第12話 天国のち地獄、からの崩壊
すやぁ。
すーすー。
「圭はかわようござりんす」
「そんなにあちきの尻尾がいいんでありんすか」
圭は玉藻前のふわふわな九尾の上で穏やかな寝息をたてている。
少し前まで玉藻前と狐たちのもふもふに囲まれて圭は大はしゃぎで遊んでいて今は遊び疲れて眠ってしまった。
ふわふわの尻尾に乗っかって眠る圭の頭を愛おしげに優しく撫でる玉藻前。
そしてその周りで同じようにくつろぐ狐たち。
吹く風が心地よく、そこはもうもふもふによる
この日は土曜日でアイナとエルナはまだ来ておらず、村正はお義母様の手伝いでポイント稼ぎをしているために自宅にいる。
村正は力を使いしっかりと監視しているが手を離したくても離せない状況。
時折、圭はくすぐったそうに身じろぎするものの気持ち良さそうに眠り続ける。
玉藻前はすでに悪性はなく善性を持つあやかしではあるが、最強の一角であるために人が不安を抱かぬように隠れ住んでいた。
人の子と触れ合ったのは圭が初めてである。神社に住み出してからは何度も圭と遊び、もう愛おしくてたまらない。
先ほどはそれに反応するかのように、ぽんぽんっと狐たちが次々と現れて圭を取り囲んだ。
「圭はきっと今より罪深い男になりんす」
「将来はあちきを娶ってもらいんしょうか」
あやかしや付喪神たちには圭から清らかな心が感じとれ、玉藻前は圭にすぐに堕ちデレデレとするまで早かった。
穏やかな時間が過ぎていくが、それは絶対に許せないとばかりに
その後すぐにアイナとエルナもやってきて混迷を極めるが玉藻前がゆっくりとした動きでそっと行動する。
ただ人差し指を唇に当てただけ。
圭を起こさないようにと意思表示した。
村正の瞳は昏く揺らめいているが圭を起こすわけにはいかないと苦渋の決断をする。
エルナもまた圭を起こすわけにはいかない。
アイナはあまりの眩しさに倒れた。
だが、その均衡はすぐに破られる事になる。
ゆっくりと圭の瞼が開き、目覚めていく。
「起きたのでありんすね」
「たまもお姉ちゃん、おはよー」
「おはよう。ふふっ、かわゆうござりんす」
玉藻前は溢れる衝動に従った。
「圭、大きゅうなったらあちきと結婚してくれんすか?」
「たまもお姉ちゃんとけっこん? うん、するー!」
もちろん圭は深く考えずに、遊んでくれてありがとうくらいの気持ちで返事をしていた。
その時、奥からおやつを食べにおいでと友紀恵が圭に声をかけて圭は去っていく。
圭からの言葉に顔を赤らめ、デレっとする玉藻前。
それと同時に一気に底知れぬ昏い闇が辺りを包み込んだ。
「危ないでありんすなあ」
明確に首を刎ねるために振るわれた刀を指で摘んで受け止める玉藻前。
「婚約者のあちきが死んだら圭が悲しみんす」
先ほど玉藻前は引き金を引いたが重ねて引く、止まらない。
「玉藻前ーー!!」
昏く澱んだ瞳を向け、全身を深い闇で纏った村正が先ほどより鋭く斬り込むも弾かれてしまう。
「チッ、許せない許せない殺す殺す殺す」
「あんたたちだけで盛り上がってるんじゃないわよ、圭は私の眷属になるのよっ!」
聞き捨てならない言葉を聞き、玉藻前に触発されたツンデレさん本領発揮。
「かわいい圭くんは私の弟、そして私は圭くんのお姉ちゃん! 弟はお姉ちゃんと結婚するのが真理です!」
いつの間にか復活したお姉ちゃん本領発揮。
四つ巴の戦、
事ここに至っては全員が全員ともに敵。
よって魔女の本領を発揮と言わんばかりに存在そのものを消滅させる劇薬を散布する。
少し影が薄くなっていたお姉ちゃんは圭を独り占めするために
「アイナっ! なんてものを撒き散らすのよっ!」
エルナは翼で風を引き起こし、村正は一気に上空に飛び、玉藻前は暴風を吹き荒らせ霧散させる。
エルナはお返しとばかりにアイナに眷属をけしかける。
コウモリたちに至るところから血を吸わせ干涸びさせるつもりでいる。
ツンツンしてる場合ではなく、エルナもまた圭との楽しい時間を独り占めするため
2人が争っている間に最大の目標である玉藻前を仕留めようとするのは、いついかなる時も
「玉藻前、さっさと斬られてしまえば楽になりますよ」
「村正は危ないでありんす」
玉藻前は楽に応戦するが、圭の婚約者は自分であると
しかし唐突に終わりを迎える。
「「「「あっ」」」」
圭が戻ってくる気配を感じ取り、即座に離れようとしたが4人は失敗を犯す。
離れ際に一言、それぞれが敵意のある言葉を放つ。
それを圭は聞き取ってしまう。
4人が言い争っているのを聞いた圭。
その結果。
「みんな、きらい!」
とだけ言い、祖父母の元へと走り去っていった。
その瞬間、あくまで皆の心象風景だが……世界がひび割れた。
「圭、待って! これは違うのよっ!」
エルナは胸が張り裂けそうな痛みを抱える。
「圭くんのお姉ちゃんなのに、お姉ちゃんなのに」
アイナは狼狽し、動悸が治らない。
「あぁ……圭……」
玉藻前は盛大に病んだ。
「圭くんに嫌いって嫌い嫌い嫌い嫌い嫌いって言われた言われた言われた、私には圭くんしかいないのに圭くん圭くん圭くん圭くん圭くん、好きなの大好きなの愛してるの、こんなにも愛してるのに愛してるのに他には何も何も何もいらないのに圭くんさえいればいいの、私の全てを捧げる全て何もかも捧げて愛し尽くす愛する愛する愛する、でも嫌いって嫌いって嫌いって、あははははははははははははははははははそれならもう全て滅ぼそう滅びてしまえばいい斬る斬る斬る何もかも斬る、圭くんと私だけになればいい!」
「でも、んんーあぁ♡ 圭くんから傷つけられるのすごく気持ちいい♡ こんなの初めて知っちゃった♡」
村正は一変して恍惚の表情で
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