようしいいぞ、このトライクはえらばれしおとこのなかのおとこだけがれるマシーンだ! みんながおまえに注目ちゅうもくするだろうよ!」

「でしょうね、あの三輪車さんりんしゃにのってるぅ!って」

「わからんヤツだなオマエも。……まあいい。っているもの、ちょっとしてみな」

 といって、町長ちょうちょうさんは、ばします。

ってるものって? このスマートフォン?」

 どうやら、わたしがっているスマートフォンをよこせとっているみたいです。

 れいの、梶原かじわらトーカからあずかっているスマートフォンです。

「あー。ちょっとちがうんだ」町長ちょうちょうさんはびみょうな顔をしました。「夏生なつおのいた世界にも、よく機械きかいがあるらしいな。ケータイデンワっていうんだろ?」

「まあ、ふつうはスマホってんでますけど」

「オマエがっているソレは、スマホではない。ケータイAIエーアイだ」

「……えーあい?」

 わたしはくびをひねります。

 エーアイってあのエーアイ? おかきとかするやつ?

電源でんげんいれてみな、そうすりゃわかるよ」

 いわれたとおりにします。

 そういえば、こいつの電源でんげんがオンになった状態じょうたいをまだ見たことがない。

 メーカーのロゴマークがあらわれます。

 まっくらな画面がめんゆきるようなアニメーションがながれて、

〈こんにちは はじめまして あなたのなまえをおしえてください〉

 と、女性じょせい音声おんせいがしました。

「しゃ、しゃべったァアアア!」

「そりゃしゃべるよ。人工知能じんこうちのうだもの」と町長ちょうちょうさん。「どうやら、はじめて電源でんげんをいれたようだな。なまえをフルネームでおしえてやれ。そうすればオマエがご主人様しゅじんさまだ」

「……は、はい。えーと。もういいのかな? ナ、ナツオです」

〈ナツオさま どうかフルネームでおねがいします〉

「あそうか。ぼくはミハラナツオっていいます」

〈ミハラナツオさま どうぞよろしくおねがいします〉

 AIエーアイはいいました。ひえーすっごい。

 人工知能じんこうちのう。まさに人間にんげんがつくった機械きかいのうみそです。

「こ、こちらこそ、よろしく」

 わたしはこたえます。

 だれも見ていなかったら、ぺこぺことおじぎをしていたことでしょう。

登録とうろく完了かんりょうだな。どれしてみな。トライクにつけてやろう」

 町長ちょうちょうさんはスマホじゃなかった……AIエーアイけとると、三輪車さんりんしゃりつけます。カーナビみたいに専用せんよう場所ばしょがあって、そこにぴったりとおさまりました。

「こいつはよちよちあるきのあかんぼうみたいなものだ。これからトライクにるときはかならずりつけて、夏生なつおがいろんなことをおしえてやるといい」

「いろんなこと?」

「ああ、学習がくしゅうさせるんだ。たのもしい相棒あいぼうになってくれる」

「バイク以外いがいにも使つかえるんですか?」

「ああもちろん。……だが、つかうのはバイクにるときだけにしろ」

「え。どうして?」

「それが、ルールだからだ」きゅう町長ちょうちょうさんはこわい顔になります。「いいな。約束やくそくしろ。AIエーアイ人間にんげんあつかいするな、これはあくまで道具どうぐだ。人間にんげんみたいにしゃべるが、こいつはニセモノだ」

「は、はあ」

かたAIエーアイ統一とういつしろ。ぜったいに名まえをつけるな。いいな?」

 こんなにこわい顔の町長ちょうちょうさんははじめてでした。

 迫力はくりょくけるように、わたしは「は、はい」とうなずきます。

 でも、どうしてここまでAIエーアイ敵視てきしするのでしょうか?

 と、そこでふと思い出したことがありました。「……あの。町長ちょうちょうさん」

「……なんだ?」

「じつは、ここにまえに、風早市かぜはやしでヘンなものを見ちゃったんです」

 思い出しました。

 クジラのようなごえ龍之介りゅうのすけのバイクにふたりりして、りかえったときに目にした、怪物かいぶつのようなすがた。

 あれは──あれは──ロボットでした。

 人間にんげんのかたちではなく、あしが6ほんもある昆虫こんちゅうみたいなかたちでしたけど。

 AIエーアイのイメージから、あのロボットのことが連想れんそうされたのでした。

 もしかして関係かんけいがあったりするのでしょうか?

 そのことをつたえると、町長ちょうちょうさんは「そいつはユニボーンだ」といいます。

正式せいしきには、ユニバース・ボーン。だが、びにくいので、ユニボーンとみじかくしてんでいる。うんがよかったな、ユニボーンと出会であって無事ぶじだったとは。もしかしたら、ころされていたかもしれないぞ」

「こっ……? ええっ?」

龍之介りゅうのすけおくって正解せいかいだった。ギリギリセーフだった」

「あのロボットってなんなんです?」

「あれもAIエーアイだ。人間にんげん反抗的はんこうてきAIエーアイをユニボーンとぶのだと思っておけばいい。あいつらこそが、人類がほろぼされかけた原因げんいんであり、われわれの共通きょうつうてきなんだ」

 ──えぇええ……ぶっそうなはなしになってきました。

 人類じんるいがほろぼされかけた?

 ユニバーサルスタジオジャパンみたいなヤツらに?

 町長ちょうちょうさんは「ふう」と、みじかいきをはいて、表情ひょうじょうやわらかくします。

「……ちょっとおどかしすぎたか。やつらが危険きけんなのは事実じじつだが、ここにいれば安全あんぜんさ。ユニボーンは、ここからとおはなれた危険地帯きけんちたいにしかいないからな」

「ほ、ほんとうに?」 

「ああ。それに、まちはぐるりと防壁ぼうへきかこわれて、容易よういには侵入しんにゅうできない。もし、やってたとしても、いはらう方法ほうほうはある」

「でも。たしかワンダラーズの仕事しごとって……」

「そうだ。まちまも仕事しごとだ。だが、めったにユニボーンとくわしたりしないさ。ということで、さっそくこうか?」

 町長ちょうちょうさんは、ぽんぽんと三輪車さんりんしゃのシートを手でたたきます。

「どこに?」

「そりゃもちろん試運転しうんてんにだよ。そのへんをぐるっとまわってこようぜ」

 いたずらっみたいに町長ちょうちょうさんは片目かためをつぶってみせました。

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